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伝説の教師の伝説

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第四章:喧嘩番長


 山田 武雷庵が率いる“ブライアンズ”による襲撃は即座に行われた。
 校内から臨時教師たちを追い払うために、全ての不良たちが集まり、暴走や破壊工作を再開したのだ。
 授業は妨害され、施設も叩き壊される。
 一般生徒は逃げ惑い、臨時教師たちがかばう形になった。
 すぐさま鎮圧部隊が編成され、正面からぶつかり合う。
 分校における最大の戦いの幕が切って落とされたのだ。

「ヒャッハー! おい見ろよ。こんなところに種もみ剣士がいやがるぜ!」
 モヒカンのドラゴンニュートホー・アー(ほー・あー)は、種もみを狙う不良軍団に取り囲まれていた。
 彼は、モヒカンの素晴らしさを広めるためにやってきたのだが、分校の真の有様に愕然とし打ちのめされていた。
「スキンヘッドだと? なんと邪道な……。種もみを奪っていいのはモヒカンだけのはず」
「知るかよ。極西分校のリーダー、山田 武雷庵さまの方針だぜ〜!」
 スキンヘッドの不良たちは、ホー・アーの身体を持ち上げた。
「ええい、放さぬか。この種もみはあんたらのような不良が奪っていいものではない!」
 戦闘力や単体の重量ではホー・アーの方が上だろうが、何しろ数が多い。力づくで追い払っても後から後からスキンヘッドがわいてくるのだ。
「へっへっへ、いい苗床を頭に植えているじゃねえか。俺たちが持って帰って刈り取ってやろうぜ」
 あろうことか、ホー・アーのモヒカンにまで手が伸びてきた。奴らは、わしゃわしゃと赤毛のモヒカンを毟り始めたではないか。
「痛ててっっ、こら引っ張るな! オレはスキンヘッドになどならぬ! わ、わかった。種もみは渡そう。だからやめ……ぐはっ……!」
 ホー・アーは薄れ行く意識の中で、仲間たちに危機を呼びかける。
「……は、早く、逃げろ……。ここは、スキンヘッド地獄だ……」

「この分校の最大の不良グループのリーダーはスキンヘッドだと?」
 パラ実本校からやってきたピンクモヒカン、ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)は、衝撃に身を震わせていた。
 彼はこの分校にやってくるなりモヒカンを広めるために活動していた。
 手始めに何人かの一般生徒をモヒカン祭りにしたが、それでは足りないようだ。
 彼の目前に最大の障壁が立ちはだかったのだ。
「奴の名は山田 武雷庵。かなり気合の入ったスキンヘッドの不良だ」
 なんとか一命を取り留めたホー・アーが、ゲブーに伝える。
 彼の自慢のモヒカンはどことなく薄くなっており毟られた跡があるが気にしてはいけない。
「奴らもスキンヘッドを広めている。何とかしないとこちらも危ないぞ」
「確かに不利だよね」
 話を聞き、珍しく難しい顔で考え込んでいたバーバーモヒカンシャンバラ大荒野店(ばーばーもひかん・しゃんばらだいこうやてん)は、あまり気乗りのしない口調で言う。
「スキンヘッドの軍団はモヒカンを刈ることが出来るけど、モヒカン軍団はスキンヘッドを刈れない。あまり戦いたくないかも」
「大丈夫だ。先に攻撃に出る」
 ケブーは普段のお調子者の仮面を拭い去って、戦う男の表情になっていた。
「とにかくモヒカンに刈りまくれ! 勢力を伸ばして大軍団にするんだ。戦争だぜ、ヒャッハー!」
 彼らはバリカン片手に分校内へと散っていった。
 
「や、やめてくれ。俺はリーゼントを愛してるんだ……ぎゃあああっっ!」
 バリバリバリ!
