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第六章 ボケ喫茶

「いらっしゃいませー! ご主人様&お嬢様。お食事にしますか、お風呂にしますか、それとも……」
「いらっしゃいませー! あなたを診察しちゃいます☆」
「いらっしゃいませー! あなたをお料理しちゃいますよ☆」
 一歩店に入った途端、ツッコみ所満載な声。
 フリフリ裸エプロンの騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が駆け寄ってくる。
 ユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)が注射器と聴診器を、ユーリのパートナー、トリア・クーシア(とりあ・くーしあ)はフライパンを装備してスタンバイ。
「ごにゃ〜ぽ☆ 蒼汁(アジュール)どうぞ☆」
「おお、それはもしや伝説の汁! その昔、酢裸異夢という蒼い物体がいて……」
 物部 九十九が憑依した鳴神 裁が不思議な液体を差し出し、ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)が明らかに怪しい補足をする。
「4人の客が三皿限定の料理を一皿ずつ食べる方法を知ってます?」
「はい、お会計10億万ゴルダになりますー」
 客の鎌田 吹笛(かまた・ふぶえ)が謎知識を披露し、それを全く聞いていないレジの久世 沙幸(くぜ・さゆき))。

 空京繁華街の真ん中に突如として現れた喫茶店。
 その中は、カオス中のカオス。

 そんなボケ喫茶に、ついにあの5人がやって来た!
「うほほっ、ボケや、ボケや、ボケの展覧会や〜。ええでええで、みな思う様ボケたらええ」
「思う様ボケた結果がこれだよ!」
「うむ。この地こそ、なんとかしなければならぬ場所じゃのう」
 蚕 サナギが浮かれて腰を振れば、湯浅 忍がハリセン代わりのパートナー、ロビーナ・ディーレイを振り回す。
 その隣で、ルシェイメア・フローズンがハリセンを調整中。
「とにかく手当たり次第ツッコんでくしかないねんな」
 瀬山 裕輝の言葉に日比谷 皐月が頷く。
「よし、行くぞ!」
「おぉ!」×5
 ツッコミ五人衆、推参!

「ご主人様はボケをご所望ですかー? では先鋒、沙幸ちゃん、どうぞ!」
 五人衆の訪問を受けて、詩穂が高らかに宣言する。
「はい、沙幸、いっきまーす!」
 沙幸が一歩前へ出ると、いつの間にか羽織っていたマントをばさりと脱ぎ捨てる。
 ミニスカウェイトレスの登場だ。
「はい、お客様お会計ですねーありがとうございます!」
「いきなり会計かよ!」
「あふんっ」
 唐突なレジ打ちに忍が思わずツッコむと、沙幸の身体が一瞬電撃が走ったように震える。
 しかし、ここはまだ序盤。
 これからが本当のボケだ。
 ツッコミ担当になった忍を挑む様に可愛らしく微笑む。
「お会計……はっ」
 いざボケようとした沙幸は、忍が手に持っているものに気づき、硬直した。
 忍の手にあるのは、ハリセンのような一般的ツッコミ道具ではない。
「出来れば、あたいはおのこにツッコミたかったでござるが……」
「えーい文句を言うな」
 忍と言い合っているのは、カラス天狗姿のゆる族、ロビーナ。
 それこそが忍のツッコミ道具。
(あ……あんなモノでツッコまれるなんて……)
 沙幸の身体が震えてくるのは、恐怖か歓喜か。
(あんなのでツッコまれたら、私、私……)
 がくがくと震える足を必死で押える。
 それでも、どんなに恐ろしくても、沙幸は自分の中の欲求を抑えられない。
 ツッコみが欲しい!
 ボケた私を思う様、恥ずかしいくらいにツッコんで欲しい!
「お会計……100億万ゴルダになります!」
「100億万ゴルダ! ずいぶんと高ぇな! ……ってそんな単位ねぇよ!」
「あっ」
「ベッタベタだなぁオイ!」
「ぁぁんっ!」
(あぁっ、私の中から、何かが、何かがっ!)
 沙幸は、自分の中から何か得体のしれないモノが迸り出てくるのを感じた。
「駄菓子屋のおばちゃんかよ!」
「はぁぁああああんっ! で、出る、(怨霊が)出るぅうっ!」
 忍の持つロビーナにびたんびたんとツッコまれ、沙幸はびくびく痙攣しながら床に座り込む。
 よっぽど激しいツッコミだったのだろう。
 瞳の焦点はぶれ、とろんとした表情のままいつまでも動かない。
「は……あふぅ……」
 肩で苦しげに切なげに息をしている沙幸を、喫茶店のメンバーは冷静に見つめる。

