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「それでは、エントリーナンバー18番、蒼空学園からお越しの四谷 大助(しや・だいすけ)さんとグリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)さんです。どうぞ」
 シャレード・ムーンに紹介されて、グリムゲーテ・ブラックワンスが、四谷大助を引っぱるようにしてステージ上に現れた。
「今日のお宝は、ブラックワンスさんの家の家宝だと聞いていますが、本当なのでしょうか?」
「もちろんよ!」
 自信満々で、グリムゲーテ・ブラックワンスが答えた。
「とりあえず、大助に貸してるけど、本来はブラックワンス家当主が代々持っている物なの」
「ええと、複雑そうなので、VTRを用意いたしましたから、そちらをどうぞ」
 
 今はなきブラックワンス家は、十三代続いたとされる名家である。現在、グリムゲーテ・ブラックワンスが十四代当主を名乗ってはいるが、正式な記録では十三代で直系は途切れたとされている。グリムゲーテ・ブラックワンスが封印されていた間に時が過ぎ、正当な後継者がいないと見なされたせいではあるのだが、家を再興するにはまだ色々とハードルがあるようだ。頑張れ。
 このブラックワンス家の当主の証しとして用いられてきたのが、今回の依頼品の魔拳ブラックブランドなのであった。
 形状は人が使うにしてはかなり大きい手甲で、漆黒の金属によって作られている。甲に刻まれているのはブラックワンス家の紋章だ。実は、この家紋が価値ある力の源で、代々の武具から家紋を移した物が『ブラックワンス』――『黒の最たる一』――と呼ばれる武具になるのだという。今回は、たまさか手甲に家紋が刻まれたと言うべきなのだろうか。
 現在は、グリムゲーテ・ブラックワンスを目覚めさせた、彼女のパートナーである四谷大助の物となっているので、しきたりに則れば十四代目は四谷大助になるのではないかという、実にややこしい状況である。
 さあ、いわくてんこ盛りのこのお宝、はたしていくらの値がつくのか?
 
「なんだか年季が入ったアイテムだよね。少しでいいから試しに使わせてくれないかなあ」
「人のお宝なんだから、そうそう自由にできるわけじゃないんだぞ」
 鑑定の仕事が終わったので、さっさと観客席に引き上げてきたダリル・ガイザックが、ルカルカ・ルーに言った。
「ちぇっ、せっかくダリルの手伝いができると思ってたのにぃ。こんなことだったら、ルカも何か鑑定してもらえばよかったなあ」
 袋の中に詰まっている破壊のプリズムや、炎のクリスタルや、勾玉や、大きな黒真珠をジャラジャラ言わせながら、ルカルカ・ルーがダリル・ガイザックに甘えた。
「限定品かあ、いいですねえ」
 オンリーワンである依頼品を、鬼龍貴仁が面白そうに見つめた。
「ああ、いいわよねえ、いわくつきのアイテム、しかもオンリーワンですって。なんでそんな物持ってんのよ。くやしい〜」
「まあまあ、お嬢。オンリーワンなんて物は、価値だってそいつだけのオンリーワンってこともありまさ。自分らが手に入れてもゴミになることだってありますぜ」
 ヴィゼント・ショートホーンが、数々のレアアイテムの登場に興奮気味のリカイン・フェルマータを慰めた。
「そうだけど、悔しいじゃない」
「まあ、お嬢にとっては、自分らがレアアイテムと言うことで……」
「ちょっと待って、今、何かいいこと言ったと自分で思ったでしょ」
「いえ、自分はそんなつもりでは」
 さすがに、ヴィゼント・ショートホーンが言葉に詰まる。
「ぜーったいに思ったでしょ」
 この程度のレア度じゃ満足できないと、リカイン・フェルマータが叫んだ。
「おっと、おばあ様、笹野家には、ああいうのないのですかあ?」
 アンネリーゼ・イェーガーが、笹野朔夜(笹野桜)に訊ねた。
「そうですね、今度暇なときにゆっくりとベッドの下とかを丹念に探してみましょう」
 ――おいっ!!
「わーい、わたくしも手伝いますわ」
 笹野朔夜の意見など無視して、アンネリーゼ・イェーガーが喜んだ。
 
「ということですので、佐々木先生、紫月Y先生、アイゼンシルト先生、鑑定の方、お願いいたします」
 ステージでは、シャレード・ムーンが鑑定士たちを呼び集めている。
「なんだか、今回はこういういわくつきの物ばっかり鑑定させられている気がするのだけれどぉ、気のせいかなぁ」
 ちょっと今回担当した鑑定品のラインナップに疑問を感じて、佐々木弥十郎がつぶやいた。とはいえ、この依頼品はカースドアイテムというわけではないのだが。
「まったくだな」
 紫月唯斗が同意するが、もともと佐々木弥十郎も紫月唯斗も、憑き物やオカルト物の鑑定を得意としているので、少しでもそれらしい物の鑑定が回ってくるのは仕方ないことであった。
「いいじゃないですか。あなたたちは専門なんですから。私なんか、鎧の専門であって、こういった武具の性能はちゃんと評価できますけれど、やれ家系がなんだとかは専門外ですからねえ」
 あくまでも、依頼品の物そのものの価値にこだわって、プラチナム・アイゼンシルトが言った。
「さて、そろそろ鑑定は終わったでしょうか。さて、この家宝、いくらだと思われます?」
 シャレード・ムーンが、四谷大助に訊ねた。
「そういえば、この魔拳、武器として使ってただけで、価値なんてちっとも考えたことなかった。うーん、じゃあ、100ゴルダで」
「ちょっと待ちなさいよ、大助。あなた、うちの家宝をなんだと思っているのよ、家宝なのよ、家宝! もっと高いに決まっているでしょ。10万ゴルダでお願いします!」
 四谷大助のあまりに低い希望金額に、グリムゲーテ・ブラックワンスが憤慨して値をつり上げた。
「では、オープン・ザ・プライス!」
 27000!!
「おおっ、高い!」
「低い!!」
 四谷大助とグリムゲーテ・ブラックワンスが同時に叫ぶ。
「ええと、はたしてどっちなんでしょうか。佐々木先生」
「はい。これは、オンリーワンというところが、高い評価となっています〜。ですが、逆に比べられる物がほとんどないので、はたしてオークションに出してもほしがる人がいるかという問題があるんですよぉ。ですので、協議の末、このお値段に落ち着きました」
「ありがとうございました。現時点ではこの価値ということですね。今後、値上がりすることに期待しましょう」
 佐々木弥十郎の解説に、シャレード・ムーンが納得した。
「誰かほしいと言っても、売りなどはしないわよ」
「はいはい。俺が絶対手放さないから」
「貸してるだけなんですからね!」
 そんなやりとりを交わしながら、四谷大助とグリムゲーテ・ブラックワンスがステージを去って行った。