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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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第3章(2)
 
 
「花梨、皆、無事か?」
 戦いが続く中、入り口から篁 透矢(たかむら・とうや)が姿を現した。近くにいた篁 花梨九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が最初に気付くが、同時に透矢の右腕に視線が行く。
「透矢さん……! 透矢さんこそ大丈夫なんですか?」
「これは……酷い怪我だね。透矢、君が姿を消してた事と何か関係が?」
「まぁちょっとな。それより、こっちの状況は?」
 前方で行われている戦いを見ながら透矢が尋ねる。花梨達が現在の状況と魔法生物の特徴を伝えると、透矢はそのまま前へと出ようとした。
「地球人の攻撃でのみ対処出来る相手か。なら俺も――」
「ちょっと待った透矢。まさかその腕を放っておくつもりかい?」
「今はこっちを片付けるのが先だろ? 別に俺の方はそれが終わってからでも構わないさ」
「君が構わなくてもこっちが構うよ。とにかく、私としてはこのまま戦わせる訳にはいかない。まずは治療を受けてくれ」
「ロゼさんの言う通りです。透矢さんはただでさえ周りを優先しがちなんですから、少しは自分の事も気にして下さい」
 回復役の二人が引き止める。更にルカルカ・ルー(るかるか・るー)が花梨達を後押しした。
「そうそう、ここはルカ達に任せて。パパっと終わらせちゃうから」
「何たってこっちにゃうちの電算機がいるからな」
「機械扱いするな」
 ルカルカの後ろにはカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)もいる。自信たっぷりなルカルカ達といつも通り冷静なダリルを見て、透矢は彼女達に後を託す。
「分かった。俺も治療が終わったらすぐ援護に入るから、それまで頼んだ」
「多分片が付く方が早いと思うけどね。それじゃ、ゆっくり見物してて」
 三人が再びスケルトンの方へと向かって行く。残されたのは透矢と、治療をする花梨とローズの二人、それから七誌乃 刹貴(ななしの・さつき)だ。
「あんた、透矢って言うのか……へぇ」
 値踏みするように透矢を上から下まで眺める刹貴。その中でも特に注目しているのは、やはり負傷している右腕だった。
「その傷、誰かとやり合った物だろ……全く、どこの馬鹿だい? そんな羨ましい真似をするのは。せっかく宿主サマの意向であんたらの味方をしてるってのにさ、そんな事をされたら俺まであんたみたいな実力者との殺し合いを愉しみたくなるじゃないか」
『おいコラ刹貴! 喧嘩吹っかけるような真似すんなって!』
「冗談だよ。言ってみただけさ、宿主サマ」
 七枷 陣(ななかせ・じん)の抗議を軽く流し、刹貴も前に出る。最早スケルトン達は、彼にとってストレス解消の相手でしか無かった。
『スケルトンっつったら、オーソドックスに光輝が一番なんかな? 刹貴、オレの身体を使うならせっかくや、やってみ』
「魔法はあんまり好みじゃないが……ま、ご意向通りに」
 バニッシュを放ち、少し先のスケルトンに光をぶつける。その間にもちゃっかりと近くの敵に対して蹴りを入れる事を忘れない。
「やっぱり骨なら光か火よね。これも受けなさい!」
 今度はルカルカが光の閃刃でスケルトンを刻み、動きの鈍った所を炎の戦槌で打ち砕く。その勢いは最早戦術兵器と呼べるほどだろう。
「ザカコ……頼む」
「任せて下さい、ダリルさん」
 更にダリルの持つキャンドルによってカタールに炎を纏わせたザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が走り出す。カタールは両腕に刃のついた特殊な格闘武器。だが、ザカコはその特殊な武器を愛用していた。そしてダリルも同じく、カタールに似た光条兵器を使う者である。
(普通なら自分の身をも焼いてしまいそうですが、さすがはダリルさん。カタールの特性を良く理解した上で炎を加えてくれています)
 炎ごとカタールを操り、片刃をスケルトンに突き刺す。そうした上でもう片方の刃で今度は面での打撃を行い、炎と物理両方のダメージを与えていった。
「カタールが突きや斬撃だけだと思いましたか? 甘いですね」
(あの技量、流石と言うべきか。しかし、剣を冠する種族でありながら、ただ見ている事しか出来ないとはな……)
 内心でダリルを賞賛するザカコ同様、彼を称えるダリル。その内には自身が直接戦力になれない悔しさも秘めていたが、その僅かな表情の変化に気付く者は誰もいなかった。
 
