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あなたの街に、魔法少女。

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あなたの街に、魔法少女。

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●今の魔法少女は、こんなこともするんですねー。

「私、飛鳥豊美、13歳。ここパラミタで、魔法少女をやらせてもらってますー。
 魔法少女は、今日も皆さんに、平和で安心な暮らしをお届けしますー。
 『あなたの街に、魔法少女。』よろしくお願いしますー」

 カメラを回していた飛鳥 馬宿に向かって、飛鳥 豊美(あすかの・とよみ)がポーズを取りながら、事前に用意された脚本通りに言葉を紡いでいく。
「……はい、いいでしょう。お疲れ様でした、おば……豊美ちゃん」
「はー、慣れないことしたので緊張しましたー。今の魔法少女は、こんなこともするんですねー」
「実際に行動することも無論大切ですが、メディアに訴えることも魔法少女のイメージ向上のためには必要なことです。
 私が記憶していた限りでは、これらメディアの力を利用するには少なからぬ元手が必要だったはずですが、今では安価な媒体があるようです。幸い、スポンサーも見つかりましたし、これで当面の経営は安泰と言えるでしょう」

 『INQB』が企画した旅行ツアーにより、『魔法少女』という存在が人々の目に触れるようになり、同時にツアーの結果が魔法少女というイメージに悪影響を及ぼしかけていた頃、『豊浦宮』は設立された。
 『あなたの街に、魔法少女。』をスローガンに掲げ、魔法少女のイメージ向上を図るべく活動を開始した『豊浦宮』の下には、様々な形で協力しようとする者たちが集まっていた。馬宿の言うようにスポンサーも当てが付き、広告や宣伝を用意することが出来るようになっていた。豊美ちゃんの先程の振る舞いも、それらの一環であった。

「収録お疲れ様です、豊美ちゃん」
「あ、シャーロットさんもお疲れさまですー。歌の方はどうでしたかー?」
 馬宿から話を聞いていた豊美ちゃんに、別の場所で歌の収録をしていたシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)が労いの言葉を掛ける。彼女は魔法少女のアピールとして、豊美ちゃんが出演する映像作品の制作、及びその主題歌を自分と、十二星華の一人、セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)とのユニット『Les Leonides』が歌うことを提案していた。
「ええ、私の方は滞り無く済みました。セイニィはスケジュールの都合がつかず後の収録になりますが、近い内に完成版を納品することが出来ると思います」
「わー、楽しみですー。……それにしても、シャーロットさんが持ってきた映像、あの映像は一体誰がどこで撮ったものなんですかー? 私、撮られてるなんて全然気付きませんでしたー」
 感心したように頷く豊美ちゃん、映像作品の本編は主にシャーロットが用意したという映像で構成されていたが、中にはプライベートなシーンもあり、豊美ちゃんの疑問も尤もと言える内容であった。
「それは、申し訳ありませんがお答え出来ませんね。言えば私の探偵生命に関わりますので」
「わー、ごめんなさいですー。分かりました、聞かないでおきますー」
 口を塞ぐ仕草を見せる豊美ちゃんを、別の人と話をしていた馬宿が呼ぶ。
「豊美ちゃん、次の収録の準備が出来たそうです。別室への移動をお願いします」
「あ、はーい、今行きますー。ではシャーロットさん、失礼しますー」
「ええ、では」
 ぺこり、とお辞儀をして、そして去っていく豊美ちゃんを、シャーロットが見送る。