 ケブーのバリカンにより、また一人哀れな一般生徒がモヒカンにされた。
「ヒャッハー! スキンヘッド軍団に負けるな!」
 ケブーは、獲物を追いかけまわす。
 男子生徒はモヒカンにし、女子生徒はおっぱいでも揉ませてもらう。
 それで彼の夢はかなうのだ。
 一般生徒は逃げ惑った。
「アニキ、やべえよ。鎮圧部隊がやってきた!」
 モヒカンのついでに斥候にいっていたバーバーモヒカンが息を切らせて帰ってくる。
 彼の話では、事態を重く見た臨時教員たちが、動いたらしいのだ。
「へへへ、返り討ちだぜ。相手は男か? 女か?」
「どうも女が中心らしい」
「じゃあ、おっぱい揉んで追い返してやるぜ、ヒャッハー!」
 と……。
「誰の何をどうするって?」
 周囲に気配を感じた。
 ゲブーたちを取り囲んでいたのは、蒼空学園に所属する空賊だった。
「なるほど、聞きしに勝る下品な顔ね。こいつが悪のリーダーで間違いないみたい」
リネン・エルフト(りねん・えるふと)は、武器を構える。
「ヒャッハー、色っぺえ姉ちゃんじゃねえか! いい声で鳴かせてやるぜ!」
 ゲブーは飛びかかる。一直線だ。
「下種が!」
 リネンは『真空波』を打ち出す。エネルギーが迸った。
「ゲハハハッッ! んなもんが効くかぁ!」
 ゲブーとて外見を除けば、戦闘経験豊富な戦士である。
 リネンの攻撃を防御しニヤリと笑った。
「気を付けて。そいつ結構やるよ!」
 空賊団団長のヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)も駆けつけてくる。
「【『シャーウッドの森』空賊団】参上!」
「俺様にとっちゃ、おっぱいが増えただけだぜ!」
 ゲブーとバーバーモヒカンは、ホー・アーとも合流し、三対三になった。
「上等じゃない! 二度とこの学校の敷居をまたげないようにしてやるわ!」
 ヘイリーはフェイミィとリネンと力を合わせ、目の前の不良モヒカンと戦い始める。

「この時間の国語の授業は賊狩りよ!」
 シャンバラ教導団からやってきていたルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、教室に集まっていた生徒たちを前に気勢を上げる。
 彼女は、現代国語の教師としてこの分校にやってきていた。
 動きやすいようにと親しみやすいように、ラフな軽装で生徒たちに注目されていた。
 いい具合だったのだが、外が騒がしくなり始めたのだ。
 モヒカンが暴れているのだ。
 すでに何人かの教師たちが向かったようだが、まだ決着はついていないらしい。
 うるさい中授業をするよりも、さっさと片付けて静かになった方がいい。
「あの野郎、分校生を襲ってモヒカンにしているらしいじゃねえか。許さねえ」
 教室の後ろで授業を見守っていた、ドラゴニュートのカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)も立ち上がる。
「そうよ。うちの組の生徒になにしてくれんのよ、あの男! パラ実本校生だって? 他校みたいなものじゃない! モヒカンの毛どころか、頭皮まで剥いでやるわ!」
 ルカルカは激怒し、武器を手に教室を飛び出していく。
「あ〜、お前らしばらく自習な。危ないから近寄らないように」
 カルキノスもそういって戦闘に加わる。
 戦線が一気に拡大した。


 暴動はピークに差し掛かっていた。
 雇われた臨時教師たちはやはり強い。
 山田 武雷庵が集めた極西分校の不良たちも歯が立たず敗走していく。
「くそっ、あいつら力づくで鎮圧にきやがった!」
 パラ実二代目総長夢野 久(ゆめの・ひさし)は、臨時教師たちの戦力によって次々に倒されていく分校の不良たちを見ながら悔しさに歯がみをしていた。
