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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ

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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ
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リアクション

■□■3


 ジャタの森の河原にて。


「確か、つりに行ったよね」
 パラミタアケビを携えて待っていた佐々木 八雲(ささき・やくも)に対し、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が満面の笑みを浮かべて告げた。その表情は確かに笑っていたのだが、どこか揶揄と黒さ(?)を含んでいる。
「まったく、仕方がないなぁ」
 弥十郎がそう告げて笑みをかみ殺すように体を揺らすと、八雲が視線を背ける。心なしかその表情は赤い。
「……アケビもあるだろ」
「そうだね、ありがとうねぇ」
「おぅ」
 採取した草の分類をしながら八雲の声を聞いていた弥十郎は、一段落したこともあり頷いて視線を向ける。
『さて、此処からが本番だねぇ』
 兄に【精神感応】を送った弥十郎は、気づいた様子の八雲が向けた視線に頷きながら唇の端を持ち上げる。
 ――思いの外、賑やかにもなったのだから。
「兄さん、そろそろ食事にしよっか。鍋で良いよね?」
「あぁ、かまわんよ」
 そんなやりとりをしていると、嫉妬したのか珠ちゃんが体当たりをする。
 それに八雲が苦笑する。
「芋煮会をしようって話になっているんだよねぇ」
 頷きながら弥十郎が伴ってきた皆へと視線を向ける。
「だけど正確に言うなら、みんなそれぞれ作って持ち寄る様な形だから、料理対決かなぁ」
 冗談めかした彼の声に、クロス・クロノス(くろす・くろのす)が笑顔で頷く。
「試食は任せてくださいね」
「楽しみじゃのう」
 伏見 九藍(ふしみ・くらん)が、両手を組みながら喉で笑う。
「芋煮会の発案者のあちきは、古典的な芋煮会の鍋で勝負しますよぅ」
 そんな様子にレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)が微笑むと、ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)もまた頷いた。
「魚料理ならば、任せてもらいましょうか」
 そこへ上流にあった拠点へと魚の入ったバケツを取りに戻っていたサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)が、戻ってきて声をかける。
「おい、大げさに言うな――」
 その様子に白砂 司(しらすな・つかさ)が眼鏡の奥で目を細める。
「司君の気合いを出すためですからっ! 料理は期待してませんっ!」
「なんだと……」
 司が呟きながら、サクラコに対して頬を引きつらせて笑う。
「魚ならぜひパラミタ銀鮭がほしいですねぇ」
 弥十郎がそこへ声をかけると、司が振り返って、申し訳なさそうな顔をした。
「悪い、あまり数が無くて」
 彼はバケツの中から、三匹の銀鮭を取り出す。
「いえ、三匹も頂けたら、後は二匹も釣ればいいだけだから充分ですよぅ」
 そのやりとりを見ながら、八雲が腕を組む。
「後は、パラミタマイタケがあれば良いが……」
 彼の声にクロスが、九藍の袖を引く。
「確かさっきありましたよね!」
「おお、そうじゃな」
 頷いた九藍が、八雲にキノコを手渡す。

 こうして、それぞれが料理を始める。

「釣果はその場で塩焼きにして食べるつもりだったのだが――」
 司が呟きながら、包丁を握る。
 包丁とまな板は、レティシアが皆に提供してくれた代物である。
「塩焼きも良いですね」
 わくわくするように瞳を輝かせたサクラコに対し、司が頷く。
「川魚、特に藻を食べる草食魚は比較的臭みが少ないのが特徴だから、内臓まで丸のまま食べると風味があっていい。と、聞いたことがある」
「確かに同じような名前と味のお魚でもジャタの森のものと地球のものには少し違いがあるから、ここのお魚は藻を食べるのが沢山いるって覚えたかもしれないです」
 サクラコが頷くと、司が穏やかに唇の端を持ち上げた。
「地球よりも、天然に近い美味を味わえるのかもしれないな。――2020年代になる前……それこそ2000年代初頭の頃に近い味かも知れない」
 ジャタカボス――地球のカボスによく似た、スダチによく似た外見だが異なる、緑の表皮とミカンに似た果肉を持つ食材は、サクラコが切っている。
「気をつけろよ、目に入らないように」
 タマネギ同様、柑橘類も、猫系統につらいはずだろうからと、薬師の性分とパートナーへの気遣いで、司は思わず呟いていた。
「分かりましたですっ!」
 魚料理の仕上げには、端緒から司が、ジャタの植物を添えると考えていた。
 その一角が、ジャタカボスにジャタ大根、ジャタ以下略――である。
 今回運良く手に入ったジャタ松茸や、森を散策する中で手に入れたパラミタマイタケといったキノコ、ジャタバジルといったハーブ、パラミタさといも等も、手元にあることはある。
 だが――。
「いいか、取捨選択も大切なんだ。あるからとはいえ、すべてを使えばいいわけじゃない」
 司の声に、サクラコが瞬きをする。
「料理の理屈は科学と同じ。近縁のものは馴染み、馴染むものを調合すれば美味になるのだ」
 その一言に、サクラコは肩をすくめて立ち上がった。
「じゃあ、料理が出来るまで、ポチと遊んできますね」
 頷いた司に対して、彼女は唇をなめる。
 ――料理もできる万能の私が手伝えば済むんでしょうけど。味は大丈夫でしょうし、余程じゃなきゃ気にしません。面倒ですし!
 ハーブに手を伸ばしている司を一別しながら、ポチを連れ、彼女は暫し歩く。
 そうして呟いた。
「司君は変なところでこだわりをみせるわりに、料理の腕前は微妙――ってまぁ、食べられない訳じゃないから良いんですけどねっ」


