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衣替えパラノイア

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第一章 着せ替え狂想曲 8

 秋日子たちとちょうど入れ替わりにやってきたのは、赤髪と金髪の二人の長身の美少女……に見える、エースとエオリアだった。
 その二人が……というよりはエースが、ニーアたちを見て足を止める。
「ん?」
 ニーアがきょとんとしていると、エースが彼の方に歩み寄ってきた。
「……ちょっと違うな」
「え?」
「ああ、ちょっと動かないで」
 そう言うと、さっとメイク道具を取り出して、いきなりニーアにメイクを始めてしまう。
 予期せぬ展開にいろいろ期待しつつ見守るクリスタルとエイミルの前で、エースは鮮やかな手際でメイクを仕上げ、ついでに軽く小物を整えると、さっと手鏡を取り出してニーアに見せた。
「ほら、こうするとこんなに綺麗だ」
 なるほど、ほんのひと手間加えただけなのに、メイク前とはかなり印象が変わって見える。
 ニーアがあっけに取られているうちに、エースはライオルドの方に目をやり……やがて、にっこりと笑った。
「君はわかっているね。そのままでも十二分に綺麗だよ」
 それだけ言うと、彼はエオリアとともに立ち去ってしまい……あとには見違えるように美人にされてしまったニーアと、またしても「似合う」というお墨付きをもらってしまったライオルド、そしてそんな二人の様子を見つめるクリスタルとエイミルだけが残された。
「や、ちょっと、変わり過ぎ! ニーアそんな美人になっちゃってどうするのよ!?」
 再び大爆笑するクリスタルに、すっかり狐につままれた様子のニーア。
「あの二人もかなりの美人さんだったのに、その二人に認められるって結構すごいことじゃない?」
 そしてライオルドはと言えば、あんまりなぐさめになってないエイミルの慰めに、ただただ苦笑するより他なかったのだった。

 ところで、女装が似合うといえば。
「……これで満足かよ、ったく」
 先ほど物陰に引き込まれた緑郎は、主にライラの手によって見事な「可愛い女の子」に仕上げられていた。
 一応最初はいろいろと抵抗してみたのだが、すっかり着替えさせられてメイクをされる段になるともう抵抗するのも諦めてしまい、結局されるがままになっていたのである。
「よくお似合いですわ」
「うんうん、ロックくんメイドさんのお洋服似合うね〜。かわいい! かわいい!」
 二人に褒められ、手鏡を見せられて……普段の自分からは想像もつかない黒髪の美女がそこにいるのにすっかり言葉を失う。
「……緑様とお呼びしてもよろしいですか?」
「好きにしろ……ああ、いや、もう好きにして」
 ことここに至ってすっかりヤケになったのか、口調まで女言葉にしてしまう緑郎。
 そんな二人に、雛菊が目を輝かせてこう言った。
「ねえ、ボクも同じお洋服着ていい? ライラちゃんも同じの着ようよ!」
「この際ですし……それもいいかもしれませんわね」
「ええ、それじゃ二人とも着替えてきて。今さら逃げたりしないわ」
 緑郎改め緑に見送られて、ライラと雛菊はロッカールームの方へと向かうのだった。





