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【空京万博】海の家ライフ

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【空京万博】海の家ライフ
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リアクション

 セルシウス海水浴場に小型飛空艇アルバトロスで乗り付けたのは、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)である。
 飛空艇から降りた陽太は、後部に積んでいたダンボールを持ち上げて海の家へと歩き出す。
 海の家までの道中、パンツのポケットに入れた携帯を取り出し、誰かに連絡をする陽太。
「俺です……はい。今日は、夜までには戻ります。……え、こちらも暑いですよ。もし、良ければ今度バカンスに来ましょう……ええ、俺も愛してます。じゃ……」
 電話を切った陽太の顔が少しほころぶ。恐らく愛しい妻宛ての電話なのであろう。
「しかし、予想以上に根回しに手こずりましたね……。そりゃあ海水浴場がここだけではないのはわかりますが……」
 陽太はそう言って段ボール箱を肩に載せ、砂浜を歩くのであった。


「あ、おにーちゃん! お帰りー!!」
 海の家に現れた陽太にノーンが駆け寄る。
「ノーン、頼まれていた調味料一式です。沢山買ってきたので、ちょっと時間がかかりましたよ」
「ありがとうー! これでわたしのラーメンが作れるね!」
 陽太が下ろしたダンボールを開き、ノーンが中身を吟味する。
 中には調味料、
「お帰り、陽太」
「ああ、ルカさん」
 ルカルカがノーンが手に取る調味料を見て、陽太に小声で尋ねる。
「(陽太……これ、全部でいくらかかったの?)」
 陽太が指を立ててこっそりルカルカに教える。
 眉を顰めるルカルカ。
「(一杯の値段、跳ね上がらない?)」
「(ええ、ノーンはコスト意識を持って無いと思うので……俺の『浪速のそろばん』での若干の『経理』と『財産管理』を駆使して、海の家が大赤字にならないよう管理に努めますよ)……あぁ、それと……」
「何?」
「ルカさんから頼まれていた、一番近い町の生鮮食料業者に交渉し、そこから野菜や魚介類や肉を仕入れる話。追加をお願いしたんですが、何しろ今は夏真っ盛りの繁盛期でしょう? 交渉でも足元見られてしまって……」
 陽太が済まさそうに肩をすくめる。
「まぁ、仕方ないわね。どこだって美味しいモノを確保するのに必死だし」
「不安定な仕入れじゃ安定した経営は出来ませんが、やはりここは現地調達に頼るしかないかと思われます」
「わかったわ。ありがとう、代金は経営者に請求して頂戴」
「その経営者って、書類を見たら、あのセルシウスさんて人らしいですよ」
 ルカルカと陽太が歳に似合わぬビジネスライクな話をする中で、ノーンはなななと自分のラーメンスープ作成に本腰を入れていた。
「あとは、ラーメンの具になりそうな海生物を、仕留めた人から譲ってもらうべく交渉しますか……」
 そう言って陽太は携帯を取り出し、椅子に腰掛ける。
「愛妻家だな」
 ダリルが陽太に呟くと、
「はい。そこは勿論です」
 陽太はその名の通り、太陽の様な笑顔で頷くのであった。


「……で、なななは何を手伝うの?」
 ノーンの傍に立つなななが、前に並べられた様々な陽太が運んできた調味料のセットの中を覗くと、ドクロマークの付いた瓶があった。
「これ、バケツの水に一滴垂らしただけで激辛とかいう……」
 なななの言葉をノーンが遮る。
「あ、それ。多分おにーちゃんの私物の爆薬。間違えたんだね」
「……何を作る気?」
「わたしは海水の塩味を活かした最高級の塩ラーメンをつくるんだよ! だから、なななちゃんもラーメンのスープ開発を手伝ってね?」
 『調理』と『至れり尽くせり』の能力を持つノーンは、海水をベースに色々な材料から出汁をとっては試し、調味料を加えては試行錯誤して、満足のゆく味のスープが完成するまで奮闘し続けると宣言する。
「スープが完成したら、次は麺を丁寧にゆがいて、具になる海産物を提供してもらって……エリュシオンの人が舌を巻くような(そして自分が食べておいしい)究極ラーメンを作るんだ!」
「長くなりそうだね……」
 ノーンの所信表明演説を聞いたなななが珍しくまともな意見を呟く。
「うん、明子ちゃんには負けないよぉー!」
と、拳を握るノーン。
「へっぷしッ」
 店でこれまた定番のカレーライスを食べていた明子がくしゃみをする。
「誰か、噂してるわね……」
 ちなみに、コストに関してはさらさら考えていないノーンである。
 後に、陽太がざっと見積もったところ、ノーンの作るラーメンは一杯あたりにつき、ステーキセット並の値段が付いていた。しかし、これは陽太しか知らない事である。