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イコン最終改造計画

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イコン最終改造計画

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第1章 道化はどこまで行っても道化なのか

「あっ、もしもしもしもしげんだクン? あのネー、リベンジする機会がきたんだぞよ」

 夏の日差しが天から降り注ぐ大地。シャンバラはその中央、キマクが存在するシャンバラ大荒野にて、ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)は携帯電話越しに笑みを浮かべていた。
 電話の相手は、いつぞやの大乱闘事件で知り合った「硬派番長のげんだ」である。
 先日、パラミタ人のアレックス・レイフィールド(あれっくす・れいふぃーるど)と契約を果たし、契約者となったパラ実生高島 要(たかしま・かなめ)が、今度は荒野を舞台に魔改造イコンの品評会、ひいては自身のイコンの魔改造を行うというのだ。それならば、その要と因縁のあるげんだを呼びつけるのは、ナガンにとっては自然な流れといえた。
 なぜナガンがげんだに対してこのようなお膳立てを行うのか。それは誰にも分からない。誰にでも分かるのは「要がいるからげんだがやってくるのは当然の流れ」であるということである。
「ところでイコン持ってるよな? 硬派なんだから持ってるよな? ボスキャラだよ?」
 今回の趣旨はイコンにあり。前回は生身の人間同士による乱闘だったが、今回はイコン戦が中心となるだろう。それならば、げんだもイコンを持ってくるべきである。彼がイコンを持つとすれば、やはり【離偉漸屠(機体コード:REGE-NT)】だろうか。
「負けたらパワーアップして帰ってくるとか常識だよ? メカ化だよ!?」
 げんだは乱闘の結果、要に負けた。1度負けた者がパワーアップしてリベンジに臨み、そして勝利するというのは、ロボットアニメ、それも「勇者」が頭につくようなシリーズの王道である。げんだもナガンもどちらかといえば単なる不良に含まれる人間だが。
「おおやま、むらかみ、たかはし、ごとう、まつもとも来るよね? っていうかこの際来なきゃダメでしょ?」
 げんだの舎弟として動いていたE級四天王の5人もついでに呼びつけようとする。先日の乱闘がトラウマとなって不良をやめた者は続出したものの、この5人はいまだにげんだにくっついて不良をやめていないらしい。
「もうどうせなら6人一緒にイコンに乗って来なよ。それで戦隊ヒーローだよ? 名前はそうだなァ、硬派戦隊リーゼント5(ファイブ)、いや6人だから6(シックス)か。いいねェ、力を合わせて巨悪に立ち向かう6人の漢(おとこ)! いやァ、しびれるねェ! ギャハハハハハハ!」
「……おい、こら、ピエロ」
 ひとしきり笑うピエロの耳に、不機嫌そうな不良の声が入る。
「お前、何か勘違いしてんじゃあねえか?」
「あン?」
 笑いを止められたかと思えば、次に聞こえてきたのはそのような言葉である。ナガンはそのまま次の言葉を待った。
「お前な、俺がイコンなんか持ってるわけないだろうが」
「……なんですと?」
「この『硬派番長のげんだ』がロボットなんか乗り回すわけがないって言ってんだよバカヤロウ!」
 ナガンの予想に反して、げんだはイコンを所持してなどいなかった。
 げんだという男はパラミタに来てからというもの、パラ実に入りケンカに明け暮れており――余談だが、パラミタに来るということは、高確率でパラミタ人のパートナーがいるということなのだが、げんだはパートナーの存在を明かしていない――、その戦いの多くは生身、素手によるものだった。武器を使ったこともあるし、ケンカではない勝負――例えばスポーツによる試合で決着をつけたこともあるが、彼の勝負の中にイコンを使用したものは無い。
「遺恨だか糸こんにゃくだか知らねえが、この俺がそんなもの使うわけないだろ!」
「おいおいおいげんだクン、いくらなんでもそりゃ無いだろ。もう今時イコン戦が主流になってきてるんだぜェ? そんな時にイコンに乗らないなんて、流行遅れもいいとこじゃねえの?」
 ナガンの主張は少々間違っている。確かに天御柱学院では特にイコン戦が主流ではあるが、パラミタ全土でそれが中心になっているとは限らない――もちろん、パラミタ内でイコン戦が行われているのは事実だが――。まして巨大ロボットに生身で立ち向かおうとする契約者もいたりするのだから……。
 だがげんだの主張はそれとは違うものだった。
「流行もクソもあるか! 巨大ロボットってのは小さいお友達のロマンだろうが!」
 要するに、げんだの頭の中では、巨大ロボットとは世の中の子供たちの味方として存在する正義のヒーローであり、自分のような人間が乗るような代物ではなかったのだ。
「何言ってんだよ! ロボットなんて昔から大きいお友達のロマンでもあるだろ!? それにロボットアニメに出てくるパイロットは大抵女の子にキャーキャー言われるんだぜ!?」
「そういう奴らはほぼ例外無くイケメンばっかりだろうが!」
「そりゃそうかもしれないけど、キャラクターは大抵不幸な人生歩んでたり、人としてどっかおかしいところがあったりするだろ? ホラ、ダークっていうかさァ」
「たかが不良であることのどこがダークだよ! 大体にしてどこの世の中に頭がリーゼントの主人公がいるんだよ!」
「いるだろうが! 髪型けなされるとキレる奴!」
「アホか! そりゃロボットものじゃねえだろ!」
 だんだんと話の方向がずれていっているが、要するにこうだ。
 小さいお友達の味方として現れる正義のヒーロー、それがげんだの想像する巨大ロボット。それに乗り込むのは、やはり正義に燃える5人の男女。もしかしたら容姿は多少落ちるところはあるかもしれないが、それを補って余りある信念と勇気を兼ね備えているため、テレビに映る彼らはカッコよく見える。
 大きいお友達のファンが多いロボットものは、キャラクターの設定はいくらか違うだろうが、共通点としては、ほぼ例外無く美男美女揃いであり、乗り込むロボットそれ自体もカッコいいものが多い。
 げんだはその両方を満たしていない存在だった。彼は熱血で硬派とはいえ、あくまでも単なる不良であり、容姿も決して悪い方ではないがいい方でもなかった。もちろん正義の味方などではない。そんな人間がロボットに乗って戦うだと? そんなことをすれば、小さいお友達はもちろん、大きいお友達だってついてくれるわけがない。
 そして最大の理由はこれだった。
「そもそもあんなカッチョワルいロボットになんか乗ってたまるかッ!! どうせ乗るなら天学のイーグリットに乗るわッ!!」
 その一言と共に通話が遮断された。
 げんだの主張には偏見が含まれていたが、結局のところ、彼は巨大ロボットに乗ることで子供たちの夢を壊すような真似はしたくなかったのである。自身に苦汁をなめさせた要のことは確かに腹が立つが、それ以上に彼はイコンに乗るのが嫌だった。「イーグリットになら乗る」というのは彼なりの妥協である。
「……チッ、あの根性無しめ……」
 舌打ちと共にナガンは携帯の画面を待ち受けに戻す。
「まあいい。万が一来なかった時のことも想定してはいるからな。あいつが来ないなら、それを実行に移すまでのこと、ってなァ!」
 煽るだけ煽って、自分は観戦する。げんだたちが来たらそうするつもりだったが、来ないというのであれば第2プランを実行に移すしかない。
 ナガンはその場からゆっくりと「現地」へと向かっていった。自身が操るイコン【キングクラウン】と共に……。