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    ★    ★    ★
 
「エントリーナンバー12番、イルミンスールからお越しの……」
 シャレード・ムーンが次の依頼者を紹介しようとしたとき、突然会場の照明が消えた。
「ははははははは……!!」
 どこからか高笑いが響き渡ったかと思うと、ステージにスポットライトがあたった。その中に、一人の仮面の男が立っている。
「昨日は東、明日は西。そして今日はここ空京に降臨。あっ、オレオレ、俺だよ俺のクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)、鑑定お願いしまっす!!」
 周囲に雪の結晶を実体化させてばらまきながら、クロセル・ラインツァートが登場した。スポットライトの光を受けて、舞い散る雪の結晶が美しくキラキラと光を反射……。
「はい、ありがとうございました。さっそくお宝を持ってきてください」
 あっさりと大谷文美に照明のスイッチを入れなおさせたシャレード・ムーンが、場を進めた。せっかくの雪の結晶も、周りが明るくなったのであっという間に見えなくなって消えてしまった。
「もうちょっといいじゃないですか。お約束なんですからあ」
「はい、これがお宝ですね。ではオープン!」
 粘るクロセル・ラインツァートをスルーして、シャレード・ムーンが番組を進めていった。
 ワゴンの上の布が取り払われる。
 だが、そこには何もなかった。
「あれ? 俺のメガネは?」
 クロセル・ラインツァートの顔が引きつった。ああ、あのメガネという顔をシャレード・ムーンがする。
 さて、ここにおかれたメガネは、なんと、あの山葉 涼司(やまは・りょうじ)校長が、まだ学生だったころに愛用していたメガネだというのだ。かつて、ヘタレと言われた山葉校長が、ろくりんぴっくで覚醒を果たし、捨て去ったあのメガネである。
 依頼品はないのだが、用意されていたナレーションが会場には流れてしまっている。自然と、シャレード・ムーンの顔が引きつった。
 その後、長らくメガネは行方不明だったのだが、先頃、イルミンスールの森に湧き出したザナドゥの軍勢とともに地の底から飛び出してきたと言われている。むしろメガネが本体とまで言われた山葉涼司校長のメガネ、本物だとしたらその価値は計り知れない。はたして、鑑定結果は!?
「で、そのメガネはどこにあるんですか?」
「何をおっしゃいます。これがあなた方には見えないのですか。さすがは、山葉涼司校長のメガネ、今や、このメガネはバカには見えないメガネへと進化を遂げたのです。はい、ここで拍手!!」
 無茶苦茶な言い訳をしながら、クロセル・ラインツァートが会場に拍手を強要した。よく、この状況を口だけで乗り越えられるものである。
「な、何という珍品!」
 フィーネ・クラヴィスが、よく見ようと目を凝らした。まさか、依頼品が存在しないとは夢にも思ってはいないようだ。
「ええと、とりあえず、鑑定士の先生方、ガツンと言っちゃってください」
 シャレード・ムーンに呼ばれて、佐々木弥十郎と紫月唯斗が現れた。
「ええと、お祓いすればいいのでしょうかぁ」
 祓い串をワシャワシャ言わせて、佐々木弥十郎が言った。肝心の鑑定品が見えないのでは、佐々木弥十郎としてもどうしようもない。
 ――大丈夫だ、私にも見えない。
 佐々木弥十郎の中で、伊勢敦が自慢げにささやいた。
じゃあ、始めますか。こうですか? 臨兵闘者皆陳列在前、ていっ!!」
 九字を切った紫月唯斗が、手刀でバンとワゴンの上を叩いた。
「ああっ、あなた今俺のメガネを壊しましたね。貴重なメガネが粉々に……」
 クロセル・ラインツァートが、あわててワゴンの上で破片をかき集める仕種をする。
「どこ、メガネはどこなの!?」
 観客席では、フィーネ・クラヴィスが目を凝らしていた。
「ブラックメガネとでも呼ぶべきか。さすがは、山葉校長のメガネだ……」
 意味もなく、観客席の鬼龍貴仁がうなずいた。
「さあ、小芝居はこのへんまでと言うことで、鑑定結果をお願いいたします。オープン・ザ・プ……」
「ちょっと待ったあ、ちゃんと希望金額を聞いてください!」
 さっさと進めようとするシャレード・ムーンに、クロセル・ラインツァートが突っ込んだ。
「仕方ないですねえ。いったい、いくらなんですか?」
 面倒くさそうに、シャレード・ムーンが一応訊ねた。
「もちろん、1万ゴルダです。お買いになりたい方はぜひこのテロップまでお電話を……」
 何もない空間を、クロセル・ラインツァートが指でつついた。
「そんなテロップは出ませんから。はい、では、今度こそ、オープン・ザ・プライス!」
 0!!
「な、なんですとー!?」
 クロセル・ラインツァートが叫んだが、依頼品が存在しないのであるから当然の結果である。
「ああ、ついに、本日最低金額が出てしまいました。なお、これは、番組最低金額でもあります。それでは、ありがとうございました」
「ちょっと待ってください、まだ俺にはとっておきのお宝が……」
「ありがとうございました」
 往生際の悪いクロセル・ラインツァートを、東朱鷺がシャレード・ムーンの指示で引きずって退場させていく。
よい子のみんな、危ないから俺のまねはしちゃだめですよ
 最後にそう言い残して、クロセル・ラインツァートは退場していった。
 
