蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

【ダークサイズ】捨て台詞選手権

リアクション公開中!

【ダークサイズ】捨て台詞選手権

リアクション

3.大総統の館 1階ガーディアン

 大総統の館1階の隅では、ラルクとダイダル卿が翡翠の治療を受けている。

「やれやれ、この調子が続くと思うと、今日は自分も大変ですね」
「ありがとな翡翠。助かるぜ」
「そういえばラルクさん、あの台詞……戦闘員と言うより、ご自分用の台詞にしか聞こえませんでしたが……?」
「ん? そうか?」
「いち戦闘員が言うにはかっこよすぎるかと」
「そ、そうか。そういやペンギンやパンダは言えねえしな……」
「のうラルク。あの台詞、わしにくれんかのう」

 ダイダル卿はラルクを名で呼び、捨て台詞を譲ってくれないかと頼む。

「うーん、あんたのために考えた台詞じゃねえんだが……」
「あの台詞、くれんかのう……わしも台詞欲しいんじゃ」

 ダイダル卿は重ねて頼むが、ラルクはどうしようか悩んでいる。
 悩んでいると言えば、椿 椎名(つばき・しいな)も眉間にしわを寄せながら、先ほどダイソウたちがいただいていた食器類を片付けている。

「『いらっしゃいませ、何名様ですか?』……違うな。『ご注文は? なに、カードキー? 10000Gになるぞ!』……うーん、違う……ていうかこっちも忙しいんだよっ。何でオレ台詞なんて考えてんだ」

 今回はダイソウ達の捨て台詞募集、という形だが、館1階のガーディアンを受け持つ彼女は、自分も台詞が必要なのではないか、と責任感に駆られて台詞を考える。
 だが、一向にしっくりくるものが思い浮かばない。
 考え込んで腕を組んでしまう椎名に、ソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)が文字を書き込んだ紙をぴらぴら掲げながら走ってくる。

「マスターマスター! 決め台詞考えたよ〜」
「お、でかしたソーマ!」
「『ここを通りたければ、このオレが作ったケーキを食べてから行け! もちろん有料です』」
「途中までいい気がしたけど……有料かよ。いくらなんだ?」
「んーとね、10000G」
「高えっ!」
「でね、カードキーは100000Gに値上げ」
「ソーマちゃん、ぼったくりはいけませんよ」

 椎名の隣でコーヒーを淹れながら、ナギ・ラザフォード(なぎ・らざふぉーど)が口を挟む。

「私たち1階ガーディアンの仕事は、2階へ続く扉のカードキーを守護することです。台詞もそれがらみのものがいいのでは?」
「うん、そーだなー。何でかわかんねーけどオレたち、正義の味方に経済力で勝負するハメになってるなー」
「ほうほう! それは聞き捨てでけへんなぁ」

 と、そこに寄って来た大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)
 彼曰く、

「どや、僕の捨て台詞、1階ガーディアンで使うてみーひんか?」


☆★☆★☆


 ぎぎぎぎぎぎ……

 大総統の館の重い扉を開け、館1階へと足を踏み入れる向日葵たち。
 そして、立ちはだかる1階ガーディアンの椎名。

「いらっしゃいませー」

 喫茶エニグマのオーナーとしてのくせか、反射的に椎名は上の台詞を吐く。
 そして驚くのは館に初めてやってきた面々。

「ヒャッハー……ってなんだこりゃあ!? だだっぴろい店じゃねえか!」

 ゲブーはいの一番に飛び込んだものの、目の前の情景に立ち止まる。
 向日葵がゲブーを追い抜き、適当な空いている席に座り、

「ふー。カリペロニアで唯一憩いの場だわー」

 と、くつろぎだす。

「お、おいおい。休んでんじゃねえよ」

 ゲブーが向日葵に歩み寄るが、そこに椎名が来て、

「よっ、向日葵。何にする?」
「いつもの『エニグマセット』ね」
「はいよ」
「常連かよ!」

 との二人の会話に、ゲブーはついつっこむ。

「ねえ椎名ちゃん。今日もやっぱりカードキー買わないといけない?」
「まあ、こっちも仕事だからなぁ」
「いつもエニグマセット頼んでるから、安くなんない?」
「ふっふっふ。オレは『謎の闇の悪の秘密の椿屋珈琲店』だ。1階ガーディアンとしてカードキーの割引はできねーな」
「よーし、がんばるぞー」
「仲良しかよ!」

 ゲブーの言葉をよそに、2階へ続く扉の前で、突然フランツが生前の名曲セレナーデを奏で始める。
 それをバックに泰輔が仁王立ちで向日葵たちに立ちふさがる。

「はーっはっはっは! よぉ来はったな、諸君。僕の守護する大総統の館1階へ!」
「一応ガーディアンはオレなんだけど」
「あくまで台詞やから」

 クレームをつけに行く椎名だが、泰輔は耳打ちして彼女を制する。

「2階に進みたければ、僕の持つカードキーを手に入れてみぃ!」
「カードキー持ってるのはオレだってば」
「あくまで台詞やから。さあ勝負や!」

 と、泰輔は対ダークサイズに宣戦布告。

「いいぜ。今度は俺様がいってやらぁ。ダイソウトウをモヒカンにするウォーミングアップだぜ」

 前に出るのはゲブー。
 続いてバーバーモヒカンが、

「よっ! ピンクモヒカン兄貴!」

 と、太鼓もち。
 ゲブーは向日葵を振り返り、指をさす。

「やい、おっぱい(向日葵)!」
「……は?」
「仕方ねえからあいつ(泰輔)は俺様が華麗にモヒって(倒して)やる。てめえごときじゃ、そいつ(椎名)に手いっぱい、いや手おっぱいだろうからなぁ。お礼にてめえが満足するまでおっぱい揉みしだいてやるから、遠慮するなだぜーっ!」
「ちょ、あんた何言ってんの」