 分校の喧嘩に総長が出ていくのはお門違いと思い遠慮していたのが裏目に出たか。
「限界じゃよ。わらわ一人では支えきれんわ」
 武雷庵に雇われ、臨時教師と戦っていた辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)が後退してくる。
「夢野もこの場を去るがいい。次の日には何もなかったかのように静かになっておろうよ」
「ふざけんな。こいつらを見捨てて帰れるか!」
「ならばそれもよろしかろう。わらわは最後のひと働きじゃ。ではさらば」
 そういうと、刹那は姿を消す。
「おい、しっかりしろ。みんなまだやれるだろ。パラ実の意地があるだろ。見せてみろ」
 久はなんとか分校生を鼓舞しようとする。
「くそっ、臨時教師め。俺たちの力見せてやるぜ」
 いてもたってもいられなくなって、とうとう彼は立ち上がる。
「勝負してやらあ! 出て来いよ、臨時教師ども!」
 と……。
「面白れえじゃねえか、夢野。だったらそのパラ実生の意地とやら、実際に見せてみろよ」
 臨時教師たちに守られている一般生徒の間から、一人の少女が群れを割って出てくる。
 パラ実の新生徒会長である姫宮 和希(ひめみや・かずき)だった。女子制服の上から学ランといういでだち。気合の入った雰囲気をまとったバンカラ少女だ。
 彼女は学帽のひさしを指で押し上げ、挑戦的な笑みを浮かべる。
「それとも、まさかお前、口だけ番長じゃねえだろうな?」
 久は虚を突かれた様子で目を見開いたが、すぐに元の険しい表情に戻った。
「……生徒会長さんよ。お前がなんでそんなところにいるのかは聞かねえ。だが、これは俺たちの喧嘩だ。しゃしゃり出てこないでもらおうか」
「あ? 寝ぼけてんのか夢野? 俺は知ってるぜ。山田たきつけたのお前らだろ。その結果このザマだ。しっかりケツふけやコラ」
 和希は言う。
「それにさっきから黙って聞いてりゃ、お前らガタガタとうっせーんだよ。文句があるなら、言いたいことがあるなら、コブシで決着をつけろや。それが俺たちの“法律”だろ」
「筋が通らないコブシはただの邪道だ」
「筋なら通ってるだろ。俺とお前がいる。パラ実の校章と実力がある。それで十分だろ」
「姫宮、お前俺とやろうってのか?」
「それ以外に聞こえたら、耳を検査してもらったほうがいいぜ」
「上等だ」
 久は和希に向き直った。
「新生徒会長か。そういえば、就任の挨拶を忘れていたな」
「お前とは一度じっくりと話し合う必要があると思っていたんだ、なあ総長」
 久と和希は向かい合ったまま、ゆっくりと歩み寄る。
 空気が一気に張り詰めた。あっという間に喧嘩モードだ。
 様子を見守っていたガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)は、やれやれと肩をすくめる。
「……止めはしませんよ。極西の喧嘩にパラ実本校の二人が乱入して、代わりに喧嘩することに呆れてはいますが、まあいいでしょう。二人でのガチンコなら」
「俺たちはな、俺たちが俺たちであることを示せればそれでいいんだよ。そして、それは言葉なんかじゃ伝わらない」
 久の言葉にガートルードは複雑な表情をして。
「極西の連中に、パラ実の魂だとか意地だとかを実演して見せようっていうんでしょ? それで、生徒会長と総長がいきなり出会頭に喧嘩とか、バカすぎていっそすがすがしいですね」
「褒めてくれてありがとよ、ガートルード。俺は仲間と弱いものは傷つけねぇ。だが、名のある不良が相手なら大歓迎だぜ。つまり、漢の拳とはそういうことだろ?」
 和希はそう答える。
