蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

彼女はデパートを見たことが無い。

リアクション公開中!

彼女はデパートを見たことが無い。

リアクション

「……まだまだ面白そうな場所、いっぱい」
 みんなと別れ、次なる楽しそうな場所を探してフラフラと歩いていくニア。
「すみませーん、あなた一人なの?」
 そんなニアに声をかけてきたのは笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)
「うん、一人」
「良かったら一緒に行かない? 一緒の方が楽しいし」
「楽しい……、うん。行く」
「よし、決まりだね! あ、ボクは紅鵡っていうの。よろしくね」
「ニアはニア。よろしく」
「よし! そうと決まれば早速出発!」
 紅鵡に手を引かれて歩きだすニア。二人が向かったのはグッズなどの売っているお店。
「クリスマスが近いから見てるだけでも結構楽しいんだよねー」
「……うん」
 クリスマス一色の店内にあたりをキョロキョロと楽しそうに見るニア。
「よーし、どんどん行こう!」
 次に二人が向かったのは洋服売り場。
「今の服も可愛いんだけど、これとかも可愛いと思うんだ。試着してみようよ」
「うん」
 紅鵡はいくつかの服を持ってニアを試着室へ。
「……どう、かな?」
 少しして紅鵡が持ってきた服を着て出てきたニア。
「うん、思ったとおり! すごく似合ってる」
「……ありがとう」
 嬉しそうに照れるニア。それからしばらくいくつかの服を試着して洋服売り場を後にする。
「そうだ。ねぇ、ニア。今度ボクと一緒にクリスマスパーティーしない? 楽しいよ」
 移動中、紅鵡が手を引かれ後ろを歩くニアに聞く。
「……パーティー、楽しい……。うん、する」
「やった! 楽しみにしててね!」
「うん……」
 二人が歩いていると少し先の広場に人だかりを見つける。
「さぁさぁ、これよりクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)によるマジックショーを始めるよー! 見ていってくださいねー!」
「マジックショーかぁ。面白そうだし、せっかくだから見ていこうか?」
「……うん」
 ニア達もその人だかりへと入っていった。
「皆さんお集まりありがとうございます。これより皆さんには素敵な手品をお見せいたしますよ! もちろん、魔法ではございません! 手品です! では、まずお集まりいただいた皆さんにちょっとしたプレゼントを……」
 クロセルがシルクハットを持ち、その中に手を入れる。
「それ!」
 掛け声と共にシルクハットの中から出てきたのはミニ雪だるま。観客から歓声が上がる。
「どうでしょう! なんの変哲もないシルクハットからなんとミニ雪だるまが出てきました! もちろん魔法なんてものは一切使っておりませんよ! では、このミニ雪だるまはそこのちびっ子に差し上げましょう」
「……すごい」
 クロセルのマジックに夢中のニア。
「確かに……。本当に魔法じゃなければだけど……」
 と、そこに紅鵡の持つ電話が鳴り始める。
「あ、電話……」
「……どうしたの?」
「ううん、気にしないで大丈夫だよ……。はい、もしもし」
『もしもし笹奈 紅鵡か? グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)だ』
「グラキエスさん? 何かあったのかな?」
『焦らず聞いて欲しい。今、隣にニアという子がいるだろう?』
 グラキエスの言葉にびっくりして周囲を見る紅鵡。
「え、はい。いるけど……、どうしてそれを?」
『実は、そのニアには自爆装置がつけられている』
「えぇ!?」
「……どうしたの?」
 驚いて声を上げる紅鵡に首を傾げるニア。
「あっ、ごめんね。何でもないよ。せっかくマジックショー見てるんだかちゃんと見なきゃもったいないよ」
「……うん」
 少々納得はいってないものの、素直に視線をクロセルのほうへと戻すニア。
『……大丈夫か?』
「ごめんなさい。でも、どうして……?」
『それはだな――』
 グラキエスが紅鵡に事情を説明する。
『――そういうわけで、ニアの自爆を阻止して欲しい』
「でも、どうすれば?」
『ニアに楽しい思いをさせてくれれば良い。そうすれば自爆装置の事など思い出さずに自爆しないで済む。もし、何かの原因で思い出しかけたら気を逸らしたりしてやり過ごしてくれ』
「……わかった。やってみる」
『頼む。では、こちらはニアに悪い虫がつかないように周囲を警戒する』
「お願いします。それじゃあ……。はぁ……」
 電話を切って、ため息をつく紅鵡。そしてニアを見る。
「…………」
 ニアはマジックに夢中で全く気付いていない。
「まぁ、今のところは大丈夫そうだし平気かな」
 紅鵡も自爆装置の事を頭の中に置いておきつつ、マジックショーを見ることにした。
「さぁ、そろそろ。お時間も迫ってきましたね。次で終わりにしましょう」
 いつの間にかクロセルのマジックショーも終盤にさしかかっていた。
「まずはこちら!」
 取り出したのは『マジシャンズケーン』。
「そして、それ!」
 マジシャンズケーンが綺麗なバラの花束へと変化する。
「そしてこの花束が燃えます!」
 ボッ! と音を立てて燃え上がる花束。
「そうしまして……。そら!」
 燃える花束が一瞬にして『パラミタカナリア』へと変わる。
「おー……」
「なかなかやるねー」
 感心する二人。周囲の観客からも歓声の声が上がる。
「いかがでしたでしょうか? それではこれを再び花束へ、そして花束をマジシャンズーケンへと戻してごらんに入れましょう」
 行儀よく手にとまっているパラミタカナリアに布を被せる。
「ここからが難しいのですよー……。それ!」
 布を取ると、パラミタカナリアが花束へと戻った。
「そして……」
 花束へ布を被せるクロセル……。
「むむ……」
 苦戦しているのかなかなか出てこない。観客の方もざわめき始める。
「待ってくださいねー……、よし、それ!」
 と、無事に戻ったまでは良かったが……。
「えっ……」
 ポンッ! なぜが勢いよく飛び出してきたマジシャンズケーン。それもクロセルの顔面目掛けて……。
「あぐっ! こんなはずでは……」
 顎を撃ちぬかれダウンするクロセル。観客達に笑いの渦が巻き起こる。
「ねぇ、ママー。あれがじばく? ってやつでしょー?」
「え、えぇ、そうね。自爆ね」
「うっわーだっせぇー」
「うんうん! 自爆カッコ悪い!」
 そんな観客達の声が聞こえてくる。
「……自爆。ニア、何か忘れてる気がする」
「えっ……!?」
 その言葉を聞いて焦る紅鵡。こんなところで自爆されたら、大変な事になる。なんとかしなければと紅鵡は必死に打開策を考える。
「いや、ほらっ! 自爆なんてダサいし、かっこ悪いから絶対やっちゃダメだって教わった事を忘れてただけなんだよ! って、違う! そうじゃないでしょボクは……!」
 頭抱える紅鵡。ニアは少し考えた後。
「自爆は、ダメ。カッコ悪い。ニア、覚えた。もう忘れない」
 と、一人頷いていた。
「へっ? あ、う、うん。そうだよ! さ、さぁ、次行こうか!」
「うん」
「はぁ、よ、良かった……」
 安堵のため息をつく紅鵡だった。