 生まれて初めておっぱい呼ばわりされた向日葵は、思わず胸を隠して味方のゲブーを警戒する。

「おっぱいは素晴らしい! 大だの小だの言ってるやつらは何も分かってねえな。おっぱいは存在そのものが崇高なんだぜ。おい、おっぱい(向日葵)。俺様のゴッドテクでお望みのサイズに大きくしてやってもいいんだぜ?」

 と、向日葵に近づきながら、ゲブーは手をわきわきさせている。
 ゲブーの全おっぱいを愛するテンションに引き気味の向日葵は、

「あ、うん。あたしは間に合ってるから……」

 と、味方なので一旦やんわりと断る。

「がはは! 遠慮するなだぜーっ! まあ見てなっ」

 ゲブーは踵を返して泰輔に襲いかかる。

「ヒャッハー! 男はモヒカンなら全て友! てめえも俺様の友達にしてやらあっ!」

 ゲブーとバーバーモヒカンが、泰輔を挟みうちにして襲いかかるが、泰輔はその間を紙一重でするりとかわす。

「げえっ! 俺様の一撃をかわしやがった!」
「甘いで君! 攻撃する前にあの注意書きを見ることや!」

 泰輔が指さす先には、ナギがおり、その傍らの立て看板には、

『椿屋珈琲店。誰でも歓迎! ルール:人種・性別・善悪まで区別ない。挑戦者の方は従業員に従ってください』

 と書かれてある。

「他のお客様のご迷惑になりますので、暴力行為は禁止です」

 ナギが言葉を足す。
 美羽やクロセル、さらに永谷も、すでにテーブルに陣取って、なぜかエニグマセットを注文している。
 別のテーブルにはダイソウたちもくつろぎながら観戦している。
 それを見て、ゲブーもぎぎぎと悔しそう。
 泰輔はさらに高笑いをし、

「はっはっは! この1階では物理攻撃はでけへんで。暴力行為が禁じられた結界が、このフランツのセレナーデから発せられるからや!」

 と言うが、驚くのはフランツ本人。

「ええっ、そうなのかい、泰輔!? 僕も知らなかったよ!」

 それを隅のテーブルで見ている、レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)だが、

「のうレイチェルよ。フランツの演奏にそんな特殊効果なぞ、あったかのう……?」
「いいえ。いつもの泰輔さんの思いつきです」
「やれやれ……ところで我はすることがなくてヒマなのだが……ダイソウトウの隣で審査員をやっててよいのか?」
「そ、そうですね……私も泰輔さんの『アレ』が始まるまで、所在がありませんし」
「『アレ』か。しかしそなたも懸念しておろう」
「ええ。泰輔さんの『アレ』。大きな不安要素が一つあるのですが……」

 顕仁は自前の審査用紙に目を落とし、レイチェルは心配そうに泰輔を見る。
 二人の心配を知らず、泰輔はゲブーを指さし、

「というわけで、1階はカードキーを手に入れるためのお金対決のみや。つまり、有効なスキルはジャスティシア(判官)の『ゴルダ投げ』のみになる。今回は特別に、10000Gのダメージで僕の負けや。さあ、ジャスティシアは出てこんかい!」
「投げ銭、つまりおひねりだね! 僕も演奏頑張るよ!」

 ジャスティシアの『ゴルダ投げ』を食らい、投げられた小銭を回収して労せずして儲ける、というのがレイチェルの言っていた『アレ』、つまり泰輔の作戦らしい。
 フランツも少しずれた感覚で、演奏をがんばる。

(我ながらええ作戦や。これで今回は小銭大儲けやで……)

 と、泰輔は思わずニヤリとするものの、

「泰輔さん、すまないが……俺達の中にジャスティシアはいないんだ……」

 永谷が申し訳なさそうに言う。

(ああ……やはり……)

 レイチェルは悲しそうな目で泰輔を見る。
 しかし、それも見越した泰輔は、

「フッ、かまへん! 他のクラスが投げてもええんやで。さあ、小銭投げて来いや!」

 と、小銭の受け入れ体制でみんなをあおる。

「……」

 少しの間があったのち、

「椎名ちゃん、カードキーください」
「あ、じゃあ今回は10000Gで」
「うん」

 向日葵が椎名からカードキーを買う。

「ああっ、椎名君! 僕の作戦が台無しやないかい!」
「なんか、もういいかなって」
「えええー!」
(あああ、泰輔さん……)

 涙目の泰輔に哀れな目を向けるレイチェル。
 そして顕仁は、

「うむ。0点、と……」

 と、採点用紙の泰輔の欄に『零』と書きこんだ。
 立ち上がろうとする向日葵たちだが、そこにソーマが先ほどのメモを椎名に渡す。

「おっと! カードキーを手に入れたからって、スルーはだめだぜ。『ここを通りたければ、オレが作ったケーキ(エニグマセット)を食べてから行け!』

 椎名の台詞の後に、ナギとソーマが美味しいコーヒーと、椎名特製激甘ケーキを持ってくる。
 いつも流れでつい頼んでしまうものの、砂糖より甘い椎名ケーキに苦戦しながら平らげるハメになる向日葵たち。

「くそ……俺のおっぱいはおあずけか……」

 そして泰輔の自爆のような敗北に、一人はがみするゲブーであった。