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必ず生きて待っていろ

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必ず生きて待っていろ

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 乱世と裁、そして巽が作業員を救助している頃、マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)サーバル・フォルトロス(さーばる・ふぉるとろす)は他の面々がまだ向かっていない一帯へと分け入っていた。
 手にした二挺拳銃から冷気の銃弾を放ち、行く手に燃え盛る炎を次々と鎮火しながらマクスウェルは道を切り開いていく。
「しかし、火の回りが速いな。これじゃあキリがない」
 そう呟きながらも声に焦りは感じられない。彼女が平常心であることを表すかのように手元は正確に動き、先程と変わらぬペースで燃え盛る炎を次々と消化していった。やがて溶けて癒着した鉄製のドアの前に来ると、マスクウェルは足を止める。
「癒着しているな」
 冷静な声でそう言うと、隣に立つサーバルが、どこか陽気にも聞こえる声で応えた。
「そうね。私がぶん殴ってぶち破ろうか?」
 その申し出にもやはり冷静な声で答えながら、マクスウェルは二挺拳銃から弾倉を振り落とし、手早く通常弾が装填された弾倉を叩き込む。
「やめておけ。高熱になっているかもしれない。直接触れるのは危険だ」
 するとサーバルは先程見せたのと同じ陽気さで言う。
「もぅ、冗談だってば。なーにか楽しいことは……って今回はそんな事言ってられないわね。じゃ、真面目に救助活動しましょうか!」
 場を和ませようとするサーバルの気持ちを察したのか、マクスウェルはほんの微かに笑みを浮かべると、再装填を終えた二挺拳銃を構える。
「無論だ。一人でも多くの人を助けられるように努力するとしよう」
 落ち着き払った声音で言葉を返すと、マクスウェルはドアの癒着部分を狙って幾度もトリガーを引いた。幸い、癒着していたのが一部だったこともあり、癒着部位に銃弾を集中的に撃ち込んだ後で彼女がドアを蹴り飛ばすと、難なくドアは開いた。
「おっ! あったりだね! 四人もいるよ!」
 癒着を解除し、マクスウェルが蹴り開けたドアをくぐって部屋に駆けこんだサーバルは陽気な調子で感嘆の声を上げた。部屋の中には取り残された作業員が四人もいたのだ。
「歩けるか?」
 たった今、ドアを破るのに二挺とも全弾を撃ち尽くした弾倉を素早く振り落とし、腰のポーチから予備弾倉を取り出して再装填しながら、マクスウェルはドアから一番近い所に倒れていた作業員に声をかけた。
 ドア近くに倒れていた作業員はマクスウェルに任せ、サーバルは残る三人の作業員を介抱しに向かう。
「大丈夫? 立てそう?」
 ややあって三人の作業員を介抱し終えたサーバルは、何とか立って歩ける状態の三人を引き連れ、マクスウェルに合流する。
「その人は大丈夫そう?」
 サーバルの問いかけに対し、倒れていた作業員に代わって、彼の状態を観ていたマクスウェルが答える。
「脚を怪我しているようだ。一人で歩くのは難しいだろうな」
 マクスウェルが言うのに頷きながらサーバルは素早く倒れている作業員の状態を確認する。
「なるほど。確かにこれじゃ一人で歩くのは無理そうね。なら、私が連れてくわよ」
 そう言うなりサーバルはマクスウェルの隣にしゃがみこみ、倒れている作業員の身体を詳細に観察する。
「医者じゃないから詳しくは解らないけど、肩を貸せばなんとかなりそうね。いざっとなったら引っ張って私が走れば……ちょっと強引すぎるかしら? ま、まあ最終手段ということで!」
 そう早口でまくし立てるとサーバルは倒れている作業員に手をかける。そして、手早く抱え上げた後、肩を貸しつつそっと立たせた。
