蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

学生たちの休日7

リアクション公開中!

学生たちの休日7

リアクション

 

ヒラニプラのマニュアル

 
 
「ふぁーあ、今、なん時?」
 ベッドの上で、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、ゆっくりと身体を起こした。
 かけていた毛布が滑り落ちて、ちょっと小振りだが形のいい胸が顕わになる。
 まだ完全に目覚めない頭でぼーっと周囲を見回すと、隣で寝ていたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の艶やかな背中が目に留まった。
 そのままセレアナ・ミアキスが目を覚ますかとジーッと見つめていたが、微かな寝息が規則正しく聞こえてくるだけで、それ以上は何もおきそうになかった。昨夜とは、対照的に静かで穏やかな時間だ。
 とりあえず、意識ぐらいはシャンとさせようと、セレンフィリティ・シャーレットはベッドから抜け出した。
 長い足をストンと床につけると、セレアナ・ミアキスを起こさないように毛布をすり抜ける。一糸纏わぬ裸体が顕わになるが、誰も見る者などいないのだから気にすることもない。もちろん、セレアナ・ミアキスは例外だ。
 シャワーの冷水が頬を打つ。冷たさは、すばらしい気つけ薬だ。流れ落ちる水の雫が、まだまとめていない長い髪から、背中から腰のくびれを通って、発達した太腿から足首へと怠惰を流れ落としていく。
 バスタオルで髪を拭きながらベッドルームへ戻ると、セレアナ・ミアキスが目を覚ましていた。
「おはよう」
「おはよう。シャワー浴びる?」
「うん」
 乱れたショートカットをくしゃくしゃにしながら、セレアナ・ミアキスが答えた。
 セレアナ・ミアキスがシャワーを浴びるうちに、セレンフィリティ・シャーレットはいつものビキニ姿に着替えた。ほとんど、全裸のときと変わっていない感じだが、これが彼女のステイタスでもある。
 コーヒーを入れながら冷蔵庫を漁ると、昨日買ってきたドーナッツの残りが出てきた。
「これでいいや」
 適当に箱を開いてテーブルの上におくと、ナプキン代わりにティッシュペーパーの箱をそばにおく。
「ふう、さっぱりした」
 バスルームから戻ってきたセレアナ・ミアキスが、身体にバスタオルを巻きつけただけの姿でキッチンテーブルに就いた。
「ドーナッツか……」
「何か作る?」
「いいんじゃない、それで」
 熱いコーヒーを飲みながら、二人はもしゃもしゃとドーナッツにかじりついた。
 テレビから、お昼のワイドショーがBGMとなって、ただ流れて行く。
「暇だぁ」
「だって休日だもの」
 突然天井をむいて叫んだセレアナ・ミアキスに、セレンフィリティ・シャーレットがあっさりと答えた。
「でも暇だあー」
「歩哨任務や監視任務よりはましよ」
「それはそうだけどさあ。せっかく二人なのに」
「まあ、昨日は疲れたから、のんびりするのもいいんじゃない」
 組んだ腕の上に顎を載せてぺったりとテーブルにくっついたセレンフィリティ・シャーレットが、零れ落ちたツインテールを左右に広げて下からセレアナ・ミアキスの顔を見あげる。
「まあ、いいかあ」
 ちょっと胸の所のバスタオルの結び目を直しながら、セレアナ・ミアキスが軽く椅子を後ろに倒して言った。
 
    ★    ★    ★
 
「防塵パーツですか。そうですねえ、そちらのお嬢さんの構造ですと、インテーク用のフィルターと、関節部のシールド系のパーツが必要ですね」
 機晶姫用のパーツ屋の中で、店員がフォルテュナ・エクス(ふぉるてゅな・えくす)の仕様を品定めして言った。
「頼むよ、いい部品つけてやりたいんだ。ここなら、いい部品があるって聞いてわざわざやってきたんだよ」
 御弾 知恵子(みたま・ちえこ)が、店員に頼んだ。
 キマクでは、ジャンク部品は豊富だが、高性能の純正品は手に入りにくい。
「うーん、なるべく交換が少ない形にすると、サイクロン式がいいんだが、機晶姫にとりつけるとなるとねえ。無難な乾式フィルターにするしかないかな。関節部は、シリコンカバーでかなり防塵と可動は両立できるけど、さすがに戦闘後はメンテナンスは必要だね。サポーターのような形状で、脱着式にすればかなり使い回しはよくなるけどどうします?」
 店員が、サンプルの写真を見せながらいろいろと説明してくれた。
「じゃあ、そのリーズナブルな奴で。後、何かほしいものはあるかい?」
 御弾知恵子がフォルテュナ・エクスに訊ねた。
「そうだなー、関節自体も新しくしたいし、装甲とか、オイルとか、塗料とか……」
「ううっ」
 フォルテュナ・エクスの希望に、ささっと背をむけた御弾知恵子がお財布と相談した。
「後、顔の皮膚や髪の毛も新しくしたいし……、戦闘で結構痛むんだよね」
「うん、たまには女の子らしいことも言うじゃん。よおし、なんとかしよう」
 悲鳴を言う財布の口を黙らせて、御弾知恵子がドーンと胸を叩いた。せっかくパートナーが、女の子らしいことに目覚めたのだ。ここでどうにかしてあげないでどうする。
「OK? やったぜ! じゃあ終わったら新しい服も買おう!」
 フォルテュナ・エクスは、まったく遠慮なしに叫んだ。
「じゃ、後でヒラニプラ鉄道に乗って空京まで行こうよ。そこで服買って、食事だね
 その一言に、御弾知恵子のお財布がヒットポイント0になった。