「ふむ、随分派手にやっとるのぉ」
 部屋のそこかしこで聞こえる戦いの音を聞きながら座頭 桂(ざとう・かつら)が首を廻らせた。彼は盲目だが、その分発達した聴覚などを頼りに戦う剣士である。
「ところでれおん。すけるとんとは何のこっちゃ?」
「骨だけの人の事だよ、桂さん!」
 桂に付き添っている九条 レオン(くじょう・れおん)が元気良く答える。レオンは最近起きた盗賊によるトラックの襲撃事件に関する出来事により、ローズが受けた依頼に同行する事を許されていた。その為、今回は頑張ろうとかなり意気込んでいる。
「骨? そいつはおぞましいのぉ……こら見えんで正解やな。しかし、骨ねぇ……」
「どうかしたの?」
「骨っちゅうたら燃やすのが早いんかな」
「うん、そうだと思うよ。皆やってるし」
「そんならこんな手はどうやろ」
「……うん……うん、それいいかも! 皆に聞いてみようよ!」
 桂に耳打ちされたレオンが名案とばかりに頷く。そして全体の戦局を把握するように立っているダリルの下へ向かい、桂の案を伝えた。
「ふむ、丁度俺達も纏めて叩く手を使う所だった。せっかくだ、二つの手を組み合わせてしまおう」
「じゃあレオン、頑張って穴を掘るね!」
 レオンがライオンの姿に戻り、プライド(群れ)を率いた父のように高らかに吠える。そのまま部屋の中央まで進むと、一気に落とし穴を掘り出した。
「さて、穴を掘りきるまではれおんを護らんとな」
 中央に出るという事は当然ながら敵の攻撃に晒される事を意味する。そんなレオンの行動を妨害されないように、桂は刀を構えてスケルトンを牽制しだした。
「護る為の剣か……なんやおかしい気分や。わたしの無くした記憶に関係あるのかもしれんな」
 更に別方向を護るようにカセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)ジュディ・ディライド(じゅでぃ・でぃらいど)もレオンの周囲に立つ。カセイノは槍で薙ぎ払うように敵を追い払い、ジュディは関節に集中してブリザードを放つ事でスケルトンの動きを鈍らせる。
「何となくやりたい事は分かったぜ。こっちは俺に任せな!」
「ダメージを与えられんのならこうじゃ。我が無能役では無い事を見せてくれる」
 
「なるほど、あそこがゴールって訳か。んじゃあ淵、ヘル、俺達で追い込み漁と行くか」
「うむ。体は小さくとも、この夏侯 淵(かこう・えん)、亡者などに遅れは取らぬ」
「よっしゃ、気合入れて追い込んでやるぜ!」
 カルキノスと淵、そして強盗 ヘル(ごうとう・へる)が全長50mにも及ぶ登山用のザイルを手にして並ぶ。そしてそれぞれが別方向へと散ると、ザイルを使って強引にスケルトンを纏め始めた。
「俺とカルキノスはいいが一人ちみっ子がいるからな、届くように低いポイントで追い込んでくか」
「ちみっ子言うな! 例え体格の小ささを自覚していてもその呼ばれ方には異を唱える!」
「悪い悪い、飴やるから機嫌直せって」
 軽口を叩きながらも素早く部屋を駆け巡る。ザイルに引っ掛けられたスケルトン達は徐々に一箇所に集められ、そのまま穴の方へと追いやられて行った。
「この気配、来たようやね。れおん、準備はえぇか?」
「大丈夫だよ桂さん! レオン頑張った!」
「さよか。なら退こか」
 レオンと、護っていた三人が素早く穴から避ける。タイミング良くカルキノス達がそこにザイルの中心を持って行き、穴の中に次々とスケルトンを落としていった。
「これは餞別や。直接効かなくても熱する効果はあるやろ」
 桂が普段使っている杖に火を点け、穴に投げ込む。そうして砕け易くなった所に、地球人達が止めの一撃を放つべく飛び掛った。
「ちみっ子達、援護ご苦労。さて、当方手癖は言うに及ばず、それ以上に足癖が悪う御座います。お気をつけ下さいませ……ってね」
『ちみっ子言うな!』
 ジュディと淵の抗議を無視し、刹貴が蹴りを放つ。
「そろそろ頃合いですね。これで決めましょう」
「契約者が鍛えるとどこまで強くなれるか……見せてあげる!」
 ザカコが更に爆炎波を纏ったカタールを振り抜き、ルカルカも同じく炎を宿した槌に自身が持てる全ての力を上乗せし、振りかぶる。
「この一撃で……光になりなさい!」
「ようやく終わり……疲れましたわ」
 もう一人のハンマー使い、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が光り輝く得物を力強く構えたかと思えば、これまで多くの敵を相手するハメになったリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)が精神的な疲労も含めた表情でメイスを握る。そして――
「シャンパラ名物、トマスでチョップ!」
「……俺もトリッキーな動きをする方だけどさ、さすがにこれは真似たく無いな」
 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)を意気揚々と振り回すテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)を横目で見ながら高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)が刀を構える。全員の攻撃が集中して穴に落ちたスケルトン達が全て砕け散り、そして跡形も無く消え去った。
「皆、凄い攻撃だね。これでこの部屋は片が付いたかな?」
「そうみたいだな。それにしても……本当に治療が終わる前に終わっちゃったな」
 ローズと、治療を受けている透矢が穴に飛び込んだ者達の勇姿を見届ける。二人の言う通り沢山いたはずのスケルトンは全て破壊され、そしてそれによって結界の方へと伝わっていた魔力も霧散していった。
「これで終わりか! いやぁ、実に激しい戦いだった!」
 散々トマスを振り回していたテノーリオが満足そうに穴から出て来る。その下では、振り回された本人が小さな声で嘆いていた。
「うぅ……バカになったらどーするんだよぅ……」
 振り回されていた時ですら兄と慕うテノーリオに突っ込めなかったトマスのつぶやきは部屋に響く事も無く、空しく掻き消えるのみであった――