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駄菓子大食い大会開催

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駄菓子大食い大会開催

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第一章 大いなる食欲の秋

 小春日和の蒼空学園。駄菓子大食い大会が告知された掲示板の前には、大勢の学生が集まっていた。
 押し合いへし合いする中で、プラム・ログリス(ぷらむ・ろぐりす)は掲示板を見ようと懸命に背伸びをしている。ふと体が持ち上げられたかと思うと、周囲より頭1つも2つも高くなる。身長が伸びた、わけではなく。居合わせたグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が肩に担いでいた。
「これで見えるだろ」
「……ありがとう」
 プラムはグラキエスの頭に鼻を向ける。
「何か良い匂いがするのね」
「そうか?」
 グラキエスもコートの袖をまくって、腕の匂いを嗅ぐがはっきりしない。気を取り直して、2人して掲示板を見る。
「うまし棒なのね」
「うまし棒なのか」
 似たような言葉にプラムグラキエスが顔を見合わせる。
「うまし棒は苦手?」
 グラキエスが聞くと、プラムはちょっと首をかしげる。
「苦手じゃないけど、あまーいのが好きなの。甘いお菓子なら参加したかったんだけど。お兄さんは?」
「俺は苦手だな。特に刺激の強いものはね」
「クッキーは?」
「クッキーなら食べられるよ」
 プラムはポケットから「さっきのお礼」とピンクのビニールに包装されたクッキーを3つ手渡した。
「探しましたよ」
 アルベルト・インフェルノ(あるべると・いんふぇるの)が人ごみをかき分けて、プラムを見つける。
「あなたは誰です? プラム様に何を?」
 プラムを抱き上げると、グラキエスに敵意を向けた。
「ここにいたんですか。てっきりロアに食べられたかと……」
 グラキエスを探していたエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)もそこに来る。
「……襲われるのが前提なのか」
「そう言うわけではありませんが」と言いかけて、アルベルトの敵意に気付く。アウレウスと共にグラキエスをかばうように立つ。
 3人の迫力で、瞬く間に周囲は凍りつく。それを溶かしたのは、プラムの「違うよ」の一言だった。
 プラムに耳打ちされたアルベルトは、敵意を解くと、グラキエス達に神妙な顔を見せた。
「申し訳ありません。私の早とちりだったようです」
 謝罪するアルベルトに、エルデネストとアウレウスも警戒を止めた。
 続いて「もしよろしければお礼でも」とアルベルトが言いかけると、プラムが「お礼はしたよ」とさえぎる。
「うん、これ、貰ったぜ」
 グラキエスがクッキーを見せた。5人の雰囲気が一気に緩む。
「お世話をおかけしました。ではまたいずれ」とプラムを連れてアルベルトは去っていく。
「ちょうど3つある」
 グラキエスは1つずつをエルデネストとアウレウスに渡した。
「大食い大会に出るのですか?」
 エルデネストに聞かれたグラキエスは頭を振った。
「刺激物はまずいだろ。ただロアが出るそうだから観戦することにしたよ」
 グラキエスの口からロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)の名前が出ると、2人のパートナーは複雑な心境になる。
「ロアは基本的に肉食だからな。頑張らせるにはどうしたら良いと思う?」
 3人は考え込む。
「そうだ。優勝したら俺を食べていいと言ったら、気分転換にはなるか?」
 グラキエスの発想に、アウレウスが慌てる。
「主! ロア相手になんと言う事を! 『食べていい』など危険すぎます! もっとご自分を大事になさって下さい!」
 それを聞きつつもエルデネストは別のことを考える。

 ── ひと騒動起きれば、グラキエス様を助けることになるだろう。するとまた見返りを貰えるかも ──

 まさに邪な誘惑に駆られている。
「とりあえず観戦に行くのであれば問題ないでしょう。行った先で考えても良いのでは? 予想以上に健闘するかもしれませんよ」

「シオーン、いつまで見てる? 参加したいのなら、申し込みに行けば?」
 ナン・アルグラード(なん・あるぐらーど)に話しかけられたシオン・グラード(しおん・ぐらーど)は、掲示板から目を離さなかった。
「いや……」とシオンは首を振ると、“運営委員募集”の箇所を指差した。ナンの眉がわずかに歪む。
「ジャスティシアとして、協力したいと思うんだけど」
 やっぱりか、とナンはため息をつく。シオンに右手を軽く振って立ち去ろうとする。
「ああ、良いんじゃないか。頑張ってくれ」
 シオンはとっさにナンの襟首をつかむ。そっくり返るのを踏みとどまったものの、ナンの長身が反り返る。
「手伝って……くれるよな」
「俺がなんで」と言おうとしたナンだったが、シオンの真剣な眼差しに、渋々うなずいた。
「よーし! そうと決まれば申し込みに行こうぜ!」


 百合園女学院でも大食い大会は話題になっていた。ただし……
「面白そうですけど、どなたが参加するのかしら?」
「私? 参加はちょっと」
「でも観戦には行ってみましょうよ」
「そうですわね」
 見物気分の生徒が多い中で、2人の百合学院生が闘志を燃やしていた。いずれもフードファイターを自任する生徒である。

 ── 大食い大会ですか……いっぱい食べられるなら参加します。……美味しく食べたいですね ──

 高く挙げた右手がキラッと光ると、いつの間にか塗り箸が握られていた。食欲魔神の異名を持つ獅子神 玲(ししがみ・あきら)。見た目は凛とした佇まいの剣道小町ながら、脅威の食欲と鉄の胃袋で、幾多のフードファイトを勝ち抜いてきた。
「はっ!」
 玲はワイワイ騒ぐ生徒達の中で、自分と似た雰囲気を感じた。周囲を見回すものの、既に気配は消えている。背中に冷たい汗が流れた。

 ── どこか慢心していたのかもしれません。気を引き締めてかかることにしましょう ──

 人ごみから離れたのは、イングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)。マスターの秋月 葵(あきづき・あおい)が姿を認めて駆け寄ってくる。
「グリちゃん、どこに行ってたのー? あら、この集まりは?」
「なんでも無いにゃー。それよりちょっと用ができたのにゃ。蒼空学園まで行きたいにゃー」
「……? 良いですけど」
 葵とイングリットは連れ立って蒼空学園に向かう。

 ── 葵が出るだけでも参加賞が貰えるにゃ。しかしさっきの着物の子、あれは間違いなくフードファイター、しかもなかなかの強敵にゃ ──

 イングリットは大会に向けて、更なる大食いの策を練ることにした。