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長雨の町を救え!

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長雨の町を救え!

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第2章

 なめらかな大理石のようなゴーレムの表面には、うっすらと輝く文字が彫り込まれ、血管のように震えている。一見して、魔力が込められているものだと知れた。
「はあっ!」
 リネンは大きく側面に回り込みながら、左手の銃から次々に弾丸を放つ。が、雨の中、狙いは定まらず、ゴーレムの表皮に弾かれる。
「こっちよ、かかってきなさい!」
 あからさまな挑発だが、ゴーレムに対してはそれなりに効果があったらしく、首をめぐらせ、長い足でのっそりと近づいてくる。動きが鈍いとはいえ、巨体である。一歩の距離が人間とは比べものにならない。
「硬いわね、このっ!」
 ヘイリーが振り返りざまに弓を引き絞り、矢を放つも、それもゴーレムの表皮を浅く傷つけただけだ。ゴーレムが拳を振るうのをすんででかわし、二人して頭へ向けて弾丸と弓を放った。
 銃と弓で肉薄しているのだ。次第に、二人のタイミングがズレはじめる。
「リネン!」
 背後に控えていたユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)が輝く光条兵器をリネンに手渡し、祝福の魔法を唱える。
「いつもなら、こういうのはフェイミィの仕事なのにっ!」
 8の字に大剣を振るい、ゴーレムへとまっすぐに突っ込んでいく。なめらかな表面に向け、勢いよく斬りつける。
 ゴーレムは岩を擦り合わせるような悲鳴を上げてのけぞったが、すぐに両腕を振り回してリネンを突き飛ばした。
「くうっ!?」
 かろうじて剣で受け止めはしたが、雨で足下が滑り、着地し損ねて石畳にしたたかに背を打った。
「あのエロ鴉! 肝心なときにいないなんて!」
 咆吼の代わりに悪態を吐きながら、ヘイリーが弓を放つ。がっきとゴーレムの肩を穿ち、リネンに向けて振り上げかけていた腕の角度を変えさせる。
 その間にユーベルがリネンに駆け寄り、その傷を癒した。
「一人、欠けただけで、こんなにやりにくくなるとは思いませんでしたわ」
「でも、飛び込んで見なきゃわからないこともあるわね」
 具合を確かめるように頭を振り、リネンは立ち上がる。
「あの文字、全身に魔力をめぐらせているみたい。だから、たぶんどこかに魔力を作って全身に流してる核みたいなものがあるはず。形からして、たぶん、背中の真ん中あたり」
「それじゃあ、それを破壊すれば?」
 ヘイリーが問う。リネンが小さく頷いた。
「でも、そのためには後ろを取らないと。足を止めて、誰かが前で気を引いてくれれば……」
「その役目、引き受けたぁっ!」
 ざばぁん! と水の中から跳び上がってきたものが叫んだ。濡れても、不思議と体の動きを邪魔しているようには見えないセーラー服に身を包んだ伏見 明子だ。
「な、なぜ水の中から?」
「私は水が苦手なんだけど、こいつが張り切っちゃってね」
 ぴらりとスカートの裾をつまんで……言い換えれば、魔鎧となったレヴィ・アガリアレプト(れう゛ぃ・あがりあれぷと)を示して、明子が答えた。
「言っとくけど、俺の趣味でこんな形になってるんじゃねェからな」
 そのレヴィが釘を刺すように、セーラー服……魔鎧の姿のまま告げる。
「俺様はもとは海竜だったンだ。水兵ゆかりの姿にしてやるって言われて魔鎧になる契約をしたンだからな!」
 レヴィが言い訳している間にも、ゴーレムが拳を振るう。明子は盾を掲げ、あるいは魔鎧の守りに任せてそれを受け流している。
「ともかく、私はそっちに構わず戦ってるから、やるならとっととやる!」
 明子が槍を掲げ、ゴーレムに向けて突く、払う、打つ。わずかずつだが、ゴーレムの硬い表皮に確実に傷が刻まれていく。
「わー……って、見てる場合じゃない! あたしたちもやるよ!」
 その様をぽかんと眺めていたヘイリーが二人に声をかける。はっとしたように、リネンとユーベルが頷いた。
「さーあ、何が効くか試してあげる!」
 明子が魔鎧の力を引き出す。同調した力で槍に炎を、雷を纏わせてさらに苛烈な攻撃を繰り出す。こうなっては、ゴーレムもリネンらに構っている場合ではない、彼女らに背を向けて明子を狙う。
「行きますわよ!」
 ユーベルが掲げた掌から氷を放つ。雨が次々に凍り付き、その氷が一瞬、ゴーレムの足を地面に縫い止める。わずかにゴーレムが体勢を崩した間に、リネンが一気に間を詰めた。
「これならどう!?」
 光条兵器の輝きが、ゴーレムの膝を裏から捕らえる。ゴーレムの足が崩れ、その場に膝を突いた。
「デファイアント!」
 ヘイリーが叫ぶ。建物の影に隠れていたワイバーンがすぐさま飛んできて、雨の中、首に飛びついた主人を背に乗せ、跳び上がる。
「……上空からなら!」
 上に上がるほど、雨のカーテンが視界を塞いでいることを感じる。それでも、ヘイリーはくずおれたゴーレムの背中へ向け、一矢を放った。
 稲妻のように上空から射られた矢は、これ以上ない角度でゴーレムの背を貫き、致命的な深さまで突き刺さった。核の中央を穿って、その魔力の循環を止めたのである。
 かしずくように両拳を地面につき、ゴーレムはそのまま動きを止めた。
「なるほど、こうやって倒すのね」
 面白がるように、明子が呟いた。
「それじゃあ、次は腕試し。一人でやってみるわ。ありがとう」
 笑って、明子は再び水の中へその身を躍らせた。レヴィの歓声が水の中から聞こえ、やがて遠ざかっていく。
「なんとかなりました、けど……」
 ユーベルがぽつりと呟く。
「あんなにうざいと思ってたのに、まったく、居なくなるとやりにくいわね」
 不機嫌そうに、ヘイリーが言う。
「……でも、なんとかやらなきゃ」
 とリネン。彼女も戦いながら、ここには以内もう一人の仲間の姿を無意識に探していたことを思い出していた。
 ユーベルとヘイリーが頷き、三人はまた別の敵を探し始めた。