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太古の昔に埋没した魔列車…環菜&アゾート 2

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太古の昔に埋没した魔列車…環菜&アゾート 2
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第5章 欲張りエリザベートが選ぶSR弁当

 魔列車の引き上げも無事に終わり、食材の発注も終えた一輝は、限りなく灰に近く燃えつきかける。
「はぁ〜、やることがなくなってしまったなー…」
「一輝、クリスマスパーティー中に、駅弁の試作品を試食会を開いてみない?」
 新しい目標を持たせればヤル気も復活するだろうと、試食会を開こうとコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)が一輝に提案する。
「それもいいかもな…。だけどその前に、エリザベート校長に相談しなきゃな」
「あたしが話してみるわね」
 エリザベートに交渉するべく、彼女がいるテーブルへ向かった。



「明日香〜、お腹すきましたぁ〜!お菓子とか持っていませんかぁ〜?」
 待ちきれなくなってきたエリザベートは、神代 明日香(かみしろ・あすか)の袖を掴み、おやつをねだる。
 試食のモニターも立派なお仕事だから、お腹いっぱいにさせるわけにはいかない。
「皆さん一生懸命、作ってくれているんですし。もう少しで完成しそうですから待ちましょうねぇ」
 いつものように我侭を聞いてあげたいが、お茶を差し出して我慢させる。
「はぁ〜いですぅ〜…」
「エリザベート校長、クリスマスパーティーの時に、皆で駅弁の試作品を決める試食会を開かない?」
「皆さんとですかぁ〜?んー…クリスマスに決めるとなると…、イブに販売出来なくなっちゃいますよぉ〜」
「SR弁当を決定するのは、私の大切なお仕事なんですぅ〜」
 ただでさえパラミタ内海の浜辺でも監督役といいつつ、ほぼ見ているだけだったのに、それすら任せたような状態になると、校長としての威厳が保てなくなってしまいそうだ…。
「決めるための試食会は出来ませんが、試食するだけでしたらぁ〜、お弁当を食べたい方の分もご用意しますねぇ〜」
「(決定してからすぐ販売するっていうのは無理だものね。試食分をもらえるだけでも、よしとしておこうかしら…)」
 クリスマスにどの弁当をSR弁当にするか決めるとなると、その前日に来る人は買うことが出来ない。
 24日のクリスマスイブに食べられなくなる人がいるのはコレットしても不本意だ。
「その試食分だけ用意してもらえる?」
「分かりましたぁ〜」
「エリザベートちゃん、お仕事が来ましたよ♪」
 話し込んでいる間に試作品が完成し、明日香がテーブルに運ぶ。
「弥十郎さんと西園寺さんのお弁当ですねぇ〜」
「白と水色で、ヴァイシャリー湖をイメージしてみたよ」
「彩りだけじゃなくって香りもいいですぅ〜!明日香が用意してくれたお箸でいただきましょう♪」
「フォークつきみたいですよ、エリザベートちゃん」
 明日香が駅弁本体についているプラスチックのフォークを見つける。
 試食するからには、備え付けのものを使って食べたほうがよいのでは?と思い、エリザベートに渡す。
「折りたたみ式なんですねぇ〜?はむ、むぅ〜…」
 イカを噛み千切ったエリザベートの唇に、お米が何粒をくっついた。
「子供の口のサイズより、おっきーですねぇ」
「あぁっ!指で取ったの食べたり、口をそんなに舐めたりするもんじゃないですよ。ちゃんと拭きましょうね♪」
 お行儀が悪い子に育たないよう、明日香は慌ててナプキンで口と指を拭いてやる。
「ありがとうございますぅ♪ゼリー寄せの中には、いろんな具が入っているんですねぇ〜?」
「それはね。カップに入れて、レンジで温めると…って、全部食べちゃったね」
「これが正しい食べ方じゃないんですかぁ〜?」
「温めて溶かすとスープになるんだよ」
「そーだったんですか!知らなかったですぅ〜っ」
 セットで渡されたカップを何に使うのか分からず、ゼリー寄せのまま食べてしまった。
「弥十郎さんたちのお弁当の試食は、それくらいにしておきましょうね」
 お腹いっぱいになると美味しく食べることが出来なってしまうからと、お弁当を隣のテーブルに置く。
「真さん、駅弁まだ出来そうにないですか?」
「詰めるだけだから待ってね。…ふぅ、こんなもんかなー…。子供サイズに合わせてみたんだよ」
「私が運びますね」
「明日香ー、早くください〜♪」
「は〜い、どうぞ。今度のは子供サイズみたいですよ」
「列車の形をしてるんですねぇ?」
「容器はじぶんが作ったのー!ちっちゃい子のお手手に合うようにしたよー」
 テーブルの端を掴んだ蒼が、ひょこっと顔を覗かせる。
「持ちやすいですし、ちっちゃくって可愛いですぅ〜」
「オマケもあるよー!」
 パラレールのミニバージョン玩具をエリザベートに見せる。
「こういうの好きな子供もいそうですよねぇ〜」
「お弁当の箱、開けてみて!」
「中も列車の形になっていますぅう〜!!車輪や窓も食べられるんですかぁ〜」
「お料理は、にーちゃんが作ったの!プリンも食べてー」
「なんだか甘酸っぱいですねぇ?」
 普通のプリンとどこか違うような気がし、小ぶりのスプーンを口に入れたまま首を傾げる。
「実はそれ、トマトなんだよ。毬おにぎりには、ピーマンや人参とかも入っているし」
「子供が苦手とするものを、美味しくしちゃうなんて凄いですぅ〜」
 蒼の意見を元にしたのだが、真なりに工夫したお弁当を頬張り、エリザベートが目を丸くする。
「エリザベートさんは苦手なものがあったりする?」
「ん〜、美味しくないものはイヤですねぇ〜。好きな食べ物は美味しいものと、明日香が作ったお菓子ですぅ〜♪」
「エリザベートちゃんったら、正直者さんですねー♪」
 まるで妹にハグするかのように、幼い校長を明日香がぎゅっと抱きしめる。
「私たちの駅弁も完成しました!」
「はーい、お運びします」
 子敬から駅弁のサンプルをもらい、食べたりなさそうに弁当へ視線をロックオンしているエリザベートの元へ、大急ぎで運ぶ。
「これが最後のお弁当ですよ、エリザベートちゃん」
「いただきますぅ〜♪」
 使われないまま終わるかと思った、明日香が用意してくれたエリザベート専用の箸を取る。
「あ、エリザベートちゃん。お弁当箱の上に、注意分を書いた紙が乗っていますよ?」
「んっと…、温熱機能がついてるみたいですぅ。ピンを引いてから、3分待つんですかぁ〜」
 明日香に言われ、ハサッと用紙を開いたエリザベートが読む。
「下のほうに、まだ何か書いてみたいですよ」
「機能を使ったら冷えきる前に、箱の底に触ったりしちゃいけないんですねぇ。取り外し出来るこの部分と、他のゴミと一緒に捨てると危ないみたいですぅ〜」
 火傷したり火事にならないよう、しっかりと書かれた注意文をじっくりと見る。
「いろいろ読んでたらお腹すいてきましたねぇ♪」
 指でピンを摘んで引き、温まるまで待つこと3分…。
 蓋を開けた瞬間、温かな湯気と共にスキヤキのいい香りが漂う。
「人参で花や動物を作ったのですねぇ〜?ふぅ〜…、とっても美味しかったですぅ♪」
「駅弁のサンプルはこれで全部ですよ。エリザベートちゃん、どれがSR弁当に相応しいか決めましょう」
「どれも美味しかったですし、迷いますねぇ〜」
「3つのサンプルが出揃い、試食も終わったみたいね。撮らせてもらってもいい?」
「どーぞ♪」
 SR弁当の決定の瞬間をカメラに収めようとやってきた月夜に、エリザベートはニッコリと笑顔を向けて許可する。
「今、ヴァイシャリー南湖の駅で販売する、駅弁が決まるということだけど。どれも美味しそう…」
 じぃーーーー…と欲しそうに眺めるが、ぐっと我慢する…。