    ★    ★    ★
 
「気をとりなおしまして、エントリーナンバー13番、キマクからお越しのゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)さんです」
「ヒャッハー。俺様のコレクションに勝る物なんて、この世には存在しねえぜ」
 自信満々で、呼ばれたゲブー・オブインがわざわざドスドスとステージの床を踏み鳴らしながら現れた。
「それでは、お宝を拝見しましょう」
 シャレード・ムーンが、日堂真宵が運んできたワゴンの上の布を取る。
 そこに現れたのは数々のモヒカンであった。
 オーソドックスな、モヒカン。ちょっとデラックスな、デラックスモヒカン。光る、光るモヒカン。字が違うだけの、喪悲漢。これは珍しい、ちょんまげモヒカン。はっきり言って、名前そのままでもある。
「今回は、会場の外にも特別に中継が繋がっています。大谷さーん、そちらを撮してくださーい」
 シャレード・ムーンの指示で、画面が外の駐車場に切り替わった。ステージ上では、大型のプロジェクタにその様子が映し出される。
「はーい、こちらはあ、駐車場特設会場ですう。今回、大きすぎて中に入らなかった物が、こちらに纏めてならべられていまーす」
 マイクを持ってしゃべる大谷文美の後ろには、喪悲漢ブーメラン+1を装備した愚零吐・ゲブー・喪悲漢と、宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢の二機のイコンがすっくと立っていた。その隣には、二機を運んできたのか、喪悲漢一番星 スター・ゲブー号の姿もある。こちらはモヒカンとは名前だけで、単なるデコトラではあるが。
「どうでえ、俺様の『パラミタ全モヒカンセット!』はよお」
 自信満々で、ゲブー・オブインがふんぞり返った。あわや、後ろにひっくり返りそうになる。
「それでは、ファッション関係と武器関係の鑑定士の先生方に鑑定していただきましょう」
 シャレード・ムーンの進行で、ステージ上では筑摩彩が、駐車場ではジュレール・リーヴェンディ、ダリル・ガイザック、朝野未沙が鑑定を行う。
「ちょっと待ってよ、ダリルったら、なんで外なんだもん。これじゃ、試し撃ちができないんだもん」
 思惑の外れたルカルカ・ルーが叫んだが、いくら駐車場とはいえ、イコンの喪悲漢ブーメランをぶっ放されたら周囲がたまったものではない。
「すばらしいラインナップだよね。特に、このちょんまげモヒカン。ついこの間発売になったばっかりの、最新モードだよ。凄いよ、流行の先取りなんだもん」
 褒めちぎる筑摩彩に、ゲブー・オブインはさらにさらに自慢げだ。
「うむ。イコンの武器か。はたして、我のレールガンとどちらの威力が上かな」
 ジュレール・リーヴェンディが、おもむろに愛用の大型レールガンを構えた。その照準を、愚零吐・ゲブー・喪悲漢の頭部に装備された喪悲漢ブーメランに定める。
五秒で終わらせる……」
「終わらせてどうするんだもん!」
 すぱこーんっと、朝野未沙がジュレール・リーヴェンディに突っ込んで、すんでのところで射撃を止めさせた。
「ふむ、手入れはされているようだが、こんな状態でよく動くものだ」
 ダリル・ガイザックが、イコンの関節部などの汚れを丹念に調べながら言った。
「うーん、うちにメンテナンスで出してくれれば、コアはいじれなくても、周辺部はピッカピッカにしてあげるんだけどなあ」
 朝野未沙も、ちょっと残念そうに言う。
「鑑定品は、モヒカンであろう」
 イコンそのものは関係ないと、ジュレール・リーヴェンディがごそごそとイコンをよじ登っていった。頭の上に立つと、肝心のモヒカンをよく吟味する。
「ふむ、よく飛びそうではあるな」
「あのガキ、俺様のイコンから降りやがれ!!」
 プロジェクタを見たゲブー・オブインが叫ぶが、当然むこうには聞こえていないので、ジュレール・リーヴェンディはやりたい放題である。
 その間に、ダリル・ガイザックと朝野未沙は他のイコンとデコトラをチェックしていった。
「はーい、鑑定結果が今届きました。さて、ゲブーさんの希望価格はいくらでしょうか」
「もちろん、貴重すぎて価値なんかつけられねえ……って言いてえところだが、一応出してやるぜ。いいかあ、耳の穴かっぽじってよく聞けよ、ずばり3の3の3の3の3の3ゴルダだ!! どうでえ、高すぎて目の玉飛び出ただろ」
 残念なことに、一部のパラ実では特殊三進法が使われており、3より大きい数は、すんげー大きいですまされている。
「ええと、とりあえず、オープン・ザ・プライスということで……」
 どうリアクションしていいか分からず、とにかくシャレード・ムーンが先に進めた。
 7000!!
「おおっと、高価格です。まあ、イコン混じってますから、実際は安いのかもしれませんが……」
 ちょっとどう判断していいのか分からずに、シャレード・ムーンが言った。
「ええと、これだけの種類を集めたのは凄いんだよ。まさに、モヒカン・オブ・モヒカンズだよね」
 意外と、筑摩彩はべた褒めである。
「撃ってみたかったのに……」
 奇しくも、会場のルカルカ・ルーと駐車場のジュレール・リーヴェンディが同じつぶやきを漏らす。
「イコンとしては、悪くはなかった。特に、自慢するだけあって、喪悲漢ブーメランはなかなかの物だ」
「でも、デコトラまでコレクションにこじつけたのはやり過ぎなんだもん。だから、そこはマイナスだよ」
 プロジェクタの中で、ダリル・ガイザックと朝野未沙が総評を述べる。
「よかったですね、これからもモヒカンコレクターとして名を馳せてください。ありがとうございました」