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不思議な花は地下に咲く

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不思議な花は地下に咲く

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―結成!コウフクソウを探し隊

     ◆

 小谷 愛美(こたに・まなみ)は、少し気の重そうな、しかし何処か心躍らせている様な表情で扉を閉める。
聞こえるか聞こえないかわからない様な小さな声で「お邪魔しましたぁ」と呟きながら。
踵を返した彼女は、今まで話しをしていたウォウル・クラウンの家を後にし、帰路につく。
「それにしても……強引だったなぁ……先輩。もし噂話が迷信だったら、誘った人になんて言えばいいんだろ……でもなぁ、ちょっと面白そうだし……」
 誰にともなく述べる言葉も、彼女の表情同様にどこか明るかった。自分の思いつきで、まさか此処まで話が発展するとは思っていなかった彼女ではあるが、なかなかどうして悪い気はしない様だ。
彼女がそんな事を考えながら歩いていると、先ほど去ったはずの建物が目に入る。

自分が今までいた学校――。

そしてその校門の前には、彼女が見知った顔があった。何だかぼんやりと校門から現れた人影を見つけ、愛美が手を振りながら声をかける。
「レアムさんじゃない!」
 人影の正体はルクセン・レアム(るくせん・れあむ)だ。いきなり声をかけられたからか、一瞬肩を竦めるが愛美の姿を見た途端、「ああ、なんだ」と言う表情を浮かべた。
「あんた、先に帰ったんじゃないの?」
「あ、アハハハ……ちょっと知り合いにばったり会って……うーん?あの場合は、『遭遇した』かな?まぁいいや。兎に角、今まで話してたんだ。それよりレアムさんこそ、今帰り?」
「まぁね」
「じゃあ、一緒に帰ろうよ」
 愛美はルクセンの腕に抱きつくと、彼女の返事を聞かずに歩き出す。
「ちょ、待ちなさいよ!まだ良いとは……」
「あれ?確か家、同じ方向だったよね?」
不思議そうな顔を浮かべる愛美は、しかし決してその足を止めない。強引に話が進んでいる為、ルクセンも観念したのか、一度大きくため息をついてから渋々愛美と帰る事にした。
「そういえばさ」
 何かを思い出したのか、ルクセンが言葉を始める。
「あんた、噂話とかってよく耳にする方?」
「……うん?」
 愛美はルクセンのいきなりの言葉に、思わず足を止める。何せその事で、先ほどまで話をしていたのだ。更には、その噂話がきっかけで明日、噂を確かめに行く事になっている。
「何よ、急に止まって」
「いや、うーん……。人並みには?聞くと思うけど?」
「へぇ……そっか」
「何でかなぁ?なんて、聞いてみても良い?」
「特に大した事ってわけでもないんだけどさ。ただ、最近たまーに耳にするのよね。“幻の花”の噂」
「ぎくっ……」
「それ、普通口頭じゃ言わない効果音よね?」
 驚きのあまり謎のリアクションを取る愛美に突っ込みをいれるルクセン。
「ま、まぁ……それはさておきね?レアムさんとしては、その噂話、どう思う?」
「あら、あんた知ってたんだ。その噂話」
 無言で頷く愛美。
「はっきり言って眉唾ものよ。そんな、花を摘んだだけで幸せになれるなんて事が――……って、愛美?あんた何してんの?」
 ルクセンは自分の隣で、懸命に眉に唾をつけている愛美を訝しげに見つめる。
「眉に唾を……」
「……もう何も言わないけど、それだけは違うから。それだけは違うの」
 本当に疲れた様な様子で、ルクセンは再びため息をつき、頭を抱えた。
「それで?何でそんな事聞くのよ」
「え……?」
 ルクセンの質問に暫くぽかんと口をあけ、彼女の顔を黙って見つめる愛美。ルクセンも彼女の言葉を待っている為、必然二人の間にしばしの沈黙があった。
「いや、何その表情。なんかあるから聞いたんじゃないの?」
「いやぁ……そのぉ……」
 苦笑を浮かべたまま、「実は……」と切り出し、今までの話をルクセンに話し始める愛美。一通り話を聞いたところで、ルクセンは「成程ね」と区切り、言葉を続けた。
「へぇ……そんな事があったんだ。それで?明日まで人集めろって、そのウォウル先輩が言ってたの?」
「うん。でもさぁ……もしもそれが迷信で、本当は何もなかったら……って思うと、なんか気軽に誘えなくてね」
 今度は少し真剣に、苦笑交じりにそう言葉を閉じる愛美。どうやら彼女としても、それは真剣に悩むべき事なのだろう。
ルクセンは暫くその様子を見ていたが、しばし空を仰いでから、愛美の方を向く。
「噂話を鵜呑みにしないで、本当かどうかだけ確かめに行く、って言うならあんたも責任は感じないの?」
「え?うん、まぁねぇ……やっぱりそれが迷信だったら、少しは気になると思うけど――」
「よし」
 思い立ったのか、ルクセンが愛美の言葉を遮る。
「いいじゃない。実は私も少し気になってたんだよね。ま、明日は私も暇だし。付き合ってあげるわ、その探索」
「うんと……え?」
「だから、付き合ってやるって言ってるんだけど?」
「ほんとに!?」
突然の大声に思わず耳を塞ぐルクセン。隣では、目を輝かせながら愛美が彼女を見つめていた。
「やったぁ!ありがとう!レアムさん!」
「……声、おっきいから」
「わわっ!ごめんね!」
 申し訳なさそうに、しかし嬉しそうに、愛美はそう言うと、今まで抱き着いていたルクセンの腕を離した。
「じゃあ明日、九時にツァンダの外れのポチ公前で待ち合わせね!」
「はいはい。それじゃあ、明日ね」
 どうやら二人の家は、今いる路地で方向を違うらしい。二人は簡単に挨拶を済ませ、互いの家へと足を向けた。と、愛美が何かを思い出したかの様に振り向き、遠のき始めているルクセンに向けて声をかける。
「そうだ、レアムさん!明日の探索ね、結構危ないらしいから、気を付けようね!また明日ぁ!」
「え?……はぁっ!?」
 その言葉に、思わずルクセンが声を荒げる。が、既に愛美は走って家へと向かっている為、既に姿はなく、当然彼女の言葉は届かない。
「……それ、最初に言いなさいよね。全く」
 終始苦笑を浮かべていたルクセンは、そう呟きながら苦笑のままに、大きく一度伸びをした。
「だったら気合い、入れてかなきゃね」