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リアクション
★ ★ ★
「御予約のお客様ですね、こちらへどーぞ」
「ここって、沙幸のバイト先だったのか。なかなか似合っているぜ」
居酒屋に入るなり案内に現れた久世 沙幸(くぜ・さゆき)の姿を見て、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が言った。
「ありがとうございます、お客様」
「なんだかよそよそしいなあ」
「だって、バイトって言っても、ちゃんとしたお仕事だから頑張っちゃうんだもん。公私混同はいけないんだよ。それに、ここには雅だっているし」
居酒屋の制服を着た久世沙幸が、武神牙竜に答える。
「みやねえもいるのか……」
ちょっと嫌な予感に襲われる武神牙竜であった。
「こちらでございます」
久世沙幸が、団体用の座敷に武神牙竜を案内する。
「悪い、遅くなった」
武神牙竜が、集まっていた者たちに謝った。すでに料理なども運ばれており、みんな一杯やっている。誰もが人生で一回はやる通過儀礼だ。
「って、沙幸はここでバイトしてたのか」
「へへっ、よろしくなんだもん」
今さらながらに久世沙幸に気づいて、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が言った。
「ちょいと野暮用で、寄り道してきた」
すまなそうに、武神牙竜が弁解する。
「また、あそこか。それで、どうだった」
パラミタ内海を望む慰霊碑に立ち寄ったのだとすぐに察した樹月 刀真(きづき・とうま)が、武神牙竜に訊ねた。
「まあな。自己満足かもしれないが、いろいろと報告をな」
「そうか……」
日本酒を喉に流し込みながら、如月正悟がしみじみと言った。
「とりあえずビールな」
もう堂々と飲めるので、遠慮なく武神牙竜がビールを注文した。
「はい、ビール追加ですね」
注文をとりにきた久世沙幸が、端末にデータを打ち込んでいった。
「沙幸さん、こっちこっち、ちょっとお酌してほしいのですわ」
すでにできあがっている藍玉 美海(あいだま・みうみ)が、久世沙幸を手招きした。
「お客様、困ります」
当然、久世沙幸が拒絶する。
「あによお、可愛い子が隣に座ってお酌してくれるとか、おさわりとか、そういうサービスはないのお」
藍玉美海が久世沙幸に絡む。まあ、いつものことだ。
「お酌のサービスとか、おさわりとか、ここはそういうお店じゃないんだもん」
ここは御家族も来られる健全な居酒屋である。だいたい、未成年の久世沙幸がバイトしていることからも明らかだ。
「えー、じゃあ、一緒に飲もうよお」
「私は飲めないの!」
強く久世沙幸が断った。未成年であると同時に、ノンアルコールの甘酒でも酔っ払ってしまうほどの下戸である。当然、酔っ払いの御相伴などありえない。
「それじゃ、日本酒を頼む」
如月正悟のグラスが空になっているのを見て、武神牙竜が久世沙幸に頼んだ。
「結局、俺たちにできることは、いかに悲劇が起きないようにするかってことなんだが、限界ってえものはあるんだよな」
如月正悟に日本酒を注ぎながら、武神牙竜が言った。
「そうだな。あの慰霊碑を建ててからも、争いは続いて、人がたくさん死んでいる。ザナドゥの件やら、地球、いや、十人評議会とのいざこざやエリュシオン、マホロバの件……まだまだ火種ばっかりだよな。今年はパラミタも地球もよい方向に物事が運んでくれればいいんだがな……」
そう言って、如月正悟が酒を飲んで一息継いだ。
「ああ、いろいろあったものだな」
樹月刀真が、過去の出来事を思い出しながら言った。
「だが、まあ、あまり考え込むのもな」
ほどほどにしておけよと、樹月刀真が言った。
「つまりは、できることをするだけなんだよ。分かるか。ここ、大事なところだぞ。だから、誓いを新たにしてきたんだ。まあ、節目だからな」
手酌で日本酒を注ぎながら、武神牙竜が自分に言い聞かせるように言った。
