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第3章 そして彼は追われる 2

 京太郎はなんとか命からがら女性陣の追っ手から逃げることが出来た。
 が――彼を追ってくるのは女性陣だけではない。
「ほっほっほ……すばしっこい鼠じゃのぉ! いい加減に縄につくが良い! アルト、ネーゲル、いくぞ!」
「うぅ…………ジュディのレイスがいるってだけで、森のなかが不気味に見えるよぉ……」
「何を言うか。我のかわいいペットたちじゃぞ」
 ジュディとリーズが互いにそんなことを言いながら、京太郎を追いかけてきていた。
「夢安! いい加減に捕まったらどうだ!」
「そういう台詞は、捕まらない奴に言う台詞だぜ!」
 筆頭に立つ陣に言いかえして、京太郎は得意の逃げ脚をいかんなく発揮する。巧みに、木々の間を駆け抜けていた。
 すると、彼を助けるべく仲間の工作員がお化け姿で現れる。
「んにぃ〜! こっち来ないでー!!」
 飛び出してきたお化けに、リーズが剣をぶん回した。刃物だというのに、鈍器のように相手をぶっ叩く。お化け工作員は無残にも木にぶつかってズルズルと倒れ落ちた。
「まったく、しつこい奴らだな」
 京太郎はげんなりとしてつぶやく。
 すると、そこに激しい光術の光が飛んできた。
「げっ!」
 光の魔力は大地をえぐり、京太郎はそれに吹きとばされそうになる。
 後ろを振り返ると、杖を掲げた博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)が、怒りの形相で彼を追いかけていた。
 イルミンスールの教師志望の青年は、その正義感からか、怒りに燃えているようであった。
「この、破廉恥学生っ!! 目的はあくまで『生徒達の交流を深めること』だぞッ!! 趣旨が全く違うだろッ!! 変な事に傾倒して団結する団結力と計画性があるなら!! ちったぁその力をもっと別のベクトルに向けて見せろーッ!!」
「……また、ややっこしい奴が来たもんだな」
 げんなりを通り越して、京太郎は呆れる。
「我が瞳焦がすは浄罪の閃光ーッ!!」
 再び呪文を詠唱する博季。光の魔法弾は木々をなぎ倒して京太郎へと飛翔した。
 ただ、逃げ脚だけは自信のある京太郎である。彼はなんとか方向転換して、光の弾丸を避けた。凄まじい閃光の魔力は、木々をばたばたと叩き折っていった。
「ちょちょっ! 待て待て待て! ここまでする必要ないだろう!? オレは単なる健全な男子の欲求をだな――」
「……そりゃー男の子なんだから多少は仕方が無いですけど。僕だってそういう気持ちがあるか無いかで言えば、あるのは否定できませんし……」
 博季は、根が生真面目なのか、律儀に答えた。
「でも、人に迷惑をかけるのは駄目。お互いのためにならない。本気で傷つく子も、中にはいますから。そういうのは、きちんと好きな子や恋人を作ってから段階を踏んでいって……」
「…………博季はん? 何の話をしてはるんですか?」
 博季に追いついた仲間の追っ手、伊達 黒実(だて・くろざね)が冷静に言った。
 運営側に警備担当として協力していた彼女は、陣から要請を受けてこちらまでやって来たのだ。しかし、追いついてみればなにやらぶつぶつ言う青年が一人。彼女も多少ながら、止まっているようだった。
「あ…………」
 ようやく、博季は自分が別の話に夢中になっていたことに気づく。
「ええと、こほん」
 気を取り直すべく、彼は一息ついた。
「とにかく! 寂しくない青春を送れるように、君たちを捕まえてしっかりと指導させてもらいます! おとなしく捕まりなさい!」
「せ、接写も、ふ、不埒なことはよくないと思います……っ!」
 博季に賛同して、黒実のパートナーである上月 鬼丸(こうづき・おにまる)が言った。
 外見だけ見れば中性的で頼りがいのありそうなお庭番だが、本当に忍びの里出身か、と疑いたくなるほど臆病な男である。ただ、信念だけはしっかりと持ち合わせているようだ。
 先ほどの台詞も黒実の背中に隠れつつのものだが、はっきりとした彼の意思のようだった。
「知らん!」
 だが、京太郎はビシッと答えた。
「オレは好きなように生きたいの! 女子の身体も堪能して、お金も稼いで! だから見逃せ! 頼むから!」
「なんつーワガママな奴……」
 いっそのこと清々しいまでの自分勝手に、陣は呆れて呆然とつぶやいた。
 そのうち、京太郎は彼らと距離を離していく。どうやら逃げ脚だけは一級品というのは間違っていないようだ。
(時間がかかりそうだな、こりゃ)
 陣は頭のなかで、そんなことを思っていた。