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駄菓子大食い大会開催

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駄菓子大食い大会開催

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 やがて30分のラッパの音が鳴る。

「はーい、えっと20本以下の人ー、残念ですが、ここまででーす」
 美羽がマイクに向かって叫ぶと、約100人が席を離れた。中には「俺は追い込みタイプなんだー」と粘る生徒もいたが、運営委員に促されると仕方なく立ち上がった。
「参加賞にお菓子の詰め合わせがあるので、ちゃんと貰ってくださいねー」

 更に30分後に2度目のラッパが鳴る。

 30分の時点や1時間の時点で失格となった参加者は、“参加することに意義がある”生徒がほとんどなので、参加賞を貰っただけでも満足していた。
「ミスティ、インタビューをお願いねぇ」
 レティシアがミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)に振ると、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)と即席コンビを組んだミスティが秋月 葵(あきづき・あおい)にマイクを向けた。
「残念でしたねー。何本食べたんですか?」
「あたしは7本でダウンです。後はグリちゃんの応援をしまーす。グリちゃんガンバレー!」
 葵が手を振ると、イングリットもブイサインで応えた。
「貰った参加賞はどうしますか?」
「1週間くらいのおやつにします。村木のお婆ちゃん、ありがとうございまーす」
 今度は招待席に向かって大きく手を振った。
「はい、ありがとうございました。えっと、よかったら感想を聞かせて?」
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)にマイクが向けられる。
「結構、いけたと思ったんだけどなぁ。でももっと凄い人がたくさんいるんですね。パートナーのアディも頑張ってるの」
「なるほど、どの辺りに?」
「あの辺りなんだけど……あれ?」
 コハクが会場にカメラを向ける。さゆみの誘導で、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が映し出された。
 硬直したアデリーヌが、真っ赤な顔で口元を押さえている。カメラが映す直前、『うまし棒って、なんだかボソボソするのね』と食べ続けていたアデリーヌだったが、誤ってハバネロ味にあたってしまった。
「辛い! 辛すぎるわ!」
 口の中を鎮火しようと、甘い味のうまし棒を食べまくり、水さしごと水を飲みまくったが、一向に収まる気配がなかった。
「ちょっと、アディーーー」
 会場に戻ったさゆみが、急いで医療班に連れて行く。
「何か薬を!」
 ダリルは冷静に首を振って、炭酸水を差し出した。
「こんなことで薬をつかっていたらキリが無い。これでうがいをしなさい。牛乳でもいいぞ」
 かろうじて落ち着いたアデリーヌの顔を、さゆみが見つめる。
「ちょっと張れちゃってるねぇ」とアデリーヌの唇を、そっと人差し指で撫でる。リップクリームを取り出すとアデリーヌの唇を何度かなぞった。アデリーヌの胸の鼓動が早くなり、さゆみもそれに呼応するかのようにドキドキが大きくなる。
「あー、落ち着いたら、そろそろ空けて欲しいんだが」
 ダリルが咳払いをすると、さゆみもアデリーヌも恥ずかしそうに俯いた。そんな2人のところに、お菓子の詰め合わせが届けられる。
「えっと、これでしばらくおやつに困らないねー」
 取り繕いながらもニコニコするさゆみに、アデリーヌもようやく笑顔を取り戻した。

 他の参加者と同じく、ロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)もうまし棒にかぶりついていた。性格もあるのか余計な小細工はせず、いたって普通に食べると、唾液と共に飲み込んだ。
 タダより安いものはない。食いまくるぜー! と大会に参加したが、さすがに1時間も食べ続けていると、ロアもうんざりしてくる。パートナーのレヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)も『この辺が限界か、まぁ良くやった方だろう』と冷静に見極めていた。
 その時だった。
「ロアー、優勝したら、俺を食べていいぞー」
 2人の耳に、いや会場全体にグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)の声が聞こえた。
「食べる? グラキエスって……おいしいの?」
「いけません。プラム様には、今少し早い世界かと存じます」
 アルベルト・インフェルノ(あるべると・いんふぇるの)プラム・ログリス(ぷらむ・ろぐりす)の目を塞いで、守るように抱きかかえた。と言うのは、すぐ横のグラキエスに向かって飛び掛かってくるロアの姿を認めたからだ。
 レヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)が『まずいっ』と思った瞬間に、ロアは観客席へと駆け出していた。明らかに目つきが変わり、口からはよだれが滝のように流れている。
「グラキエスーっ! 食わせろー!」
 とっさの反応ができなかったグラキエスだが、アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)が「主よ、お任せあれ」と立ちふさがる。もう1人のパートナーのエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)は『少しは騒動になってくれないと、私の目論見が……』とアウレウスをどうやって邪魔するかを考えた。ただしアウレウスもエルデネストも出番は来なかった。
 素早くロアを取り囲んだのは、山葉涼司と運営委員の生徒達だった。
「そこまでだっ!」
 シオン・グラード(しおん・ぐらーど)ナン・アルグラード(なん・あるぐらーど)が前を塞ぐ。椎名 真(しいな・まこと)佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が退路を阻んだ。4人がかりで瞬時に拘束される。
「さすがに失格だな」
 山葉涼司の判断で、医療班に運び込まれた。
「ダリル、鎮静剤でも……」
「そうだな」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)によって、ロアは静かにさせられた。最後まで「グラキエスー、食わせろー」と叫んでいたが。
「お手数をおかけします」
 うめき続けるロアの傍で、レヴィシュタールは何度も頭を下げていた。