 二人は、一歩踏み込むだけで手が届く距離まで近寄ってピタリと立ち止った。
 バチバチ……、と二人はガンをつけあう。
 長身巨躯の久と小柄で細身の和希。体格は違うが、全身から放つ気迫とオーラは同じだ。
 辺りは静まり返っていた。事の成り行きを固唾を呑んで見守っている。
 次の瞬間。
 ドゴォッッ! と打撃音が響き渡った。
 久の放った重い拳が和希の頬にめりこんだのと、和希の鋭い蹴りが久の脇腹に突き刺さったのと同時だった。
 瞬きするより早い。何が起こったか把握できている者は少なかった。
 ぐっ……、とややよろめきながら、久は距離をとる。
 すぐさま体勢を立て直し、口元に笑みを浮かべた。
「なんだこれ? ハエが止まったかと思ったぜ。もっと真面目にやれよ」
「論外なんだよ、お前。これで総長とは笑わせてくれる」
 血の混ざった赤い唾をぺっと吐き捨てて、和希もニヤリと笑う。
「で、どうするんだ?」
 この彼女の言葉は、やるのか? やらないのか? といった質問ではなかった。
 喧嘩をするのはすでに前提。
 同じくらいの力を持つ二人が向かい合っているのだ。そんなものはすでに決定事項。
 どう決着をつけるか、と聞いたのだ。
「そういえば、女の子扱いしなくてよかったんだよな、生徒会長」
「当たり前だろ。手加減したら、潰すぜ」
「上等だ。じゃあチェーンデスマッチでどうだ?」
「いいねぇ。イカスじゃねえか」
 久の提案に和希はためらわずに頷く。
 チェーンデスマッチとは、二人の手首を鎖でつなぎ、至近距離から殴りあうデンジャラスな喧嘩だ。
 距離が取れない上に、お互いが力で引っ張りあうことになるためダメージは半端でない。
「死して屍拾うものなし。それでいいなら審判しましょう」
 そう言いながら、ガートルードはすぐさまチェーンでつながれた手錠を用意する。
 鎖の長さは三メートル。久や和希にとってはわずかに踏み込むだけで相手に届く距離だ。
 こういう道具がすぐに出てくる辺りはさすがにパラ実だ。
 ガートルードは、久の左手首と和希の左手首を手錠で繋いで、鍵を遠くに放り捨てた。
「万一のときは、すべて私が処理してあげます。心置きなくバカ晒すといいですよ」
「すまねえな」
 久は小さく微笑んで、再び和希と向き合う。
 校庭には生暖かい風が吹いていた。砂埃が舞い上がり二人の衣装をなびかせる。
 ゴクリと誰かが唾を飲む音が聞こえた。それくらいの無音。
 空気だけが、二人の殺気でピシリと割れる。
「こいよ」
「ああ」
 久と和希は同時に頷き、そして同時に踏み込む。
 ドンッ……! と地面がなった。衝撃波が弾け飛びぶつかり合って大気を揺らす。
 ドガガガガガガ……ッ!!
 そうとしか形容できない連打音。
 二人は正面から殴りあう。
 手加減なし、馴れ合いなし、シナリオなし。喧嘩する理由すら必要のない超本気のガチンコだ。
 どちらもありったけの技を駆使して戦いあう。そこに言葉はなかった。
 遺恨もわだかまりもないのに、どうしてここまで本気でやりあえるのか。
 誰もが唖然としていた。
 新生徒会長VS二代目総長。
 パラ実本校でも見れないであろう伝説の一戦が、こんな外れの極西分校で行われるとは……。 
「なんなんだよ、これは……。俺たちは、今何を見てるんだ……」
 成り行きを見つめていた武雷庵がようやくのことでうめいた。
 あ……ありのまま今起こったことを話すぜ。俺たちは臨時教師たちと戦っていたと思ったら、いつの間にかパラ実の生徒会長と総長が殴りあいを始めていた。何を言っているのかわからねーと思うが以下略。……とでも言いたげな表情だ。
「なんで、あの二人喧嘩してるんだよ。関係ないだろ?」
 そんな武雷庵に目をやって、ガートルードは鼻を鳴らす。
