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ザナドゥの方から来ました シナリオ2

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ザナドゥの方から来ました シナリオ2
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                              ☆


 だがしかし、ブラックタワーから宮殿へと乗り込んだメンバーにとっては、そんなところで和んでいる場合ではない、と言ったところであろう。


「よし……先を急がないと」
 特に、榊 朝斗(さかき・あさと)は緊迫した面持ちを見せていた。
「ええ、行きましょう。でもその前に朝斗……これを」
 そこに、パートナーのルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)がそっと朝斗にあるものを手渡した。
「!! ルシェン……これは……!!」


 ネコ耳。


 空中宮殿のエントランスから、手渡されたネコ耳を空中へ勢いよく放り投げる朝斗。
「だからルシェン!! 僕は『ネコ耳メイド☆あさにゃん』じゃないって何度も何度も何度も日頃から言ってるじゃないか!!」

 そう、ルシェンはザナドゥ時空にイイ感じに取り込まれたまま、まだこちら側に戻って来ていないのだ。
「え……じゃ、じゃあ……今日は『魔法少女マジカルメイド☆あさにゃん』の方なの?」
「毎日やってるかのように言わないでルシェン!! 誤解されるから!! あとその衣装どこから出したのさっ!?」
 ばさりと宙に舞うメイド服。下界の天気はネコ耳ときどきメイド服だ。事件を解決するために一刻も早く宮殿の『心臓部』へと向かいたい朝斗なのだが、パートナーがこの様子では心許ないというもの。
「――大丈夫です朝斗。私はすでにザナドゥ時空の影響から脱しています」
 そこに、ブラックタワーからテレポートしてきたもう一人のパートナー、アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)が声をかける。
「アイビス。君は大丈夫……って足元!」
「え?」
 テレポートして空中に現れたアイビスが着地すべき足元には、なぜかバナナの皮があった。これから着地しようとした先にバナナの皮があった場合、その結末は決まっている。
 さすがのアイビスと言えども、その黄色い因果律から逃れることはできない。ものの見事にバナナの皮を踏んづけて滑って転んで後頭部を強打してしまった。

「――!!!」

「だ、大丈夫!?」
 そこに駆け寄ったが、ライカ・フィーニスである。さきほどからおいしいバナナをもぐもぐしながら宮殿に乗り込んできたライカ。アイビスが踏んづけたバナナの皮の製造元は火を見るよりも明らかだ。
「ライカ!! だからバナナの皮をそこら辺に捨ててはいけないと!!」
 パートナーのレイコール・グランツがたしなめるが、今はそんなことを言っている場合ではない。ライカは心配そうにアイビスの顔を覗きこんだ。
「ご、ごめんなさい……大丈夫かな……。
 それにしても……美人さんだね〜。睫毛ながーい……」
 そんな場合でもないと思いつつ、ライカはついついアイビスに見とれてしまう。そのアイビスの睫毛が、ぴくりと動いた。
「あ、目を覚ました!!」
 その様子を見て、朝斗もアイビスに呼びかける。
「アイビス、大丈夫かい!?」


「にゃあ」


「……えーと、こちらの機晶姫殿は……いつもこのような……?」
 というレイコールの呟きも無視して、アイビスはゴロゴロと喉を鳴らして朝斗に擦り寄った。
「ふにゃあ〜……ん」
 その様子を見て、ルシェンは激怒する。
「あ、こら!! 私のあさにゃんにひっつくんじゃないわよ、この泥棒猫!!」
「……どうすればいいんだ」
 もはや事件の解決どころではない、と頭を抱える朝斗と、いつの間にかネコ耳ネコ尻尾完全装備のアイビス。そしてそのアイビスを朝斗から引っぺがそうとするルシェン。

 まさに修羅場であった。

「すごい……女の戦いだ……」
 まるで自分は女ではないかのようなライカの呟きだが、浮いた噂ひとつないライカには確かに関係のない話ではある。
 しかも、話の焦点はそこではない。

「フシャー!!!」
 そうこうしているうち、ルシェンと争いながら朝斗を巻き込んで、アイビスたちは宮殿内へと消えて行ってしまった。
「いっけない、あっけに取られてる場合じゃなかったよ!! 行こうレイ!! 冒険が私たちを待っている!!」
 その後を追い、ライカとレイコールも宮殿内へと駆け込んでいった。


