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過去という名の鎖を断って ―愚ヵ歌―

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過去という名の鎖を断って ―愚ヵ歌―

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     ◆

 ルカルカとダリルは、ウォウルに尋ねた住所に到着している。更に言えば、その建物の中、とある部屋の一室にも。
「本当に行くのか?」
「……そうなるわね」
「でもその体じゃ――」
 ダリルは手を動かしながらにラナロックへと尋ねる。淡々と答えた彼女に対し、ルカルカが心配そうにその姿を見つめていた。
右腕と両足を失った彼女をみて、誰が心配せずにいられるだろうか。
「大丈夫よ。手足はもう治ってるらしいから、もしもの時はすぐに動けるわ」
「そうか。でも一応、暴走しても良い様に出力は下げておくぞ」
「ありがとう」
「ラナさん。やっぱり思いとどまった方が良いんはないの? その――」
「あのね、彼女たちに怒られちゃったわ。過去から逃げるな、ってね。だから私、行かなきゃいけないのよ。皆が私の為に頑張ってくれているんだもの。こんなの、生まれて初めてなの。だからみんなが私を必要とするなら――」
「もう言うな。わかった」
 最終調整を終わらせたダリルが、彼女の肩に手を置いた。
「良いか。お前が無理をするのは構わん。自身が機晶姫だから、と言う考えも、とやかくは言わん。だがな、覚えておくといい。お前の傷は、大勢の物の心を傷つけ、そしてお前のパートナーの寿命を縮める」
「ウォウルさんの……?」
「そうだよ。だってウォウルさん、貴女に撃たれた時も、皆に早く病院いけって言われてるのに、皆の心配ばっかりだったもの。勿論、貴女の心配も、ね」
 馬鹿だな、と、ラナロックは笑った。
「でしょ? 私たちも随分手を焼いたわよ。でもね、馬鹿だなって思う貴女が、彼と同じ事をするのはおかしなはなし」
 彼女の言葉を受け止めたラナロックは、そこでゆるりと返事を返した。
「わかったわ。忠告、ありがとうね。皆から貰った命だもの、大切に使います」
 言葉の最後、漆黒だった瞳が銀色のそれに戻り、彼女や優しい笑みを二人に溢す。
「あ、あぁ……(この女、目の色が)」
「綺麗な目の色ね!」
「うふふ、ありがとうございますわ。では、言ってまいります」
 二人に軽く会釈をした彼女は、鳳明に抱きかかえられて車椅子に座る。
「頼んだぞ、皆」
「ありがとう! 必ず連れて帰るからね!」「よろしくね! じゃあ、また後で」
 ルカルカが手を振り、一同を見送る。
「あれ、なんだろう。この絵――」
 と、手を振っていた彼女が何かを見つけ、それを拾い上げた。ダリルもそれを覗き込むと、それは一枚の絵――。先程まで、カイナが書いていたラナロックの絵。
「うわぁ、上手! そっくりね、彼女に」
「……ふっ。そうだな」
 やや驚いた表情を浮かべるダリルは、ため息にも似た様子で笑顔になる。
「最後に浮かべた笑顔、あれにそっくりだな」
 改めて、彼等の去って行った扉に目を向けた彼は、心の底から無事を願う。





     ◇

むかしむかしの、ずっとむかし。

きらわれもののおとこのひとが、ひとりでくらしていました。

おとこのひとはいいました。

「独りは辛い。独りは悲しい」

けれども、おとこのひとはひとりぼっち。へんじはかえってきません。
おとこのひとはなきました。ずっとずっとなきました。そのときです。

「泣くのはおよし、泣くのはおよし」

きれいなおんなのひとがやってきて、そういいました。
おとこのひとはなきやんで、おんなのひとにいいました。

「独りは辛い。独りは悲しい」
「知っている、知っているとも。だからもう、泣くのはおよし」

そういって、おんなのひとはおとこのひととくらすようになりました。
おんなのひとがやってきてからは、ひとりぼっちではありません。
ちかくにすむひとたちがたくさんやってきました。おとこのひととおはなしをして、まいにちおまつりさわぎです。

おとこのひとはもう、ひとりぼっちではありません。


 なかよくくらしていたおとこのひととおんなのひとでしたが、あるひおんなのひとはいいます。

もう貴方は独りでない。だからわたしは、帰ることにしよう

そういって、おんなのひとはおとこのひとのところからいなくなってしました。

  おとこのひとはひとりぼっちではありません。
  おとこのひとはひとぼっちではありまん。

けれど、おとこのひとはかなしくなって、またなきだしてしまいました。

ずっとなきつづけるおとこのひとをしんぱいしたひとたちは、おとこのひとをはげましつづけます。

おとこのひとは たくさんの 「ありがとう」 を い/red}いました 。
  おとこのひとは たくさんの 「ごめんね」を いいました 。
    おとこのひとを しんぱいした たくさんの ひとたちは しにました
      おとこのひとは しんぱいした たくさんの ひとたちを ころしました


とこのひとは ―― おんなのひとに あいたかったのです。
とこのひとは、そのきもちをこめて たくさんのおにんぎょうを つくりました。
んなのひとにせたおにんぎょうを  たくさたくさんつくりました。


 まっかな、まっかなしたいでできた オニンウ。