「おっとわりい。御返杯っと」
あわてて、如月正悟が武神牙竜に酒を注ぎ返す。
先を越された樹月刀真が所在なげに徳利を持っていたら、もたれかかってきていた玉藻 前(たまもの・まえ)が、こちらに注げとツンツンとつついてきた。
「せっかくの酒の席なのだ。男同士でなく、もっと女子に酌をしろ」
「いや、男同士のつきあいも大切なんだよ」
仕方ないなと言う感じで、樹月刀真が玉藻前のお猪口に酒を注ぐ。
「ほら、月夜もなっ」
手に持ったお猪口を、だきかかえた漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の口許に持って言って玉藻前が言った。
「うん。ちびちび……美味しい」
まるで仔猫のように、成人した漆髪月夜がちびちびとお酒をなめるようにして飲む。
「まあまあ、まるで芋虫のようにくっついて。仲がいいというか、恥ずかしいというか……」
数珠繋がりにだっこし合う樹月刀真と玉藻前と漆髪月夜を見て、藍玉美海が突っ込んだ。端から見たら、結構恥ずかしい体勢だ。
「玉藻さん、月夜さんをだきしめたまま刀真さんにもたれかかって、だらしないですよ。えっ、べ、別にうらやましくはありません! 違います」
とっくの昔に成人なんか済ませているはずの年齢である封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)が、突っ込もうとして自爆した。
「淋しいのであれば、わたくしが揉んでさしあげますわ」
すかさず、藍玉美海が封印の巫女白花を後ろからだきしめた。豊胸マッサージ免許皆伝の揉み揉みが炸裂する。
「何をするんですか!? 待ってください、どこを触ってるんです!?」
「よいではありませんか、よいではありませんか」
「ちょっと待ってくだ……いやっ、あんっ♪」
絶好調で、藍玉美海が揉み揉みする。
「ああ、白夜がピーンチ」
漆髪月夜が、太腿のホルスターからゴム弾の装填されたモデルガンを取り出して乱射した。酔っ払ってるので、狙いが定まらない。
「こ、こら、食い物にあたる。いててててて」
身を挺して食べ物をかばった如月正悟が、背中にゴム弾を受けて痛がった。
「よいでは……、痛い。痛いですわよ」
ほとんど流れ弾のような感じて額にゴム弾を受けた藍玉美海が思わずのけぞる。その間に脱出した封印の巫女白花が、樹月刀真の後ろに逃げ込んだ。もう襲われないようにと、樹月刀真の背中に胸を押しあててピッタリとくっつく。
「ああ、白花ずーるーいー」
酔っ払った漆髪月夜が、キス魔と化して玉藻前や樹月刀真や封印の巫女白花にキスしまくった。
「お、落ち着け。もちつけー、月夜ー」
樹月刀真が、歓声だか悲鳴だか分からない声をあげる。
「正悟……飲もうか」
樹月刀真を放っておいて、武神牙竜が机の端の方に避難していた如月正悟の方に淋しくやってきた。
「ああ、男は男同士だ」
如月正悟が応じる。
「仕方ありませんわ。じゃあ、わたくしは……。灯さん、一杯いかが?」
逃げてしまった久世沙幸の代わりに、藍玉美海が龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)に目をつけた。
「私はお酒に弱いので、すぐに寝てしまうのですが……」
「まあまあ、そう言わないで、さあ、一杯、ぐぐぐうーっと」
藍玉美海が、よいではないかよいではないかと龍ヶ崎灯にお酒を勧める。
「そうですか。それじゃあ、一口だけ……」
新成人になったことだしと、龍ヶ崎灯がお猪口の日本酒をいただいた。
数分後……。
「へーい、ヒック。酒持ってこーい! おねーさん、ちゅーもーん」
半脱ぎにして肩のあたりを出しながら、龍ヶ崎灯が叫んだ。
「灯に飲ませたのか? 命知らずなことを……」
呼ばれて注文をとりにきた武神 雅(たけがみ・みやび)が唖然とする。
「おい、誰だ、灯に酒飲ませた奴は! アイツはトンデモねー酒乱なんだよ!」