                    ☆


 宮殿のエントランスには、次々にブラックタワーからコントラクター達がテレポートしてやってくる。
 匿名 某(とくな・なにがし)もその中の一人である。
「ふむ、ただでさえザナドゥ側とはイザコザの真っ最中だってのに……。これ以上の面倒ごとは御免だな」
 その横には相棒でありパートナーである大谷地 康之(おおやち・やすゆき)がいる。
「ああ! よからぬ悪は一気にスピード退治だぜ!!」
 びっ、と親指を立てた康之がアツく宣言する。
 普段から陽気な熱血漢の康之だが、どうも最近ちょっと特撮ヒーローのDVDとかを見すぎてしまったらしい。
 そのせいかザナドゥ時空の影響をモロに受けて、やや熱血が暴走してしまったようだが、そんなことを気にしている場合ではない。
「噂では、魔族側に操られているコントラクターもいるらしいからな」
 某の呟きに、結崎 綾耶(ゆうざき・あや)が反応した。ブラックタワーの前でカメリアが示した概念図を思い出す。
「ええ……おそらくDトゥルーと共に『王の間』にいるのでしょう。聞けば、かなり胸の大きな方らしいです。
 でっぱいハンターとして見過ごすわけにはいきません」
 さらに、フェイ・カーライズ(ふぇい・かーらいど)が続く。
「先を急ごう。宮殿から感じるぞ……ただならぬ気配を。話によれば彼女はピンクのツインテールらしいじゃないか。
 結いっ子保護隊長としては、急いで保護しなくては」

 何かが間違っている気がするが、某にはそんなことはまったく気にならない。片手を肩の辺りに上げて、パチンと指を鳴らした。
「よし、問題ない! アタック!!」
 全員がまんべんなくザナドゥ時空に取り込まれた一行にとって、目的はただひとつだったのである。


 他にも、空中宮殿に乗り込んできたコントラクター達の目的は様々だ。
「私は……グリムゲーテ!黒印家十四代当主!!」
 凛々しく名乗りを上げたのは、グリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)四谷 大助(しや・だいすけ)のパートナーである。
「おい、待てって!! その名乗りはもう百回聞いたよ!!」
 どうやらグリムゲーテは黒印(ブラックワンス)家の当主として、『ブラックタワー』を接収して我が物にしたいらしい。
 だが、ザナドゥ時空の影響でその意識が表に出すぎているのか、さきほどから事あるごとに自分の名を誇らしげに宣言しながら歩いているのである。
 そして、大助の頭を悩ませているのはグリムゲーテだけではない。
「きゅう〜ぅん、あむあむ……」
 大助の後ろからよじ登って、頬と言わず口元といわずぺろぺろと舐めまくっている白麻 戌子(しろま・いぬこ)である。
「お、おいワンコ、舐めるなって!!」
 こちらもザナドゥ時空の影響で完全に精神が犬化してしまった戌子は、大助にやたらと甘えてじゃれついてくるのであった。
 大助に制された戌子は、ちょこんとわんこ座りをして大助を見上げた。
「くぅ〜ん……」
 その無垢な瞳に見つめられると、あまり強気に出られない大助。上目遣いで見つめるその表情は、とても可愛い。
「……いかんいかん、オレもザナドゥ時空とやらの影響を受けてるのか……?」
 頭を振って邪念を追い払う大助、その顔面にグリムリーテの鉄拳がめり込んだ。
「抉りこむように……打つべし!!」
「ぐはぁっ! 何すんだよ!?」
「敵陣でペットプレイなどという不届きものに……鉄拳制裁!!」
「プレイとか言うな!!」
「私は……グリムリーテ!!」
「意味がわからねぇよ!! おい先行くなって!! ち、行くぞワンコ!!」
 一人でずんずんと進行してしまうグリムリーテを追って走り出す大助。その後を、戌子が追った。

「うぁんっ♪」

 と、嬉しそうにひと鳴きしてから。


「……想像を絶する無茶っぷりだねぇ」
 その様子を観察した茅野 菫(ちの・すみれ)は呟いた。菫と共に空中宮殿に乗り込んできたのは、Dトゥルーによって作られた人工魔族、バーサーカー ギギである。
「ヒャッハー!!」
 菫がかなり高いレベルでザナドゥ時空とシンクロした影響で、ただでさえ暴走気味なギギはあろうことか自らの創造主であるDトゥルーに反目し、コントラクター達と共にここまで乗り込んできたのである。
 とはいえ、コントラクターの味方になったわけではないギギは、目を離すとすぐにその辺にコントラクターに襲い掛かろうとする。要は、目標が『コントラクター達』から『誰でもいいから戦える相手』にすり替わっただけなのだ。
 菫は、そんなギギをうまくコントロールして宮殿の奥を目指す。
「ヒャッハー!!」
「ヒャッハー!!!」
 菫の叫びにギギが呼応して叫んだ。
 実はこれにより特定の意思が通じているわけではないのだが、何となく互いの呼吸を合わせることには役立っていた。

「ヒャッハー!!!」

 そのまま、菫とギギは混沌渦巻く宮殿内へと乱入していくのだった。


                              ☆