「俺のせいか? やっぱりやり過ぎたな」
「主よ、気にすることはありません。大事なくてなによりです」
 アウレウスは力強くうなずいた。
「グラキエスって、おいしいの?」
 落ち着いた状況に、プラムが語りかける。
「さぁ、舐めてみるか?」
 差し出された指を、アルベルトが止める間もなく、プラムが口に運ぶ。
「いけません! お腹を壊したらどうするんですか!」
 慌てるアルベルトに、プラムは「甘い……かも」とつぶやいた。
「今日は帰りましょう。プラム様には刺激の強すぎることが多すぎます」
 アルベルトはグラキエス達に一礼すると会場を後にした。
「やりすぎたか?」
 尋ねるグラキエスに、アウレウスとエルデネストは難しい表情をした。

「大会自体も面白いが、トラブルはもっと面白いぜ」
 ニーア・ストライク(にーあ・すとらいく)クリスタル・カーソン(くりすたる・かーそん)は互いにうなずいた。
 ウーマ、君城香奈恵、アデリーヌ、ロアと立て続けに起こるトラブルは、運営委員の負担を大きくしながらも、見ている観客を一段と盛り上げた。
「でもうまし棒を食べてるのを見てると、俺も食べたくなってきたな」
「そうね」
 ここでも互いにうなずき合う。
「帰りに買って食べるとするか」
「買ってくれるの? それなら私はチョコ味が良いな」
「ん、分かった」
 笑顔のニーアだったが、次のクリスタルの言葉で笑顔が凍りつく。
「じゃあ、お礼に私が晩御飯を作ってあげるよ」
「ク、クリス、せっかくだから外食にしないか。駄菓子屋でもんじゃとか……」
「さすがに今日はお休みでしょ。2人っきりでゆっくり食べたいなー」
 そっと肩を寄せるクリスタルに、ニーアは「嫌だ」とは言えなかった。
『仕方ない。うまし棒のついでに、胃薬も買うか』と買い物に1品付け加えた。

「そろそろ限界だ。静、隆政、すまん」
 頑張っていた滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)が席を立つ。
「ええっ! だぁりん☆、もう行っちゃうの〜。だぁりん☆がいないんなら、あたしも止める〜」
 超人的なペースで食べ続けていた源 静(みなもとの・しずか)は、洋介を追っかけて会場から出て行った。
「仕方ないのう。まだ酒もあるし、わしは食べていくかな」
 酒呑みは酒呑みを呼ぶ。うまし棒をかじったところで、シニィ・ファブレ(しにぃ・ふぁぶれ)が近寄ってくる。
「日本酒にも合うのか?」
「おうとも、どうじゃ一献」
「それならわらわもお返しじゃ。そっちの若いのも来ぬか?」
 止めようとする東條 カガチ(とうじょう・かがち)を押しのけて、東條 葵(とうじょう・あおい)も“即席 うまし棒つまみの会”に参加する。
「しかし若いのとはいただけませんね。こう見えても……」
「そうか? わらわはこう見えても700年生きておるぞ」
「わしもぴっちぴちじゃが500年は生きたな」
 2人の自己紹介に、葵は言葉が続かなかった。
「むぅ、それでは大先輩にお注ぎします」
「両手に華じゃ、そなたもグッとやれ」
 運営委員が止めようとしたが、「ちゃんとうまし棒は食べておる」とシニィと隆政に一喝された。


「みんなー、応援にも疲れてきたかなー。じゃあ、ここで私が一曲」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がアイドルばりに盛り上げようとしたところで、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)火村 加夜(ひむら・かや)に止められる。
「何で? 楽しいんだからいいじゃない?」
 マイクを取り上げたレティシアがアナウンスする。
「ここで臨時イベント、小鳥遊美羽さんの撮影会が開催されますぅ。希望者はお急ぎくださいねぇ」
「ちょっと、勝手な……」と美羽は言いかけたが、予想以上に会場内が盛り上がったのを見て、「仕方ないなぁ」と駆け出して行った。
「さてとぉ」
 レティシアが加夜を見る。
「ここで蒼空学園の山葉涼司校長の様子を見てみましょうかぁ。ミスティ、どうですぅ?」
「はーい、こちらは山葉校長でーす」
 コハクのカメラがアップで涼司を追う。加夜は画面に目を奪われた。
「山葉校長、1人で頑張ってるんですねぇ。ここは誰かついててあげても良いんじゃないかなぁ」
 レティシアが加夜にささやきかける。
「で、でも私は司会の仕事が……」
「無理にとは言わないですけどねぇ。司会の替わりは居ても、山葉校長の付き添いは、誰にもできるかどうかぁ」
「そ、そうかもね。ちょっと心配だから見てくるね。ちょっとだけ……」
 こうして司会の座はレティシア・ブルーウォーターが独占することになった。
「みんなぁ、あと半分だよぉ。頑張ってねぇー」
 参加者と観客から「おー!」の声が返ってきた。