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第2章  裏山を駆る者


 陽光は射し込むものの、やはり冬の山は寒い。
 吐けば空気は、白くぼけて姿を視せる。

「で、なんで俺がお前と裏山なんざ捜索しなきゃいけないんだ?
 どうにも納得いかねぇぞ」
「ふむ、お主のような戯け者と組む不満はおおむね同意だ。
 だが端的に言えば、我とお主は見張りが向いていないということだろう。
 フレンディスは隠密が得意ゆえ、邪魔をするわけにはいかぬ……致し方ないな」
「ま、あの無機物がそのまま永遠に消えてくれりゃ好都合だが……」
「なんということを言うのですか」
「だいたい、フレイも面倒なことに首を突っ込みやがるから……」
「人助けとは、素敵ではありませぬか」

 一緒に仲よく歩いていると思いきや、どちらもむすっとした表情。
 最初にしかけたのは、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)だ。
 レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)も、きっぱりと応対する。

「しかし…… やっぱ神社張ってた方がよかったのかもしれねぇが、だがな……」

 足を止め、周囲の様子を見回したベルク。

「ほかのやつらも調べにきてるっつーのは、原因がココにあるっつ可能性が多少でもあるってことだからな。
 なにかしら手がかりがあるかもしれねぇってところか。
 やれやれ、仕方ないがもーちょい探してやるとするか」

 いつもどおり、挑戦的な顔に戻る。
 気をとりなおして、再び歩き始めた。

「要するに、ここでなにかを見つけたら、大人しくさせればよいのであろう?」

 納得した風のお隣さんに、レティシアが『緑竜殺し』を抜く。
 相変わらずの仏頂面ゆえ、語る言の葉に妙な重みが。

「ふむ、お主この裏山を盛大に焼き払ってみるのはどうだ?
 我が許そう」
「なに言って!
 手がかり失うっつか、それ以前の問題だ!」

 突拍子もない提案に、思わずツッコまざるをえなかった。
 だがベルクに、というか事件に興味のないレティシアは、そんな言葉など気にしない。
 視線を向けることもなく、すたすたと歩き続ける。

「迷子になった子ども達は、きっと不安で恐い思いをしている。
 早く助け出さないとね、お義父さん!」
「うむ、そうだのう。
 森は迷いやすいゆえ、ここはわかりやすく木に傷をつけたりマーキングしながらすすめなくてはな」

 子ども達が心配でならない、リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)
 【超感覚】を発動中の身体には、白く大きな犬耳と1メートルの尻尾が生えていた。
 スプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)も、同じく【超感覚】を使っている。
 だがもともと獣人のため、リアトリスのような見た目の変化はあまりないかも。

「ね、みんなはなにか知っているかな?」
「すまぬの……」

 一歩を踏み出すたび、違う花や草木と言葉を交わす。
 リアトリスは、【人の心、草の心】の能力をつうじて情報を集めていた。
 そんなパートナーのこともあり、傷をつけるときにはきちんと謝るスプリングロンドである。

「きゃっ、危ないなぁもう」

 たま〜にいる巨大版食虫植物やちょっと凶暴な熊なども、フラメンコの踊りに乗せて退ける。
 それでもおとなしくならない敵には、【即天去私】で攻撃することも。

「リアトリスを傷つければ許さぬぞ?」

 戦闘っぽくなれば、スプリングロンドも黙っちゃいない。
 【鬼眼】で隙を生むとともに、尻尾に固定していた『骨の短剣』を構える。

「うわっとっと!」

 とっさの落石を、白銀 昶(しろがね・あきら)は【空蝉の術】で躱してみせた。
 動植物だけではなく、ときには山自体も脅威を向けてくる。

「地祇が住んでるって話だから、独りで寂しい地祇が子どもを誘って遊んでいるのかも。
 子どもも、遊ぶのに夢中で帰ってこない……っていうのならいいんだけどね」
「そうだよね、地祇の悪戯程度ですめばいいんだけどなー」
「神隠しと称して犯罪を犯している人の仕業かもしれないから、のんびりとはしていられないか」
「情報伝達は北都に任せる。
 オレは野生の勘でがんばるさ」

 【禁猟区】と【超感覚】のダブル使いで、警戒を強める清泉 北都(いずみ・ほくと)
 もちろん昶も、両スキルで感覚を高めている。
 万が一の可能性も頭に入れつつ、山を登っていく3名。

「北都殿、きちんとついてきておるであろうか」
「だっ、大丈夫だけど……もう少しゆっくり……歩いてほしい……かな……」

 道案内役として先頭を歩くのは、ゲイルである。
 ゲイルの移動速度は早く、ついて行くのは一苦労。
 それでも。

「地元だから判るよね……判るよね?」

 と言って自分から頼んだのだし、力の限りがんばってみる。

「靴とかなにか落ちたりしていないかな?」

 『銃型HC』でマッピングしながら、位置情報などを【PM】のメンバーへと送信。
 懐に忍ばせた金平糖を、服の上から握りしめる。