「まさかこんなにあっさり沙幸さんがツッコまれるなんて……」
 ため息をつくユーリの隣で、吹笛が小さく笑った。
「ひぇっひぇっ。彼女はボケの中ではまだまだ小物…… 次は私に任せなさい」
 吹笛がこれまたいつの間にか羽織っていたマントを脱ぎ捨てる。
「次鋒、吹笛!」
「よし、俺が相手だ。来い!」
 皐月が前に立つ。
 相手にとって不足なし!
「では、4人のお客が3皿限定の料理を一皿ずつ食べる方法!」
 腕を組み、仁王立ちのまま説明をはじめる吹笛。
 美しい黒髪が口を開くたび揺れる。
「まずあらかじめ、一人目を待たせておきます。次に、二人目が一皿目を食べます。次に、三人目が二皿目を食べます。最後に、待たせておいたお客が……」
「……長ぇんだよぉおっ!」
「あぎゃーっ!」
 すぱーんと皐月のツッコミが決まった瞬間、吹笛の身体がコマのようにくるくる回る。
「……メリハリも付けず延々とボケてるだけじゃ、何処がボケかも認識し辛くなるぜ」
 転がりまわって倒れた吹笛に、皐月が小さく呟く。
「ん?」
 終わった筈だった。
 しかし、喫茶店にいるボケの面子の表情に違和感があった。
 笑っている。
「まだです」
 詩穂が言った。
 ユーリとトリアも頷く。
「うん」
「まだ、吹笛さんは終わっていません」
「何?」
 ゆらり。
 皐月の後ろで、吹笛が立ち上がった気配。
「そんな、確かにツッコミは決まったハズ……」
「ええ。素晴らしいツッコミでした。それで、先ほどの話ですが」
 皐月の驚愕など全く意に介さず、話を続ける吹笛。
「本当は詐欺に騙され易いか否かを試す寓話です。まやかしに気付かなかった方は要注意ですな」
(こ、こいつ……)
 皐月は、いやツッコミ全員が慄然とした。
 吹笛は、ボケを解説している!
「くっ……予想以上に手ごわい相手だったぜ」

「次は中堅、ユーリとトリア、行きます!」
「いや、なんか今までスルーしてたけどな。そろそろツッコんでええか?」
 マントの下に執事服を着たユーリと、巫女衣装を纏ったトリアを前に、裕輝が呟く。
「これ何の店やねん」
「ぐふっ」
 その場にいた全員が崩れた。
「いつの間にか全員がノッてたけど、なんで対戦形式やねん」
「……っはぁん、ユーリ、相手は強敵よ。気を付けて」
「うん。すごいツッコミ強度だ。がんばろうトリア」
「いや、何やねんそれは」
「ぁんっ!」
「あぁっ、ユーリがあんなはしたない声を……はぅんっ」
 前哨戦から既にふらふらのユーリとトリア。
 しかし、気を取り直してユーリは注射器と聴診器を構える。
 トリアも、フライパンを構える。
 緊張が走る。
「いやボケに緊張とかええねんから」
「あぁっ…… い、いらっしゃいませー!」
 身体を走る快感を抑え込みながら、必死でユーリが声を出す。
「『ぼーいずめいど』があなたを診察しちゃいます☆」
「くっ……いらっしゃいませー。 あなたを、心を込めてお料理しちゃいます☆」
「いや、『ぼーいずめいど』ってお前執事姿やんか」
「ひゃ……ン」
「そもそも診察て、店ちゃうで」
「や……っ」
「あと、オレらが料理される側かい!」
「はン……っ」
 裕輝の次々と繰り出されるツッコミに、ボケ二人の足腰は既にふらふらだ。
「ええか。あといっぺんしか言わへんからな」
 溜める裕輝に、ユーリとトリアは息を飲んで、最後の時をただ待つ。
 二人の指は自然に絡み、同時にその時を迎えるよう心身がシンクロする。
「これ、何の店やねんっ!!」
「っやぁあああっ!」
「っうぅうううんっ、ユーリっ……!」
 ユーリとトリア、二人同時に昇天。

