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学園祭に火をつけろ!

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学園祭に火をつけろ!
学園祭に火をつけろ! 学園祭に火をつけろ!

リアクション

     ◆

 時刻は午後の五時半。粗方の文化祭出展団体が準備を終えて帰路についている時刻に、大勢の学生が体育館の中央で立ち尽くしている。
「本当に……練習やんのかよ」
「誰もいないけどね」
「騙されたんじゃね?」
「でも、さっきの女の子、そんな事するような子には見えなかったけどなぁ…」
 学生たちが口々に言葉を発しながら辺りをキョロキョロしていると、突然体育館の扉が開く音。当然、全員で背後、扉のほうへと顔を向けた。
「……あ、あれ? 此処、何かの団体さんが使うんですか?」
 十名弱いる学生全員の注目を浴びているからか、風森 巽(かぜもり・たつみ)はおどおどしながら言葉を放つ。
「うーん、それが私たちもわからないんだよねぇ…ところで、君は?」
 困惑している生徒の一人が苦笑ながらに彼へと尋ねる。
「えっと、我は蒼空学園の風森 巽です。レンさんに呼ばれてきたんだけど…」
「へぇ、レンさんって、あのレンさん?」
 巽は黙ったまま頷いた。
「俺たちはほら、なんだっけ。明日の文化祭の出し物手伝ってくれって言われたから来たんだけどさ。何が何だかわからない感じでね」
「劇、とか言ってたっけ?」
 学生たちが話しているのを聞いた巽が、どうやらそこでピンと来たらしい。
「わかりました。そしたら多分、我が今此処にいる理由と、皆さんがいる理由は多分一緒だと思います」
「そうなんだ?」
「はい、ちょっと着替えてきますね。皆さんも着替え、あるなら着替えてきたほうが良いと思いますよ」
 そう言い残すと、巽は更衣室がある扉へと消えていった。
「何か本格的っぽいね」
「違う学校からわざわざ人呼んでるくらいだしな」
「んじゃあ、俺らも着替えてみる?」
 巽の言葉を受けた生徒たちも、一路それぞれのロッカーへと向かっていった。

  それから十分後――…………

「待たせたなぁ! とうっ!」
 着替え終わっていた生徒の前、舞台袖から仮面ツァンダーの仮面を被り、お洒落なジャージを着こんだ巽が、掛け声勇ましく現れた。
「ん…? あれって……?」
「多分、さっきの彼だと思う」
「着替えって……まさかあれ?」
 生徒たちのざわめきが聞こえる中、舞台から飛び降りた巽は格好よく着地し、決めポーズをしながらに口を開いた。

 「舞台袖からやって来て、演技指導を担う者! 仮面ツァンダー、ソークー1! 華麗に見参!(本日の格好と登場の台詞はスペシャルヴァージョンでお送りします)」

 格好が…などと呟いていた学生たちも、彼の動きに感心したらくし、思わず拍手を送っていた。
「何か知らんが格好いいな、風森君!」
「だよね、すごーい!」
 学生たちのリアクションにお辞儀を返しなが、彼はそうだ、と思いだし、言葉を繋げる。
「貴公等にはこれより、ヒーローショーに欠かせない殺陣の演技指導をしたいと思う!」
「なんかキャラ違うくね?」
「あ、一応モチベーション上げる為なんで気にしないでください」
「あいさー、了解」
 学生の横槍にしっかりと返事を返した巽は、咳払いをすると再び言葉を続ける。
「決して楽な道と思う事なかれ! ショーとは言えどこれは戦いなのだ! 敵はいないが己と戦い、役を味方に付け、観客一人一人が手に汗握り、時に笑顔を、時に涙を、時に熱き血潮を、万人に与える戦い! その場が一体となって初めて形を成す、謂わば芸術! 生半可な気持ちでは完成しない!」
「うぉ……なんか格好良いこと言ってる…!」
「貴公等の覚悟と、勇気と希望が必要不可欠なのだっ!」
「な、なんだか分かんないけど燃えてきた!」
 強く握りしめられた拳を、巽は天高らかに掲げ、叫ぶ!
「いざ行こう! 我等が聖戦(ジハード)は此処にありっ!」
 十数人とは言えど、その程度の数の声とは思えぬ程の力強い雄叫びが体育館に響いていた。


 一方その頃、レン、メティス、ノアの三人は人数把握を兼ねて体育館へと向かってる。
「結構人数、来てると良いけどね」
「ノア、おまえの説明によると思うんだが」
「うーん、あのときは時間が無かったから簡単にしか説明してないんだよね。ちょっと心配」
 そんな事を話している二人に、メティスが意外そうに声をかけた。
「お二人とも。何だか体育館が賑やかみたいですけど…」
 彼女の言葉を聞いたレンとノアが耳を澄ませてみると、確かに賑やかな声が聞こえる。『賑やか』と言っても、決して遊んでいる様な賑やかさではない。
まるで部活の様な、あくまでも真剣な、あくまでも懸命な声の数々が、三人の元にも届いている。
「…………」
 思わず三人は顔を見合わせ、足早に体育館へと向かった。と――
「皆さん、お待たせ致しました」
「あ、ティセラさんだ」
「お、セイニィも来てくれたか」
 三人に向けられた声の主、ティセラの名を呼ぶノアと、ティセラの隣に立っている{SNL9998933#セイニィ・アルギエバ}に声をかけるレン。
「話しは聞いたよ。あたしはほら、今回の文化祭は裏方でさ。今日で仕事って言う仕事は終わるから暇んなるし、折角だからあたしも協力するわ。なんだかちょっと面白そうだし」
 言葉の後半で含み笑いを浮かべ、元気な声が響く体育館へと目をやったセイニィは、すぐさま表情を変えて彼等を促した。
「それにしても“ヒーローショー“かぁ。まさか自分達がやることになるとは思ってなかったなぁ」
「えぇ、わたくしもですわ。今から楽しみです」
 と、ティセラ、セイニィの二人が会話を交わしたと同時にレンとメティスが体育館に入るためにドアへと手をかけ、左右に引lく。