「全く……ひやひやさせてくれる」
「でも、この様子なら自爆しないでくれそうですね」
 一連の様子を少し遠くから見ていたグラキエスとロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)
「そうだな。でも、油断は禁物だ。俺達も後を追うとしよう」
 行動を開始したニアと紅鵡の後を追う二人。
「しかし、なんだ……。大して動いてもいないのに疲れる感じがする……」
 人ごみになれていないせいか、少し顔色が良くないグラキエス。
「……エンド? 顔色がよくありませんね。無理は禁物ですよ」
「いや、大丈夫――ん?」
「どうしました?」
 グラキエスの目にとまったのは二人のチャラ男。
「おい、あの子! ちょー可愛くね!?」
「確かに! ちょっと行こうぜ!」
「……ナンパみたいですね」
「あぁ。自爆に関係はなさそうだが……。休んでもいられないな。よし、行くぞ」

「ねぇねぇ、そこの君達!」
「え?」
 ニア達に声をかけるチャラ男達。
「君達二人だけ? 良かったら俺達と一緒にあそばなーい?」
「ナンパ……!」
 警戒心をあらわにする紅鵡。一方のニアはよくわかってないのか首を傾げている。
「おいおいー、そんな顔するなよー。俺達はただ、一緒に楽しもうぜって言ってるだけなんだからさー」
「いや、別に良いよ。興味ないし」
「そんなつれないこと言うなってー」
「ほら一緒に――」
「そこまでにしてもらおうか」
 チャラ男と紅鵡達の間に割ってはいるグラキエスとロア。
「グラキエスさん!」
「ああん? なんだテメーら?」
「この子達の護衛ってところでしょうか」
「悪いが、さっさと帰ってくれないか?」
「えぇ、この子達も迷惑しているでしょうから」
「んだとてめぇ!」
 殴りかかってきたチャラ男の腕を掴むロア。
「なっ!」
「それじゃあ、当たりませんよ」
「悪いが少し頭を冷やして貰おうか」
 グラキエスが『封印呪縛』を発動させる。
「な、なんだこれっ! うわぁぁぁ!!」
 チャラ男は『封印の魔石』へと吸い込まれていった。
「あなたも入りますか?」
「ひ、ひいぃぃ! す、すみませんでしたーーー!!」
 もう一人のチャラ男は一目散に逃げていった。
「大丈夫ですか二人とも?」
「あ、ありがとうロアさんにグラキエスさん」
「全く……まさか、こんな奴にこのスキルを使うとは……」
「まぁまぁ、何事もなかったのですから良かったじゃないですか」
「そうだな……。二人とも、さっきみたいな変な奴には気をつけろよ」
「うん、本当にありがと」
「それじゃ、俺達はこいつを外に追い出してくる」
「それでは、二人ともお気をつけて」
「またね。それじゃあ、ボク達もいこっか」
「……なんだったの、かな……?」
 結局ニアには、最後まで何がなんだかわからないうちにちょっとした脅威は去ったのだった。