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【新米少尉奮闘記】テストフライト

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【新米少尉奮闘記】テストフライト

リアクション

 レッサードラゴンの気を引くことに成功したグラキエス・エンドロア達は、ワイバーンと交戦している空域から少し離れた所までやってきた。
 そこへ小型飛空艇ヘリファルテに乗ったレリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)ハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)のふたりが小暮の指示で合流する。
「よし、ここで足止めを! くれぐれも飛空艇に近付けさせないよう」
 アイゼンヴォルフの指示で、エンドロア達はその場に展開した。
「大事な飛空艇だもんな、傷つけさせる訳には行かねえぜ!」
 発掘、修復と携わってきただけあって、外部生とはいえエンドロアもこの飛空艇には特別な思い入れを抱いていた。
 そのため、今日の日を心待ちにしてきた。邪魔をさせるわけにはいかないという思いは、教導団生であるアイゼンヴォルフに負けずとも劣らない。
 アイゼンヴォルフは、意気込むエンドロアに信頼の眼差しを向けると、頼みます、と告げ、二人は顔を見合わせて頷き合う。
「おいレリウス、任務前のお約束! 無茶しない、怪我しない、任務は結果もだけど経過も大事! ちゃんと守ってくれよ?」
 そんなシリアスな二人の横で、アイゼンヴォルフのパートナー、ヘイルが騒いでいる。
 いつも任務の度に自分の身を顧みず行動するアイゼンヴォルフを心から心配しての行為だが、当のアイゼンヴォルフはやれやれという顔で一言、
「善処する」
「本ッ当に守ってくれよ!?」
 気が気じゃない、と言わんばかりの顔のヘイルを横目に、アイゼンヴォルフはエンドロアと目配せをして飛び出して行った。
「ああもう……本当に大丈夫だろうな」
 心配そうな顔をしながらも、ヘイルもまた自分のヘリファルテを駆ってドラゴンと対峙する。
 その隣に、エンドロアのパートナーであるエルデネスト・ヴァッサゴーが氷雪比翼で並ぶ。
「お互い無鉄砲なパートナーを持つと苦労しますね?」
 クスクスと笑いながらヴァッサゴーはヘイルに声を掛ける。全くだ、と溜息を吐きながら、ヘイルは援護の為に氷術を唱え始める。
 エンドロアの仕掛けた幻覚がまだ残っているのだろう、落ち着かない様子のドラゴンに、ゴルガイス・アラバンディットが轟、と唸る。
 その声でレッサードラゴンがそちらを向いた隙を狙い、エンドロアが疾る。漆黒の翼をはためかせ、一瞬でドラゴンへと肉薄した。そして擦れ違いざま、手にした銃を至近距離から撃ち込む。
 左手にしたレーザーマインゴーシュでは必要以上のダメージを与えてしまう。生半な銃弾などはじき返すドラゴンの皮膚とは言え、至近距離からの一撃はそれなりにダメージになる。
 おおん、と吼えるドラゴンが翼をはためかせる。エンドロアは急ぎ方向を変えた。
 と、ドラゴンが大きく息を吸い込む。ブレスが来る。危ない、とアラバンディットがエンドロアとドラゴンの間に割り込み、エンドロアを飛空艇の後部座席へ乗せてその場を離脱する。
 ドラゴンがブレスを放つ、その瞬間、アイゼンヴォルフがラスターボウを放った。ブレスを放つ瞬間だけは、ドラゴンの動きが止まる。
 ごうごうと燃えさかる音を立てて炎がドラゴンの口から溢れる。その中を、光でできた矢がひゅるると尾を引いて飛んでいく。
 あわや、アイゼンヴォルフへと炎が迫る、が、ヘイルが放つ氷術がドラゴンのブレスを受け止め、相殺する。
 そしてラスターボウから放たれた一撃は、ドラゴンの額に命中した。「斬る」ことを意図しないその攻撃は、ドラゴンの皮膚に突き刺さることなくその場で弾ける。しかし、強化された光条兵器による衝撃は、充分なダメージを与えた。
 ドラゴンはギャァ、と悲鳴を上げると、その場にゆっくりと降り立つと蹲った。脳震盪でも起こしたか、動けない様だ。
 一同の顔に安堵が浮かぶ。
「やったな、レリウス……っ」
 ひとまずの撃退を祝おうとアイゼンヴォルフに近づいたエンドロアが、アラバンディットの飛空艇の後部席で胸元を掴んで俯いた。
「どうした、大丈夫か?!」
 苦しそうに荒い息を吐くエンドロアに、慌ててアイゼンヴォルフが近づく。アラバンディットもまた心配しながら、しかし飛空艇の操縦を放り出す訳にはいかず、もどかしそうな顔をしている。
 とそこへ、ヴァッサゴーが氷の翼を羽ばたかせてふわりと舞い降りてきた。
「言ったでしょう、疲労しやすくなっているから、と」
 悪魔らしく悪魔的に笑いながら、ヴァッサゴーは懐から謎の薬瓶を取り出し、差し出した。
「『追加料金』はしっかり払って頂きますよ」
 そして薬瓶を受け取るエンドロアに、低い声で耳打ちをする。アラバンディットが苦虫を噛みつぶしたような顔をした。
 薬瓶の中身を飲み干したエンドロアは、幾分顔色が良くなっている。アイゼンヴォルフは安堵の息を零した。
「そろそろ飛空艇の進路も変更が終わる頃です、撤退までどうか無理はしないように」
「ああ……すまない、ありがとう」
 エンドロアが苦しげな声で、しかしなんとか笑顔を返す。
 が、その時。
 足元からドラゴンの咆吼が響いた。
 一同の顔に戦慄が走る。戦えない状態のエンドロアを擁して再び先ほどのような戦闘は不可能だ。
 離脱を、とアイゼンヴォルフが指示しようとした、その時。
 よろよろと羽ばたいたレッサードラゴンが、こう、と吼えた。すると、少し離れたところで戦っていたワイバーン達がこちらへと集まってくる。
 いよいよまずい、とそれぞれが得物を構える。
 しかし、ドラゴンは一声吼えてから、もと居た岩場の方へと首を向けた。
 そして大きく羽ばたくと、そのままワイバーン達を連れ、飛び去っていった。

「全員へ通達、飛空艇の離脱完了、撤退してください!」

 丁度その時、通信機から小暮の声が届いた。
 今度こそ本当に、皆の顔に安堵が浮かぶのだった。