「声が小さいぃぃっ! そんな声では、観客の耳には届けど心にまでは響かんぞぉ! やり直しぃ!」

 飛び込んできたのは巽の怒号。状況が読めないティセラ、セイニィの両名と、状況を理解していても思わず苦笑を浮かべるより他にないレン、メティス、ノア。どうやら彼等の存在には気付いてはいないのだろう。巽の叱咤に『気合い』と言う言葉が何とも似合いそうな返事を返すボランティア学生たち。
「お、おい……巽?」
「様子見に来たんですけど……」
「遅ぉぉぉぅいっ!!!!」
「えっ?」
 ほんわかと様子を見ていたノアは、巽の言葉に驚き、硬直した笑顔のままで返事を返す。
「戦いはもう既に始まっているんだぞっ! そんな気持ちではどうするんだっ! ぁあ………っ! 負けちまう、こんなんじゃ本番に住む魔物に食われちまうっ…………」
 やや演技がかった動きでその場に項垂れる巽と、その様子をただただ唖然と見ているたった今やってきた五人。
「で、でもさ……あたしも話を又聞きしてるだけなんだけど、確か集合時間って六時からだったんじゃ……ないの?」
「では我等はどうなるのだ? 既に我等は猛特訓に次ぐ猛特訓を重ねているのだぞ!?」
 セイニィの言葉も聞かず、彼は大きく両手を広げて反論を返した。
「わかった、兎に角落ち着こう。それより巽、彼等はどのくらい殺陣を覚えたんだ?」
 レンの言葉を聞くや、待ってましたと言わんばかりに巽と生徒たちが構えを取る。
「見よっ! 我等が成果をっ!」
「いや、てかあなたたち誰っ!」
 声をかけたノア本人さえもそう驚くほどに目付きの変わった生徒たちが、無駄のない動きで巽を囲み構えをとった。
「こいっ! これが最後のテストだ!」
「構えが様になってる……摺り足も無駄がないし……ほんとに初心者!? そうおもうでしょ、ティセ――」
 セイニィが隣に佇むティセラに声をかけようとして、思わず言葉を飲む。不思議に思ったレン、メティスもティセラへ目を向けると、ノアとティセラは真剣にその様子を見つめていた。
「行くぞっ! せい!」
 掛け声と共に巽が生徒の一人に飛び掛かる。それを手にする模造剣で受け止め、押し合いを続ける。するとその後ろから巽に向かい違う生徒が襲い掛かった。
「甘いっ!」
 鍔迫り合いから一気に相手を押し退け、自由になった剣で襲い掛かる生徒の腹に一閃――。 勿論、殺陣であるが。
「おお、形になってるな」
 レンは感心したようにそう感想を呟いた。
「まだまだぁ! てぇぇいやぁ!」
 力なく崩れていく(演技)生徒の影から、女子生徒が二人、両の脇を縫うようにやって来た。
「速い! あれならっ…!」
 繰り広げられる戦闘(の演技)に、いつしかセイニィも固唾をのんで見守っている様子である。故の感想。 無論、殺陣ではあるが。
二人の女子生徒は交差して巽の脇を駆け抜け、振替って巽を見やる。
「ぐ……やるな。これで……これでもう貴公等に教えることは何も……ぐはっ」
「「「師匠っ!!」」」
 生徒たちは手にする模造剣を投げ捨て、倒れ行く巽の元へ駆け寄って行った。
「……師匠?」
「あれ、これってまだ続いてんの?」
 メティスが首を傾げると、同調してセイニィが指を指して眉を潜める。
「その様だ。隣の二人もまだ戻ってきていないようだしな」
 顎を横に向け、何とも言えない表情でレンが呟いた。メティスとセイニィが彼の指す先へと目をやる。

 「良いか、忘れるな……貴公等は立派な力を手にいれた。迷うときあれば、我とのこの鍛練が時を思い返すのだ……」
 「そんなっ……止めてくれよ師匠!」
 「死なないで師匠!」
  力なく項垂れ、巽は生徒の一人に抱き抱えられながら瞳を閉じた。

「し、ししょー!」
「何て素敵な殿方……弟子の為に命を落とすとは……ご立派ですわ!」
 ノアとティセラは号泣していた。
「うそーん」
 思いもよらないリアクションをしている二人を前に、セイニィが突っ込みを入れる。
「なんかもう、これはこれでいい気がします………しますけど……」
「メティス、良い。そこから先は言うな……」
 レンとメティスはその光景を見てただただ肩を落とすだけだった。