 その時、弥十郎は川にいた。
 勿論パートナーの釣れなかったという声などが影響しての事である。
 同時に料理人として最適の食材が欲しいという思いもあったのかもしれない。
 彼は、川の中に入り遡上してきたパラミタ銀鮭を2匹捕まえようと構えていた。
「ん、捕れましたねぇ」
 呟いた彼は、二匹を手に、キャンプへと戻る。
 そして持参したまな板に向かう八雲の隣で、レティシア達が用意してくれたもう一つのまな板へと向かい、包丁を手にした。
 ――さて、内臓と鰓を抜きましょうか。
 内臓は心臓、胃――雄の場合は白子を、雌ならスジコを取っていく。同時に、スジコは醤油とお酒につけていった。
 そのそばで、八雲が鍋を火にかけ始める。
 魚捌きを一段落した弥十郎は、手を綺麗にしてから、鍋の前に立った。
 そして、鍋に昆布をいれてお湯をわかす。
 辺りには食欲を差そるような沸騰手前の湯の音が谺し始めた。
 根菜とキノコ、鮭の切り身を放り込んでいく。
 屋外だから火加減こそ経験故だったが、最適の状態で一つ一つを入れていった。
 それから火が通ったところで、それを弱める。
「味噌をとってもらえるかなぁ」
「ああ」
 頷いた八雲が手渡すと、洗練された仕草で弥十郎が味噌を溶く。
 それから彼は、パラミタマイタケを加えて火を消した。
 ――余熱で仕上げて完成だ。
「やっぱり料理は野外に限るね♪」
 弥十郎が言うと、八雲が静かに微笑んだ。
 一方の彼はデザート用のアケビを切り分けながら、クロスに提供してもらったブラックベリーなどを合わせている。意図していなかった食材だったが、デザートの準備もぬかりない。こういう良いアクシデントがあるのも、屋外料理の楽しみなのかもしれなかった。


 できあがってきたそれぞれの料理と、自分たちの作った芋煮会用の鍋を取り分けながら、ミスティがレティシアを見た。
 レティシアはと言えば、それをクロスと九藍へと手渡している。
 その光景を眺めながら、八雲が、自分たちが作った料理へと手を伸ばした。
 傍らにはフルートグラスがある。
 この秋に販売されたばかりのワインが、グラスの水面を揺らしていた。
 其れを傾けてから、鍋を再度つつき八雲は微笑んだ。
「やっぱ、鍋には酒だな」
「――まぁ、いいけど飲み過ぎないようにね」
 自分もまた料理を取りわけながら、弥十郎が苦笑する。
 その隣では、司とサクラコが、それぞれ川魚を口へと運んでいた。
 そうした光景を穏やかに見守りながら、クロスがそれぞれの料理を口にする。
「うまいな」
 九藍が言うと、大きくレティシアが頷いた。
「これを食べてみんなが元気になってくれれば良いんだけどねぇ」
「本当に美味しいですね――これが芋煮会ですか」
 確かに芋煮会は、名称はそうであれ、食材などは特に決まってはいない。
 皆で過ごしやすい寒空の下、温かい鍋を囲むことが大切なのだ。
 ミスティがそう告げたとき、不意に思い出したように、レティシアが腕を組む。
「そうだ、あのお花屋さんにも食べさせてあげられたらなぁ」
「ああ、T・F・Sの」
 緑色の髪を揺らしながら、ミスティが頷く。
「そうですよ、紅葉も持って帰ってアレンジメントいてもらいたいんですっ」
 サクラコが言うと料理を食べながら、司が頷いた。
 そんな彼らの様子を楽しそうに一別しながら、八雲はワインを傾けている。
「おみやげを用意しましょうかねぇ」
 弥十郎が言うとクロスが頷いた。
「私たちはそろそろ帰るし、空京だから、帰りに届けますね――良いよね? 九藍」
 クロスのその声に、口を美味で満たしながら九藍が顎を縦に振ったのだった。