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我が子と!

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我が子と!

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〜 5th phase 〜


 セントラルビルに接近するサンプルとマテリアルを確認
 感知したコアの精神パルスの乱れ……増大の危険性アリ

 別件で各エリアにてサンプルの空間認識への干渉の報告あり
 至急観察及び情報を求む
 空間認識維持率低下中!……現在の維持率60パーセント
 これ以上の低下はサンプルの認識に影響が出る可能性アリ、至急対応求む


 「母さま!見てください!犬に乗れました!」
 「こら坊!犬を家にいれるもんじゃありゃあせんって!」

武家屋敷風の居住エリアの廊下の向うから何やら騒々しい声がする
その声の主の一人が愛しい我が子と判り黄泉耶 大姫(よみや・おおひめ)が自室から顔を出す
そこにはパラミタセントバーナードに乗って走り回る息子の千里の姿があった
見れば、それを止めようと追い掛け回す坂東 久万羅(ばんどう・くまら)の姿も見える
【マホロバの鬼】のあまりの困り様にくすくすと笑っていると、ようやく彼等も彼女の姿に気がついたようだ

 「すいやせん姫さん。廊下を汚しちまって!すぐに掃除を……」
 「良いのじゃ坂東。男の子は斯様に元気でなければならぬ。むしろ褒めるべきであろう?」

母親の許しが出たと判るや、喜び勇んで千里は犬と共に屋敷の奥に走り去って言った

 「泣く子も黙る【マホロバの鬼】がすっかり子供に泣かされるとはな。
  そなたとの付き合いも長いが、こんな姿を見られるとは思わなんだぞ、坂東」
 「いやはや、返す言葉もねぇ。面目ないというか何と言うか……」
 「からかっているのではない。むしろ、そこまでしてくれるそなたに感謝しておるのじゃ
  お陰で我が家の庭で駆け回る我が子を、こうも穏やかに見守れるのだからな」
  
追い掛け回してすっかり着崩れた着物を正しながら恐縮している坂東に、大姫は感謝の言葉を述べる

 「千里はそなたに大層懐いておるからな。まるで父子のようじゃ
  親でも無いのに、本当に申し訳なく思っておる……ありがとう」
 「いえ、感謝するのはあっしの方ですよ、姫さん。手前には……もう家族がいやせん
  ですからこう、またこういった日が過ごせることがあっしにとっても嬉しいんです」
 「そうか……お互い脛に傷持つ身であったな」

坂東の言葉を受けながら、大姫は己が仮面にそっと手を添える

 「想い人から子を授かったとはいえ、未だにわらわはこの面を外す事ができずにいる
  それは未だ過去を引き摺っている事と何ら変わらぬ…か」
 「……確かにそうかもしれやせん。
  この歳になると引き摺っている荷は容易に降ろせませんよ
  しかし、荷の無い子供って奴ぁどこまでも突っ走り、親をも引っ張ってくれるもんです」
 「…………そうであろうか?」
 「ええ、現に姫さんは見たことも無いような幸せな顔を浮かべていらっしゃる。
  その面越しにも、あっしには判りますぜ」

坂東の言葉に思わず面で見えないと判っていても、大姫は袖で顔を隠してしまう
その様子を眺めながら坂東は思う、あの子のお陰でこの面を彼女が外す日も近いのではないかと
そんな二人の下に、屋敷を一周した千里が跨った犬と共に戻ってきた

 「母さま!戻りました!」
 「おかえり千里。しかし……犬は乗る物でも無いのによくもまぁ器用に乗る者じゃのう」
 「生き物ならば同じです。心通わせれば乗れない者などありません!龍だってそうでしょう?」

千里の言葉にあっはっはと笑って坂東が手を叩く

 「確かに!こりゃ坊に一本とられましたわ!本当に千里は賢い子ですねぇ」

坂東の褒め言葉に千里は胸を張って大姫の方を向く

 「いつか大人になって立派な侍になったら、千里は馬に乗って遠くまで駆けてゆきたいです!」
 「頼もしい事を言うてくれるでないか千里。流石は我が子じゃと思わぬか?」

千里の傍に寄り、その頭に触れながら大姫は願いと共に息子に語りかける

 「良く健やかに育つのじゃぞ。そなたの名の通り千里を駆って様々なものを見て学ぶが良い
  外の世界には……そなたの知らぬものがたんとあるでのう
  いずれ皆で旅しながら、多くを見つけていこう。のぅ坂東」

それは大姫の、そして坂東の願い
その願いを受け愛しい息子も元気にはい、と答える


…………………………答える、と思っていた
しかし、その願いの言葉を受け、千里が浮かべた顔は悲しみの表情
予想していなかった顔に、大姫も坂東も驚き顔を見合わせる

そして………全てが元に戻るように、千里の口から言葉が紡ぎ出された

 「千里は…外の世界にはいないのです。ご一緒することはできないのです」

耳から入った言葉が理解できないが如く、大姫と坂東はただ立ちすくむ
今の言葉に引き摺られるように、不安の塊と共に心臓が大きく脈打った
まるで、今の言葉は危険だ、忘れろと言わんばかりに

しかし、その不安とは裏腹に、雪崩のように様々な疑問が浮かぶ
そもそも、我々は何で3人でしか暮らしていないのか?
我々は共に寄り添う主がいたはずではなかったか?
そして……この庭の「外」には何があるのであったか?

(「駄目じゃ!このまま考えてはならん大姫!
  …何やら嫌な予感がしてならぬ!千里を失うてしまいそうな…っ」)

しかし、疑問と不安の均衡はつり合わず
その足は履物もそこそこに本人の意に反し、庭の門へ向かう

  そして……………覗 い た

  覗 い て し ま っ た

震える足は立つことも叶わず、その地に崩れ落ちる
慌てて遠くから坂東やってくるのがわかる
それを悲しそうな目で遠くから見つめる愛しい息子の姿が見える
その全てを目に留めながら……全てを解き放つ言葉が大姫の口から漏れたのだった


 「か………仮…想……空間……じゃ……と?」