「アーアー、テステス……。永太、どうですか?」
「うん、感度良好。問題なく聞こえているよ、ザイン」
 その別室では、向けられたカメラに向けてマイクの調整をする燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)と、PCの前で具合を確認する神野 永太(じんの・えいた)の姿があった。二人は、豊美ちゃんに魔法少女に関する質問を行い、その様子をネットを用いて生配信する試みを提案してきたのだ。
「お待たせしましたー」
 そして、調整があらかた終わった所に、タイミングよく豊美ちゃんが入ってくる。豊美ちゃんも二人の提案を快く受け入れ、今から生配信が行われようとしていた。
「じゃあ、豊美ちゃんはそこに座って」
「はいですー。ザインさん、よろしくお願いしますねー」
「はい、こちらこそ、よろしくお願いいたします」
 向かい合う形で、豊美ちゃんとザイン、二人の魔法少女がぺこり、とお辞儀をし合う。
「それじゃ、十秒前ー。……三、二、一、スタート!」
 永太の声が終わると同時、ネットに繋がったPCには、ザインの顔が映し出される。
『皆様初めまして。私、燦式鎮護機 ザイエンデと申します。長いので、ザイン、と呼んでいただければと思います』
 ザインがそう口にした直後、画面上を『88888888』『うおおおかわええぇぇ!!』『ザインちゃーん!!』といった言葉が流れていく。どうやら生で放送を観ている視聴者が、言葉をそういった形で送ることが出来るシステムらしい。
(よし、注目はされているようだ。……しかし、不特定多数の視聴者にザイン、と呼ばれるというのは……)
 そんな、ちょっとしたジェラシーを永太が感じているとはいざ知らず、ザインは豊美ちゃんに質問を行っていく。
『今回豊美さんは『豊浦宮』という会社を設立されましたが、このような事態に至る経緯や、今後の運営方針など宜しければお聞かせ願えませんでしょうか』
『はいー。私はこれまで長い間、魔法少女をやらせてもらっていました。そこでは、皆さんの生活を影からお守りする、という役目で、私も魔法少女とはそういうものだと思っていました。
 ……ですが、最近になって、魔法少女という存在が明るみに出てきたと思います。中には、魔法少女のイメージを損ねてしまうような、よくないことをされている方もいるようです。
 私は、魔法少女とは、皆さんに平和で安心な暮らしをお届けするものだと思っています。……こういった形で皆さんと関わることが、本当に正しいことなのかどうかは、今は分かりません。ですけど、やってみないことには、何も始まりません。
 だから私は、『あなたの街に、魔法少女。』を掲げ、『豊浦宮』を設立しました』
 言い終えた豊美ちゃんに対して、数々のコメントが寄せられる。全部が全部いいことばかりではないが、概ね豊美ちゃんの意見を支持する内容だな、と永太は思い至る。
『先程、『あなたの街に、魔法少女。』と仰られましたが、具体的にはどのようなことをされるのですか?』
『ここパラミタには、私の他にたくさんの魔法少女がいるんです。その皆さん一人一人が、自分の住んでいる街を少しでも良くしようという思いで活動をしています。この放送を観てくれている皆さんの街にも、魔法少女がいて、皆さんのために活動をしています、そんな思いを込めて『あなたの街に、魔法少女。』とつけました』
 画面を『おいちょっと魔法少女探そうぜ』『バカ、野暮なことすんなよ』といったコメントが流れていく。
『皆さんの活躍で、街が安全になるといいですね。最近では『INQB』という会社が、魔法少女を売りに人々を騙す事件を起こしました』
『はい……あんな事件が起きてしまったことは、とても悲しいですし、魔法少女として重く責任を感じています。『豊浦宮』としても事件の究明に努めたいと思いますし、もう二度とこのような事件が起きないよう、対策をしていきたいと思います』
『皆様のご活躍を、お祈りいたします。……以上で、豊美さんへの質問を終わりにしたいと思います。豊美さん、お付き合い頂き、どうもありがとうございました』
『いえいえ、こちらこそどうもでしたー』
 ぺこり、とお辞儀をし合う二人に、惜しみ無い『88888888』のコメントがもたらされる――。

「はー、あんな感じで良かったですかねー?」
「十分でしょう。……一瞬、おば……豊美ちゃんが存命だった頃の姿を思い出しましたよ」
 生配信を終えた豊美ちゃんを、馬宿が労う。
「むー、存命って聞くと、まるで今の私が死んじゃってるみたいですよー」
「そう言う他ないではありませんか」
 そして、二人がそんな会話を交わしながら去っていくのを見送った永太が、今配信した映像を今度は地球向けに再配信するべく、編集作業に取り掛かる。
「永太、一つ提案があります」
 そこに、着替えを済ませたザインが戻って来て、永太に詰め寄るように声を掛ける。
「ど、どうしたんだい、ザイン」
 少しだけ気圧されながら視線を合わせる永太に、ザインが至極真摯な表情で、

「……歌は、必要ではないのですか?」

 そう、告げる。
「……あ、ああ、歌ね。うん、そうだね」
 ザインの言葉に頷く永太、そもそも当初は、魔法少女であるザインが歌を歌うという手筈だったのを、何時もそれだと味気ないから、たまには変わった活動にもチャレンジしてみようと永太が思い至ったことから、今回のインタビュー企画が生まれた経緯があった。
「そういえば、別の人がこことは別の場所で歌の収録をしていたと聞くしね。今なら話を持っていけば、収録をさせてもらえるかもしれない――」
「さあ行きましょう永太、今すぐ行きましょう」
 永太の言葉を聞くやいなや、ザインが永太を引っ張って連れ出そうとする。
「ま、待ってくれザイン、私は編集作業が――」
 永太の訴えは華麗に却下され、そして二人は曲の収録に向かうのであった。