「ごにゃ〜ぽ☆ いよいよボクの出番だね!」
「貴様の本気……見せてもらおうかのう」
 副将、裁がルシェイメアと対峙する。
 その手には、蒼い液状の物体。
 金色の輝きをたたえた左の瞳が、悪戯っぽく笑う。
「ごにゃ〜ぽ☆ キミぃ、不健康そうだねぇ。そんな時にはこれ蒼汁(アジュール)☆ コレ一杯でいろんな栄養素が取れる万能健康飲料さ♪」
「それは飲み物なのかのぅ」
「もっちろん! 本当は企業秘密だけど、特別に作り方も教えちゃうね」
 がらりと厨房への扉を開ける。
 そこにある大鍋の中には、ありとあらゆる食材が煮詰められ原型を留めないゲル状の存在が。
「ほーら、素敵でしょ」
「……というかこれはそもそも飲み物か!」
 すぱこーん。
「あぅっ」
 ルシェイメアの反応は鈍い。
 裁の強力なボケにはまだまだツッコミが足りないのだ。
「ま、まさかこの目で拝める日がこようとは! あの調理法は、伝説の秘薬作成法!」
「知っているのかドール!」
 ドールの合いの手に、裁と九十九のボケはどんどん暴走する。
「知ったかするでない! あれはただ煮込んだだけじゃ!」
 すぱこーん!
 すぱこーん!
「ごにゃっ」
「ひゃうっ」
 ルシェイメアのツッコミに少しずつ反応していく裁とドール。
 裁の手から、緑の液体がこぼれハリセンを汚す。
 これじゃ!
 ルシェイメアの目が光る。
「おやぁ、何じゃこれは? 貴様の手から、恥ずかしい液体がこぼれておるぞ?」
「んぅっ」
 反応アリ!
 ルシェイメアのツッコミが裁の最も弱い所に絞られる。
「みっともないのぅ、こんなにいっぱい垂らして…… ほらほら、貴様の液体じゃ、貴様がちゃんと始末するのじゃ」
「あ……ふぅ……」
 蒼汁で汚れたハリセンを、裁の目の前に押し付ける。
「こらこら、拭くでない。ちゃんとお主自身が舐めとらんと……」
「も……もぉ、やめ……」
 裁の舌が、蒼汁のついたハリセンに当てられる。
「んっ……」
 舌が感じる形容しがたい味に、顔を歪ませる裁。
(今じゃ!)
「……貴様ら、そんなモノ他人に勧めるでなーいっ!」
 すぱすぱぱこーん!
「ご……ごにゃ〜ぽっ☆」
「あぁ〜っ☆」
 九十九ごと昇天する裁と、ドール。

「おぁあぁいよいよ大将の登場や。ええボケ期待しとるで〜」
「……なかなか、やるね」
 腰をフリフリ前に出たサナギに、詩穂が立ちふさがる。
 マントの下は、フリル裸エプロン。
 その出で立ちから既にツッコミ所満載だ。
「ようお越し、またお越し、岩お越し、ツッコミに先手なし!」
 マラカスハリセンを構えるサナギ。
「あ、お客様ー、機内への危険物の持ち込みは他のお客様にとって大変危険ですので、お断りさせて頂いております。ご了承下さい。」
 さらりと言うと、サナギのハリセンを没収する詩穂。
「うはっ、ええボケや! けどたとえハリセンを取られてもわしにはこの身体がある!」
 腰を落としてきゅきゅっと臀部を突き出すサナギ。
「そいつは危険物やないわ〜! ってゆーかここは飛行機かい!」
 ヒップでのツッコミアタック!
「……やんっ」
 詩穂は小さく声を上げるが、まだまだ昇天には至らない。
「まだです……このくらいのツッコミじゃ、憑依した芸人の女の子の霊は成仏できません、頑張って下さいね☆」
 詩穂は不敵に笑う。
「さすがは大将はんや〜。余裕のよっちゃんやなぁ」
「ミルクはお冷にしますか? それとも熱燗?」
「酒かい! そこはアイスとホットやろー!」
「ふぁんっ!」
 びくっ。
 詩穂の身体が震える。
 ツッコまれるたびに反応があるものの、詩穂が昇天することはない。
「はんっ」
「あぁんっ」
「ぅんっ」
 繰り出されたボケの数だけ、詩穂の喘ぎ声が大きくなる。
 そしてとうとう、その時がきた。
「『晩餐の準備&ティータイム』でただいまお料理をお持ちいたしますね、『狩猟のたしなみ』でとっておきの食材を準備してまいりますので、少々お時間を頂きます。」
「おぉ、楽しみやなぁ〜って、今から取ってくるんかーい!」
「んふぅっ、あぁあああんっ!」
 サナギのツッコミに、とうとう昇天する詩穂。
「……ええボケやったで」
 倒れた詩穂に、座布団を差し出すサナギ。