 さて、その頃女性ロッカールームでは。
「一体、どうしてこのような事態に……」
 そう言って、沢渡 真言(さわたり・まこと)は一つため息をついた。
 アルバイト仲間の久世 沙幸(くぜ・さゆき)アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)と三人でアルバイトに来たものの、まさかこんなことになるとはさすがに予想していなかったのだ。
 とはいえ、そう深刻に受け止めているのは、実は真言一人であった。
「なんだか面白そうなことになったわね。これって要するにどれでも好きな服を着ていいってことでしょ?」
「うんうん、いろんな服を着られるのは楽しいかも」
 すっかりこの状況を楽しんでいるアルメリアと沙幸。
「そうね。ここはずいぶんいろんな服があるみたいだし、せっかくだから普段着ないような服を探してみましょ」
「そうだねー。どうせなら、みんなでいろいろ着せ替えっこして遊んじゃおう? 二人とも可愛いからきっと何を着ても似合うと思うんだよね♪」
 そんな感じで、開放的な性格の二人にとってはよかったのかもしれないが、真言にとってはちょっと苦手な展開であった。
「とにかく、引き受けた仕事はきちんと終わらせなければいけませんし。沙幸さんとアルメリアさんが着る側に回るのなら、私はそれを回収する役でも……」
『えー』
 妥協案という名の逃げ道を模索してみたが、どうやら二人には不評のようである。
「まあ、何にしてもまずは着替えて倉庫に入らないとね」
 さっと話を変えて、ジョージアから受け取った服を確認するアルメリア。
「これって日本の婦警さんの服かしら? なんでシャンバラの工場にこんなものが?」
 首を傾げながらも、てきぱきと着替えを進めていく。
「私の方はナース服かぁ。白衣の天使って言うの? 一度着てみたかったんだよね♪」
 ナース服はナース服でも薄ピンク色のミニスカナース服という若干コスプレじみたものだったが、沙幸もご機嫌な様子であっという間に着替えを終えてしまう。
「じゃーん、どうかな、似合うかな?」
 かわいらしくくるっと回ってみせる沙幸。
「ええ、似合ってるわよ沙幸ちゃん。私の方はどう?」
「アルメリアも似合ってるよー」
 ……と、二人が着替えを終えてしまうと、必然的に注目が真言に集まってくる。
「って、真言ちゃんまだ着替えていないの?」
「真言はどんな服だったのかな? いつもの凛々しい執事服も素敵だけど可愛い服だって似合うと思うよ♪」
 そんな二人の声に押されるかのように、真言は先ほどジョージアから受け取った服を二人に見せた。
「そっか、ミニスカチャイナ服かぁ」
 嬉しそうな笑顔を見せる沙幸。
「こ、こんな素足の露出が激しいモノだなんて困ります……」
 真言はなおも渋っていたが、二人は真言の覚悟が固まるまで待ってくれるほど気長ではなかった。
「今さら嫌がっても無駄だよ? 私たちが強引に着せ替えちゃうんだからねっ♪」
 そう言うや否や、いきなり沙幸が真言の服を脱がせにかかる。
「ちょっと、沙幸さん、なんで脱がせようとしてるんですか!?」
 あわてて逃げようとする真言だったが、その退路をアルメリアが素早く塞ぐ。
「着替えないと倉庫に入れないのだし、仕方ないわよね♪」
「え、あ、アルメリアさんまで!?」
「そうそう。無駄な抵抗はやめておとなしくしろー、なんて」
「あら、そのセリフはナースな沙幸ちゃんより警官の私が言った方がよかったかしら?」
 ……と、そんなこんなで、結局真言も二人の手によって着せ替えられてしまった。

「ほら、そのすらりと伸びた御御足とスリットから覗くフトモモがセクシーで、とってもよく似合ってるんだもん」
 嬉しそうに笑う沙幸に、真言は顔から火が出る思いだった。
「は、恥ずかしいです……」
「恥ずかしがらなくても、よく似合ってるわよ」
 楽しそうに言うアルメリアに、沙幸が突然こんなことを言い出した。
「それじゃあ記念撮影よろしくね、アルメリア」
「そうね。皆で記念撮影でも……の前に、まずはスナップを一枚」
 そう言うや否や、いきなり沙幸と真言に向けてシャッターを切るアルメリア。
「……って、ちょっと、アルメリアさんは何を撮っているんですかっ!」
 真っ赤になって抗議する真言であったが、二人はその様子も含めて楽しんでいるのだから、むろん聞き入れられるはずもない。
「それじゃ、早速倉庫の方に行ってもっと色々探してみましょ。あっ、ちゃんと真言ちゃんの分も探してくるから安心してね?」
「え、いえ、だから私は運ぶ側で!」
「だーめっ。せっかくの機会なんだから、運ぶのは他の人に任せていろいろ試着して楽しんじゃおうよ♪」
「そうね。今日は色々な格好で写真を撮りまくるわよ!」
「ううう……」