ちびちび酒を飲んでいた武神牙竜が、龍ヶ崎灯の痴態を見て叫んだ。
「うるさいわねえ。牙竜ったら、男同士で何小難しいこと話してんのよ」
絡み酒である。
「野郎ども! ここに麗しき美女がいるのに、野郎同士で話してて楽しいのか? あーん、糞真面目な話ばかりしてるから、あんたたちは女日照りが続くのですよ」
立ちあがってそう上から目線で言うと、龍ヶ崎灯が生の大ジョッキを一気に飲み干した。ちゃんと腰に手を当てて、ごくごくと喉を鳴らして飲み干す。
「ぷっはー。生き返るぜえい。まったく、これほどの美女、美少女がいるのに手を出さないとは……。あんたたちったら、情けないこと、この上ない! お母さん、悲しくて涙が出るわ。わかりました! こちらの美女、美少女は全て私がいただきます!」
「じゃ、後は御自由に。沙幸、我らは店員でよかったな」
さっさと、武神雅が久世沙幸を連れて危険地帯から避難した。
「お待ちなさい、美女、美少女は、全て私の物ですわ」
龍ヶ崎灯の言葉に、藍玉美海が真っ向から受けてたつ。
「あのね、ねーさ……お客様。あまりはめを外されますと、セクハラ親父って呼ばれちゃうぞ」
安全な距離から、久世沙幸が藍玉美海に釘を刺した。
「ふふふふふ……。月夜さんはいいですよねえ。光条兵器を取り出すたびに揉まれてるんでしょ。いいなーいいなー。でも、どうせ揉むんなら、大きいおっぱいですよねー。ちっぱいじゃだめだよねー」
言いつつ、龍ヶ崎灯が封印の巫女白花の方をちら〜んと見た。今にも飛びかからんばかりに両手をワキワキさせる。
「美海さん、セクハラ親父と呼ばれるには、これくらいしないと。そーおれー」
龍ヶ崎灯が封印の巫女白花に飛びかかっていく。
「待て、ロイヤルガードがここはガードする!」
言うなり、武神牙竜が樹月刀真と如月正悟をつかんで、人間の盾で龍ヶ崎灯をガードした。
「なんで俺を盾にする……」
「ちょっ、やめ!」
樹月刀真と如月正悟が龍ヶ崎灯に胸を揉まれて悶え苦しむ。
「あーん、ぺったんこで面白くなーい」
龍ヶ崎灯が地団駄踏んで騒いだ。御不満のようだ。それでも、揉み続ける。
「愚弟よ、いいかげんなんとかしろ。ほっておいたら、二人の胸が白花と同じ大きさになるまで揉み続けるぞ」
武神雅が、武神牙竜に命令した。
「ええい、こうなったら最終手段だ。カード・インストール。変身、ケンリュウガー!!」
武神牙竜が、腕を突きあげて叫んだ。
「ヒック。いくわよー」
するんと龍ヶ崎灯の着ていた羽織袴が脱げて落ちる。おおーっと、男性陣から歓声と拍手があがり、続いてゴンという何かを殴る音が響いた。その間に、魔鎧となった龍ヶ崎灯がケンリュウガースーツとなって武神牙竜の全身をつつんだ。
「うおお、これじゃ、酒が飲めねえ」
『脱げばいいじゃないのお。ヒック。あだじはもう脱いでるしぃ。きゃっははははは』
「ちょ、ちょっと待て、それじゃ脱げないだろうが。このままの姿で帰れってか!?」
大変なことに気づいて、武神牙竜が叫んだ。フルフェイスのケンリュウガースーツでは、飲み食いは一切できない。だからといって、今ここで装着を解けば、すっぽんぽんの酔っ払い痴女がこの場に解き放たれることになる。
地獄だ……。
だが、真の地獄は、まだこの先にあった……。
『魔鎧にされるとは不覚。ここは、潔くすぱーっと脱いで脱いで』
ケンリュウガースーツのまま、龍ヶ崎灯が叫んだ。なぜか、着ている武神牙竜がくねくねと怪しい踊りを踊る。
「ええい、脱衣させるものか。おとなしくしろ」
どうやら、極限の戦いが起こっているようなのだが、傍目には酔っ払いが千鳥足で踊っているようにしか見えない。
『ああ……。ちょっと、そんなにゆすったら……。うっぷ。ぎもぢわるい……』
「ちょっと待て、この状態で吐くとどうなるんだ。やめ、やめろ。ト、トイレ!!」
あわてて、武神牙竜がトイレにむかって走る。
『だから、動いちゃダメ。ああん……。ゲロゲロゲロ……』
その振動に止めを刺されて、たまらず龍ヶ崎灯が吐いた、スーツの中側に……。