「了解した。その男を頼む。こちらの三人は私が誘導する」
 相変わらず冷静な様子のマクスウェルに陽気な笑みを向けると、やはり陽気な声でサーバルも応えた。
「じゃあ、事前に打ち合わせした作戦で行くわよ!」
 互いに目配せした後、マクスウェルは閉じかけて半開きになっていた先程のドアを再び勢い良く蹴り開ける。大音響を立てて壁に激突し、全開になったドアを通って四人の作業員を連れた二人が廊下に出た時だった。
「もうここまで救助部隊が到着できたのですね。救援、誠に感謝します」
 自分たちが来た方向とは逆の方向からやおら声をかけられ、マクスウェルとサーバルの二人は勿論、彼女たちに連れられている作業員も一斉に振り向く。
 炎の熱で歪み、煙で霞む景色の中から、炎と煙をかき分けるように現れたのは叶 白竜(よう・ぱいろん)。彼も独自に救助活動を行っていたのか、背後には彼についてきたであろう作業員が何人も集まっている。
「その帽子と帽章を見るに、教導団の人間だな? 随分と早い段階で救助に取りかかったようだが?」
 マクスウェルはふと思いたった疑問を白竜にぶつけてみる。マクスウェルとサーバルも比較的早く救助に駆け付け、内部への突入を果たした方だが、それにも増して白竜は救助活動に従事しているようだった。
「申し遅れました。私はシャンバラ教導団所属、叶白竜中尉です。パワードスーツを装着する機会の激増もあり、勉強のつもりでこの工場の作業区画に来ていた所、火災に遭遇しました」
 マクスウェルからの問いかけに対し、白竜は背筋を伸ばし、姿勢を正して直立不動の姿勢を取り、敬礼とともに答える。その後、白竜は優秀な軍人らしく的確に状況を説明し始めた。
「火災発生後、私と同じく工場見学に訪れていた教導団員――樹月 刀真(きづき・とうま)大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)の二名と連絡を取り、保管区画および休憩区画でも同様の災害が発生していることを確認。その後、現場の判断により救助活動を開始しました。なお、過去に反社会的な行動を取った者が救助活動に参加している旨の報告があり、注意を要するものと判断されます」
 淀みや無駄の無い説明からも推し量れるのに違わず、白竜は既に的確な救助活動を可能な限り最大限に遂行していた。彼の後に続く作業員たちは殆どが現地調達したと思われる試作用のパワードスーツの一部――マスクやヘルム等で身体を防護しており、数が足りないせいかパワードスーツのパーツを持たない作業員たちには自分の国軍戦服の上着や鎧等も貸して対応している。
 突発的な状況で、十分な装備がない状態で、何とか出来る限りの方法を探す――軍人として求められることを完璧にこなしている優秀な軍人がそこにはいた。
「できれば工場長などのリーダーの方と相談したいのですが」
 白竜がそう声を上げると、先程、マクスウェルたちによって助けられた作業員の一人――脚を怪我してサーバルに肩を貸してもらっている作業員が手を上げた。
「私でよければ。ここの区画の責任者をしている者だ」
 その作業員が脚を怪我していることを素早く察すると、白竜は即座に自分からサーバルと作業員の二人へと歩み寄る。そして、再び姿勢を正して敬礼すると、泰然自若とした声で口火を切った。
「火災で怖いのは有毒ガスと送電ストップによる停電です――」
 それから白竜とこの区画の責任者であるところの作業員は、補助電力の有無や扱っていた素材や機材から発生する有毒ガスの種類を予測することや、他教導団と手分けして事故の際の消火剤やセーフルームがないかを確認した上で避難ルートを設定し、酸素ボンベを確保する方法などについて専門的な見地から意見を交わしていた。
 この区画で責任者として働いている件の作業員が提示してくる専門的な知識を多分に含む情報も、白竜は的確かつ適切に理解し、処理していた。流石は技術官僚といったところだろう。
 一方その頃、マクスウェルや白竜たちのいる場所から少し離れた場所では――。