リアクション
新しき年、タシガン 「おーい、でかけるぞー」 「はーい」 カシス・リリット(かしす・りりっと)に呼ばれて、魔装 アイリスローブ(まそう・あいりすろーぶ)が走ってきた。 だきかかえて迎えるように正面をむいていたカシス・リリットが、魔装アイリスローブを装着してくるりとターンをする。広げた両手の袖が広がり、ローブの裾がふわりと翻る。裾飾りから上へとのびるアイリスの花々の模様が鮮やかに甦った。 「うん、暖かい」 魔装アイリスローブも、今や単なる防寒着である。人肌がぬくい。 今はごく自然に纏ってはいるが、初めて魔装アイリスローブがカシス・リリットの所にやってきたときは大変だった。 もともとは、ネットオークションでただのローブを購入したつもりであったのだが……。 「なんだ? 服が入ってるにしてはやけにでかくて重たいなあ」 届いた大きな箱を見てカシス・リリットが首をかしげた。一メートル四方ぐらいある大きな箱だ。 いったい、何着入っているんだ? それとも、配達人が入っているとか。まったく、過剰梱包もはなはだしい。 「これだから、ネット通販は……」 文庫本一冊にも菓子折ぐらいのでかい箱で届けるんだからと、ブチブチ文句を言いながらカシス・リリットが箱を開いた。 「うわっ。ほんとになんか入ってた!?」 箱の蓋を開いたとたん、中に身体を丸くして入っていた少女を見て、カシス・リリットが大声をあげた。 「坊ちゃん、どうかしたんですか!」 その声を聞いて、ヴァイス・カーレット(う゛ぁいす・かーれっと)が驚いて駆けつけてくる。 「こ、これは……、美少女のデリバリーなど、なんというマニアックなプレイを……。そんなふうに育てたおぼ……うぼあ!」 「誰に育てられた、誰に!!」 反射的にヴァイス・カーレットを殴り倒してカシス・リリットが叫んだ。 「ううん……。ここはどこ……。俺は……」 その声に、箱入り娘が目を覚ます。 「あれっ? ヴァイスさん!? どうしたの、大丈夫、しっかりして」 よろよろと立ちあがって箱から出ようとして、バランスを崩した魔装アイリスローブが箱ごとびったーんと倒れた。 「いったーい」 なぜか顔よりも胸の方が痛くて顔を顰める。 「えっ、その声……。イアス!? ……のはずはないよね。女の子だよね」 「えっ、えーーーー!!」 驚くヴァイス・カーレットの言葉に、魔装アイリスローブがもっと驚く。 「ええっと、どういうことか説明してもらおうか。二人は知り合いか? これはドッキリか?」 カシス・リリットが問い質したが、二人共さっぱりだった。 何か手がかりはと箱の中をかき回すと、出展主からの伝票が入っていた。 どうやら、ただのローブだと思っていた物は魔鎧だったようだ。なんでも、最近作った過程で性別が反転してしまった不良品なので、ネットオークションで処分したらしい。制作者の女性の悪魔は、ショタの魔鎧がほしかったようだ。女を纏うのは嫌だったらしい。名前は、魔装アイリスローブ。なお、返品は不可と赤文字ででかでかと書いてあった。 「俺、どうなっちゃったんです……」 ぼーっと、たっゆんな胸を見ながら魔装アイリスローブがつぶやいた。 「つまりは、彼女……いや、彼? あー、ややこしい。とにかく、アイリスは、ヴァイスが探していた人の一人だったというわけだ」 「みたいですが、まさかすでに亡くなっていて魔鎧にされていたとは……。しかも、性別が……」 魔装アイリスローブの胸をちらっと見てから困惑したようにヴァイス・カーレットが目を逸らした。その様子を見て、魔装アイリスローブが泣きだす。 「ええっと、魔鎧というのはだね……」 困りつつも、ヴァイス・カーレットが説明を始めた。 まあ、人はどんな逆境となっても、そのうち慣れるということだ。 今のところは、魔装アイリスローブもヴァイス・カーレットも落ち着いたようには見える。 「さて、ヴァイスが待っている。行くぞ」 『はい』 ★ ★ ★ 「まったく、すっかり倉庫か工場のようだな」 城壁の上から、城の内庭を見てストゥ伯爵がつぶやいた。 そこにならべられたイコンを、アクアマリンがメイドロボやメカ小ババ様を使って修理している。 茨ドームを巡る戦いでは、無傷だったのはルビーとオプシディアンのイコンだけで、その他は中破にまで追い込まれている。 「まったく、みんな手伝ってくれないんだから……」 ぶつぶつと文句を言いながら、アクアマリンが使い魔たちに指示をしていった。 「仕方ないであろう。こういった物は、お前の領分だ」 のんびりと木陰で作業を見守りながらアラバスターが言った。 「他の者たちはどうしたんだ」 「ウエ様は、新しい遊びを物色中ですよ。姉さんはツァンダに遊びに行っちゃったし、ククルカンとテスカトリポカの二人は、またどこかでお茶でしょう」 アクアマリンは、そう答えた。 |
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