「それがわからないのなら、山田はただのクズということです。群れて、弱い奴にだけ威張って、強い奴には媚びる。そんな、ただのクズなのですよ」
「な、なんだと? どういうことなんだよ、先生。教えてくれよ」
「いいかげんにしなさいよ、あんた」
 ガートルードは武雷庵の襟首をつかんで持ち上げる。
「弱肉強食、無秩序だからこそ、ルールがあるってことまだわからないのですか? あの二人はバカですよ、確実に。ですが、確実に模範的パラ実生でしょ。無法もせず弱い者に手をかけず、短い鎖で手を繋いで周囲に迷惑をかけず、二人だけで正面からただひたすら殴りあう。喧嘩っていうのはこうするものなんだ、って見本を示してくれているでしょ?」
「いや、ノーガキ垂れてるけど。喧嘩を止めるのが普通だろ、教師として」
「喧嘩自体は悪じゃないことすらも理解できてないようじゃ、山田は用なしです」
 ガードルードは武雷庵をポイと放り捨てて他の不良たちにも向き直る。
「パラ実生なんだから、ガチンコはおおいにやりなさい。ただし、無秩序に暴れるなんて下っ端チンピラのやることです。そんなクソみたいな奴は野垂れ死んでよろしい。強い奴を目指して、上を狙って戦いなさい、と言ってるんですよ」
「テキトーなことを言うなよ先生、俺たちでも強くなれるってのかよ。パラ実本校にもついていけず、極西に流れてきたんだぜ、俺たちは」
 不良の一人が恐る恐る聞く。ここは、クズの吹き溜まりなんだ、と彼は言った。
 カードルートは無言で不良を張り飛ばした。彼は倒れて動かなくなるが、そんなことは関係ない。
「腕力ではなく心の強さを磨きなさい。どちらを向いていようとそれさえ曲げなければ、あなたちは何も恥じ入ることはありません」
 その台詞に誰も口を開かなかった。
 ただひたすら、魂と意地をかけて殴り合う久と和希を見つめ続ける。

 さて。
 悪のモヒカンと分校を守る正義の少女たちの戦いも終わりに近づいていた。
 最初は互角だったように見えたモヒカン対娘たちだが、ルルールたちも参戦したことによりあっという間に形成は傾いた。
 リネン、フェイミィ、ヘイリーの三人のコンビネーション攻撃によって、ゲブーはボコボコに叩きのめされる。自慢のモヒカンはしおれボロボロだ。
「まだ続ける?」
 リネンは剣を構えたままゲブーを睨み据えた。
「ひ、ひゃっは! 今日のところはこの辺で勘弁してやってもいいぞ」
「ふざけてんの、あんた? あれだけ粋がっておいて、そんなものなの? 笑わせるわ」
 ヘイリーはアロー・オブ・ザ・ウェイクを引き絞る。
「ま、まあ待て待て。よしわかった。俺様のおっぱいを揉ませてやる。それでいいだろ」
 ドスッ!
 矢が刺さった。
「もう口開くな、ゲブー。そして二度とここに足を踏み入れるな、わかったな?」
「わ、わかったわかった。そう伝えておくよ」
 何も言わなくなったゲブーに変わって、バーバーモヒカンが口を開く。
「もう帰っていいよね?」
「もういいわ」
 さすがに色々と疲れたのかヘイリーが締めくくる。
「あたしが与える掟は一つだけよ。『カタギに手を出すな』あとは自分で考えなさい。本当に自由に、強く生きたきゃね」
「わ、わかったよ」
 そこへ刹那がやってきた。
 ゲブーたちに向かって。
「わらわが退却の手伝いをしよう。依頼者の頼みじゃ。無事に帰れるようにしてやるぞ」
「あ、待ちなさい、あんたたち! 落とし前くらいつけていきなさいよ!」
 ルカルカが割って入る、が。
 それより先にゲブーや刹那たちは姿を消していた。
 逃げ足は速い。
 ルカルカは、ふうっと一息ついて、生徒たちの方に向き直った。
「さ、教室に帰りましょ。国語の勉強しなきゃね」