 大将を倒したツッコミ五人衆。
「これで終わりか……いや」
 得体の知れない気配を感じ、身構える皐月。
 かっかっか……!
 店の奥から笑い声と共に現れたのは、変熊 仮面(へんくま・かめん)
「お忍びの旅も、なかなかいいものですね!」
「こ、肛……もとい黄門か!」
 慌てて言い直す皐月。
 そう、変熊のその姿は、全裸!
「ご老公の御前である! 頭が高い!」
 五人を前にポーズを決める変熊。
「この俺様が、ラスボスならぬラスボケ、水戸こーもんっ! この陰嚢が目に入らぬか!」
「下品なネタは止めろっ!」
 ばしーん!
 皐月のツッコミが決まったかに見えた。
 しかし。
「こ……これは、身代わり!?」
「助さん、お主の事は忘れない!」
 助さん代わりのキノコマンが、変熊を庇って倒れていた。
「助さん……はいないから、角さん、やっておしまい! もういろんな意味でっ!」
 ふんぞり返ったまま命令する変熊。
「よし、全員で行くぞ!」
 構える五人衆。
 そこに。
 がっしゃーん!
 喫茶店の窓ガラスが全て割れた。
「この喫茶店は、私達秘密結社オリュンポスがいただくわ! これ以上の被害を出したくなければ、大人しくすることね」
「我が名は悪の秘密結社オリュンポスの天才科学者ドクター・ハデス! この喫茶店を制圧する!」
「皆さん、動かないでください」
 高天原 咲耶とヘスティア・ウルカヌスを連れたハデスが、割れた窓から飛び込んできた。
「めんどくさいボケが来やがった……!」
 皐月の声も耳に入らぬままに、喫茶店の制圧を進める咲耶。
 その姿はビキニアーマーと謎の仮面。
 まさに悪の女幹部。
「さあ、ヘスティア、挨拶がわりにミサイル一斉発射よ!」
「はわわっ、ほ、本当にやるんですか……か、かしこまりました、咲耶様」
 ヘスティアの背からミサイルが発射される。
 しかしどれも目標が定まらぬまま、へろへろと迷走し爆発する。
「やばいアレは強敵や」
「奴ら、滅茶苦茶じゃのう」
 サナギとルシェイメアが物陰に身を潜めながら呟く。
「フハハハハ! いいぞいいぞ、改造人間サクヤ! 世界征服の日も近い!」
「……喫茶店襲撃とかセコいマネしといてどこが世界制服だ!」
 ばしーん。
 皐月のツッコミがハデスに決まった!
 しかし。
「き、効かない!?」
 ハデスは何の反応もない。
「よし次は人質を取るのだ!」
「かしこまりました、ドクター・ハデス!」
「え、と、警察やヒーローを呼ぼうとした場合、容赦無く撃ちます!」
 更なる侵略の手を広げようとするハデス。
「人質とかミサイルとか、危ねぇだろ! もっと穏便にボケろ!」
「なにが人造人間やねん」
「そんな装備で世界征服なぞ、片腹痛いのう!」
「カ・イ・カ・ン〜☆」
 五人衆のツッコミが次々にハデスに決まる。
 だが、ハデスには全く効かない。
「確かに完璧にツッコミは決まった筈。何の手ごたえもないなんて……」
「甘い! 真のツッコミを見せてやろう!」
 五人衆の前に進み出たのは、全裸の男。
 変熊 仮面。
「一体何を……」
「貴様らは黙って見ていろ」
 変熊は咲耶の前に立つと、徐に手を振り上げた。
「正気に戻れ!」
 ばしーん。
「あアあああああンっ!」
 変熊のツッコミに、昇天する咲耶。
「え、私、一体何を……いやぁああっ、何ですかこの恰好〜!」
 正気に戻った咲耶は自分の恰好に気が付くと、真っ赤になって走り出す。
「あ、こら待て改造人間サクヤ!」
「兄さんのばかぁああ!」
「はわわっ、待ってくださいよぉ〜!」
 逃走する咲耶を追うハデスとヘスティア。
 尚、この時の出来事を、咲耶は完全に記憶の奥底に封印したとか。

 ボケているのはハデスではなく、咲耶だけだった。
 変熊はその脅威の変態力? で、それを察知していたのだ。
「ふっ。俺様は突っ込まれるのも突っ込むのも得意なのだよ!」
 薔薇学だけにな! という後の台詞は聞かなかったことにした。