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貴女に贈る白き花 ~日常と戦いと~

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貴女に贈る白き花 ~日常と戦いと~
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第8章(3)
 
 
「よしっ! 信長、そっちはどうだ?」
「安心せい。既に片は付いておる」
 光条兵器、ブレイブハートで戦場を駆け回った桜葉 忍(さくらば・しのぶ)織田 信長(おだ・のぶなが)と合流する。信長の方も炎を纏った剣で辺りを制圧し終えていた。
「お疲れ様。これで殆どの盗賊は倒したわね。それじゃ、どんどん縛り上げて行きましょ。貴方達も手伝って頂戴」
「あぁ、捕縛は任せて貰おう」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)を呼ぶ。カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)イルマ・レスト(いるま・れすと)もそれに加わり、次々と盗賊達を拘束して行った。
「ついでに警察にも連絡して護送の手配をしておかないとね。あ、それとも直接国軍を呼んだ方がいいのかな? 荒野だし」
 ある程度の捕縛が完了した所で、ルカルカがそんな事を思い付く。数だけはいる盗賊達を連行するならと、教導団の方に連絡を取る事にした。
「あ、もしもし、今日依頼の出ていたシャンバラ大荒野でのトラック強奪事件ですけど――え? ルカルカ? 誰ですかそれ。私はただの一般人ですよ」
 ちなみにルカルカは普段とは違って髪を結い、カチューシャをつけて変装していた。元々D級四天王の称号も持つルカルカにとって大荒野はよく出歩く場所だったが、キマクがエリュシオン帝国に占領されてからは様子を見るという目的も加わっていた。その際は今回同様、正体を隠す為に変装して行っているのだった。
「お忍びって奴か」
 携帯電話でやり取りするルカルカの姿を見ながらカルキノスがつぶやく。結局彼女は電話を切るまでの間、ずっと『ただの一般人』で通しきっていた。
 
(忍さん――忍さん!)
「――! この声は……レンちゃんか?」
「どうしたのじゃ? 忍」
「レンちゃんが話しかけてきてる。ちょっと待ってくれ」
 忍の頭に直接声が響いた。何事かと尋ねる信長を制して精神を集中し、声を送ってきたパートナー、柊 レン(ひいらぎ・れん)に感応させる。
(レンちゃん、どうした? 確か迂回しながら神殿に向かってるんだよな? 何かあったのか?)
(大変です、香奈さんが捕まっちゃいました!)
「何だって!?」
 思わず声にでてしまう。その声に周囲が驚くが、忍はそのまま更に精神を集中させていった。
(どういう事だ? 神殿への突入は失敗したのか? 香奈はどうなった?)
(い、いえ。途中で見回りの盗賊に見つかったんです。香奈さんは今目の前にいますけど、私達も身動き出来ません)
(分かった、俺がすぐ行く。だからそれまで何とかして相手を引き止めていてくれ!)
 レンとの繋がりを解き、天馬オーロラハーフに跨る。そして事態が掴めずにいる信長達に向けて簡潔に叫んだ。
「香奈が途中で捕まった! 俺は助けに向かうから、こっちは頼む!」
「……うむ、ここは我らだけで大丈夫じゃ。必ず助け出すのじゃぞ!」
 精神感応でやり取りをしていた事が分かっている信長が瞬時に理解し、忍を送り出す。その声が聞こえるかどうかという所でオーロラハーフが飛び立つと、一路迂回組が向かった道を目指して羽ばたいて行った。
 
 
「……」
「…………」
 赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)那迦柱悪火 紅煉道(なかちゅうあっか・ぐれんどう)の戦いは尚も言葉無きまま続いていた。
 霜月が近づくのを紅蓮道が一薙ぎして牽制する。逆に紅蓮道が炎を纏った一撃を放とうとすると、その隙に霜月が肉薄しようとしてまた薙ぎ払いによる牽制に切り替えさせられるといった形で、一進一退の攻防が続いていた。
(切っ掛けが欲しい所ですが、自分から動くのは危険ですね。さてどうしたものか……)
 戦いながら霜月が考える。彼がもっと積極的な攻勢に出られないのには理由があった。霜月の後ろには四人の子供達がいるからだ。
 神殿でオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)が考えた事と同じであるが、炎相手に後方を庇いきる事は難しい。ましてや護る対象は四人なのだ。
 更に、岩の上に立ったままの火天 アグニ(かてん・あぐに)も気になる存在だった。アグニ自身は手を出さないと言っているが、どこまで本当かは疑わしい。もっとも、アグニとしては本気で手出しするつもりは無いのだが、神ならぬ人の身である霜月はそれを推し量る事は出来なかった。
 
 ――そんな時、一人の男が援護に駆けつけた。大剣を携えたその男、樹月 刀真(きづき・とうま)は霜月達の戦いが膠着したのと同時に、二人の間に入り込む。
「刀真さん……」
「すまない、遅くなった……思ったより数が多くてな」
 霜月と刀真は互いが互いを仲間と認める間柄だった。霜月が家族を護る事を第一に考えている事を知っていた為、彼の姿を見つけた刀真は他の盗賊達を片付けてこちらへと急行してきたのだ。
「ここは俺に任せてくれ。霜月は子供達を」
「……分かりました。相手は炎使いです。気を付けて」
 霜月が子供達の方へと移動する。霜月と刀真、二人は大切な者を護るという志は同じだったが、その手段に多少の差異があった。どちらかというと刀真の方がより積極的に障碍を排除する『攻め』の防御であり、その点からも今分かれた二人の役割は理に適っていると言えた。
「お前もあの盗賊達に加担する者か。ならばあいつ等と同じく、奪われる者の気持ちを教えてやろう」
 ――感じる暇があるなら。そんな言葉を剣に託し、紅蓮道へと向ける。対する紅蓮道は霜月に続く強者が現れた事に心の内で喜びを感じていた。
(護るべき者の為に戦う『正義』の心。命の奪(と)り合いを躊躇わない『悪』の心……素晴らしい、その両者が相反せず共存している。この場に主がいたのなら、その心は歓喜に打ち震えていたであろうな)
 その心を覗かせる事無く、紅蓮道が静かに剣を構える。大剣同士の闘い、その口火を切ったのは刀真だった。
「……はっ!」
 一気に間合いを詰める。対する紅蓮道は霜月の時同様薙ぎ払いで牽制するが、後ろを霜月に任せている刀真は大剣の幅広さを利用して攻撃を受け流し、そのまま斬り込む。
(なるほど、対峙するのは一人であっても、その実二人で立ち向かって来ているような物か)
 刀真の大振りを後ろに下がってかわす。反撃として炎を纏った一撃をお見舞いするが、隙を狙ってくる事を予測していた刀真は振り切った勢いをそのまま利用して紅蓮道から距離を取った。
「好きには……させない……!」
 再び斬りかかる刀真の攻撃を大剣で防ぐ。鍔迫り合いをしながら、紅蓮道は久しぶりの血の滾りに心を震わせていた。
(面白い闘い方をする。この高揚、いつまでも感じていたいものだな)
 剣を跳ね上げ、両者が再度離れる。二人の斬り合いは、互角のまま繰り広げられて行くのだった――