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結集! カイトー一味

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結集! カイトー一味
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 人々が休む地まで残り八百メートル。ゴーレムの進行は止まらない。
 空気を割いて豪風や石の欠片を撒き散らし、森の木々をなぎ倒し、時折操作ミスか大地の窪みに突っかかったりしながら歩きを続けている。
 真昼間の日差しを遮り大きな影を作るその物体に、しかし恐れず向かって行く姿が幾つもあった。
「行くぞ、皆! 先行者が見せた様に頭部付近は危険。故に狙いは脚部だ!」
 ペガサスに乗って森の中を突き進むヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)は、石像を見上げながら協力の声を張り上げる。
 発した声の聞き手は複数。
「それでは、――行きます!」
 魔鎧プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)を纏って爪先目掛けて走り込んでいく紫月 唯斗(しづき・ゆいと)と、それに追随するエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)紫月 睡蓮(しづき・すいれん)だ。
 両手に武器を構えた紫月は一息に石像の足元まで辿り着き、
「はあっ……!」
 撫で切るように右脚首に切れ目を入れた。更に、
「続け!」
 ゴライオンが叫ぶと同時、エクスの光刃が先に入った切れ目に沿って入りこんだ。
 今度は撫でではなく、突く斬撃である。
 既に削れた個所を付いた刃は鋭さを持って石像内に埋没する。
「そうだ、いいぞ皆! デカブツを相手にするのなら一点突破が有効打になり得るのだから休まず行くぞ!」
 ペガサスを叩いて更に彼は加速する。
 そんなゴライオンの上空では、彼に負けぬ速度で石像に向かう少女がいた。
 箒に乗ってメイド服をはためかせる神代 明日香(かみしろ・あすか)だ。
「また石像ですかぁ。何処かで見た覚えはありますが、凄い近所迷惑ですう」
 彼女の動きは高所からの降下で、ゴーレムの頭上から一気に胴体付近まで降りて行く。
「止まって貰いますよお!」
 意思を露わにして飛び込んでくる少女を、ゴーレムの操縦席内の人々は捕らえており、
『ディティクト様、また箒で突っ込んでくる輩がいるんでさあ』
『解ってんなら迎撃しなさいよズラカリー!』
『いやー、こういうのは指示を仰ぐのが定番というもので』
『そんな定番は犬か猫に食わせておきなさい。私に一々時間をかけさせないで、とにかく迎撃!』
 アイマムとズラカリーが気の抜けた声をスピーカー経由で外に通すと、短くなった右腕が動いた。彼が操作しているのだ。
 起こす動作は下からの振り上げ。
 空気が渦を巻いて強風を起こし、風による圧撃と石の腕による打撃が同時に来る。
「あわわわ、危ないですねえ!」
 どうにか打撃を回避した明日香であったが、風による圧力は避け切れず服を捲くられ、巻き上がった小枝をぶつけられ、箒の軌道が不安定になった。
「あたた、そう言うことをするなら……こうしてやりますよう!!」
 しかし彼女はめげず、膝もとまで降りると、
「避けて下さいよぉ、下の皆さん」
 ゴーレムの足下目掛けてブリザードをぶち込んだ。
 人に寒気を与える冷気が人形にぶつかる。だが、
『うふふふ、体格差を考えなさいお馬鹿さん』
 ディティクトが失笑する通り、巨体は足裏の一部を凍らせたくらいでは縫い止められたりはしなかった。
「こ、このぉー」
 明日香は諦めず、必死になって冷気を送り続けるも、石像の足が止まるような素振りは微塵も見せない。
『うふ、一生やってなさいお馬鹿さん』
 そう台詞を残してディティクト、及び石像が歩き去ろうとした。
 けれど明日香は表情を必死から笑みに変えて、
「……お馬鹿なのは貴方ですよぉ?」
 朱の飛沫を同一箇所に叩き込んだ。今まで低温度だった場所を急激に加熱すれば起きる事象は簡単。
 熱衝撃による破砕だ。明日香が冷やし続けた足首の一部が崩壊を始める。更に攻撃は続く。
「悪いな、ディティクトとやら。見事なものではあるが、壊させて貰うぞ!」
 ペガサスにまたがったゴライオンが足下へ肉薄して、咆哮を叩き込んだのだ。
 彼の咆哮は空気を震わせ、その振動はゴーレムの脚部に及び、材料である意思を崩していく。
 打撃と熱と声による三連撃は完璧に脚部へ入った。だが、
『……質量差を甘く見過ぎよ、アンタ達』
 足の全てを壊すことは叶わなかった。いや、それどころか、
「ぬ、う。……砕けたのは表層だけか!?」
 ゴーレム脚部の表皮。それを彼らは剥がせた。しかしそれだけだったんだ。
『ふ、伊達にノワール様一人で動かせないものに造り上げていないザンスよ。耐久力だけは自信があるのよね!』
『威張って言えることか! アンタの設計が残念なだけじゃない』
 内部でのやり取りがスピーカーにより増幅されて外部に漏れるが、外の者はそれ所ではなかった。
 表層部を砕けば、当然砕けた部分はディティクトの支配下では無くなる。それはつまり、
「不味い! 落石が来るぞ!?」
 ゴライオンの言葉通りになった。
 剥がれた脚部表皮が、広範囲にわたって降り注ぐ。その全てが硬質の石。一つ一つが一抱えもあるほどの岩石が山のように振って落ちて来る。
「くそ、退避、退避しろ――!」
 物量と質量と重力に任せた広範囲の打撃を、紫月らは幾つかにぶつかりながらも切り抜け、
『降りかかる火の粉は皆払ったんだし、さっさと進むわよ』
『アイアイマーム』
しかしゴーレムの巨体が生む風に煽られ飛ばされる。
 ゴライオンにしても明日香にしてもそれは同じことで、
「――ここまでか」
 彼らは足の表皮を零し、やや薄くなっていく石像の後ろ姿を見送ることしか出来なかった。