劇場の幕が下りて、一人の男が舞台の袖から現れた。
ぺこりと観客に頭を下げたその男。ゆっくりと語り出す。
『――皆さん、最後までご覧いただきまして、本当にありがとうございました。
我々の日常を取りまく情勢は、ここしばらくの間にすっかり変わってしまいました。
今までは当たり前のように訪れていた明日が、必ずしも同じように訪れるとは限らない、そんな毎日だと思います。
そんな中で我々は、必死に立ち上がり、歩き始めようとしています。
今までのような毎日ではなく、全く新しい一日を。
これからは、我々ひとりひとりが、自分の人生や、本当のしあわせとは何か、ということを考える必要があります。
今までのように、誰かをうらやんで、それを模倣するような毎日ではなく。
本当の、自分が感じることができる――しあわせとは何か、をです。
必ずしも、毎日を歩き続ける必要はありません。
休むことも、明日を歩き出すためには必要なことだからです。
大切なのは、勝つことではありません。負けないことなのです。
もし――万が一にでも、この映画から何かを感じ取ってくだされば、この上ない幸いです。
それでは皆さん。お帰りの際は、お足元にお気をつけて――』
――お忘れ物の、ございませんように。
『カナンなんかじゃない』<END>
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4月21日 一部キャラクター名の誤記を修正しました、申し訳ありませんでした。