 どれが駅弁に相応しいか、しばらく悩んでいたエリザベートが口を開く。
「―…お待たせしましたぁ〜!ヴァイシャリー南湖の駅の駅弁として、相応しいSR弁当は〜…。蒼さんと真さん、弥十郎さんと西園寺ですぅう!!」
「うわぁ〜い、うれしぃいいい!!」
「よかったね、蒼!」
「これからたくさんの人たちに食べてもらえるんだね♪」
「うん、どんな人が買うのかドキドキするね」
 パートナーと手を握り、喜びを分かち合う2組の傍ら…。
「そ、そんな…。私たちの駅弁は…!?」
「温熱機能の仕組みのところで、ちょっと気になったんですぅ〜。これって子供が仕掛けを使っても、危なくないんですかぁ〜?」
「―…あっ!」
「どうしたんですか、ミカエラ?」
 突然大きな声を出す彼女に、何事かと子敬が振り返る。
「日本のだと小さい子供が扱うのは禁止されているんだったわ…。んー…他にも足りない注意事項がありそうね」
「私としてはこの機能を保留にしていただければ、ぜひ商品化したいですぅ〜」
「熱々の食べてもらいたかったですけど、ボツになるよりはよいでしょう?坊ちゃん」
「そこだけもう1度、考え直さないとな」
「機能がないバージョンを売るというこですね?」
「あぁ、そうなるな。って、ことなんだけど、エリザベート。どうかな?」
「はい、商品化しちゃいましょう〜!パッケージもキレイでしたし、このスキヤキをボツにするなんてもったいないですぅ〜♪」
「3案とも通ったのか!?いいのか、それでっ」
「フフフッ、私が決めたんですからぁ〜、いいんですぅ〜♪」
 くいしんぼーな幼い校長により、駅弁の案はほとんど採用されることになった…。