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 十八章 緋色の槍使い 後編


 レインはエッツェルの魔力により動く二体のリビングアーマーを相手していた。
 ヴェルデの通信が全員に届いた。と同時に、レインの遥か後方で爆発が起こる。

「ハ、ハハ――ッ!?」

 突然の爆音にレインの笑いが止まり、身体が硬直する。

「――今ですね」

 エッツェルはその隙を見逃さなかった。自分のリビングアーマーもろとも歴戦の魔術をレインに発動。
 無属性の魔法がレインを中心に炸裂。

「がァ……ッ!」

 レインの身体が吹っ飛び地面にバウンドをした。
 アーマードはそれを見逃さず、大型の砲口をレインに向ける。

「ロックオン 完了 レーザーキャノン 発射シマス」

 高い出力と収束率を誇るレーザーは、レインの横たわった地点で爆発した。
 怒涛の爆風と灼熱の火柱が起こる。直撃すれば消し炭になりかねない一撃。

 レインはぎりぎりで上空へ逃げていた。

 しかし、レインの身体の各部は焼け焦げ、鎧はあちこち破損している。
 その中でも左腕の損傷が特に酷い。黒く焦げていて使い物にならないことは明白だった。

「――フォルテシモ!」

 エリシアが待機中のゴーレムの名前を叫んだ。
 フォルテシモは、エリシア愛用の空飛ぶ箒を投げ込んだ。

 エリシアがその空飛ぶ箒にサーフボートのように騎乗した。

 空飛ぶ魔法で姿勢制御をしつつ、レインに隙を与えないために全速全開の速度で迫る。
 ホークアイでレインから目を逸らさず、歴戦の必殺術で弱点を見つける。

「――龍飛翔突!」

 ドラゴンが急降下して牙を突き立てるかの必殺の一撃がレインの右胸を貫く。
 鎧を貫通し、そのままレインを地面へと縫いつけた。

「がッ、は……ッ!」

 地面に衝突した勢いで傷口と口唇から鮮血が飛び散る。
 しかし、レインは最後の力を振り絞り片手で緋色の槍を振り回し、エリシアを横に飛ばした。

「はァ、はァ。……ハ、ハハハハッ!」

 それでも、レインの笑みは崩れない。
 片手で槍を構え、全員と相対をする。

「――これで、終わりです」

 静かな呟きと共にクレアが轟雷を放つ剣を携え、駆けた。
 それは、奇しくもレインが得意とする技――轟雷閃。

「はははははははっ!」

 レインも緋色の槍から轟雷を放ち、クレアと向かい合い駆ける。

 バーストダッシュにより速度を増した二人のヴァルキリーの交差。
 雷光の煌きに包まれた二つの刀身がお互いに交錯する――。


 力無く膝をついたのは、緋色の槍使いだった。


 ――――――――――

「……は、ははっ」

 身体から大量の血を流しながら、レインは笑った。
 声は穏やかで、狂気など一つも残っていない。

「どうやら、狂気から解放されたようです。戦士として満たされた、からでしょうか」

 レインの瞳から一筋の血の涙が流れた。
 鮮血のように色鮮やかな赤ではない赤黒い涙は、地面の血溜りに落ち溶け込んでいく。

「それとも神様がくれた奇跡、なのでしょうか」

 血の色をした呪いは晴れて、レインの目が青色になった。
 それは、呪いにかかる前の色。透き通るような青色の瞳が戦士たちを映す。

「……あなたたちが。僕と戦ってくれた人たちですね」

 レインの問いに戦士たちが頷く。
 それを見たレインは死ぬ間際だと言うのに、本当に柔らかく笑った。

「迷惑、かけました。ありがとう」
 
 レインは感謝を述べた。
 そして小さく息を吐き、満足そうに目を閉じた。

「……あなたたちの歩む未来が、光に照らされますように……」

 緋色の槍使いの言葉はそれが最後だった。

「……レインさん。お疲れ様でした。ゆっくり休んでください」

 クレアの小さな呟きが、明け方の荒野に木霊した。


 ――――――――――


 レインと戦った戦士達は涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)の元に集まり、治療を受けていた。
 他の戦士達は治療を終え、今はその最後。クレアの治療を行っているところだった。

「全く、いつも無茶をして。今はまだ怪我で済んでるからいいようなものの、気をつけないと取り返しのつかないことも起こりうるんだからな」
「えへへ、ごめんね。おにいちゃん」

 困った顔で謝るクレアに、少し呆れた顔のまま涼介はルシュドの薬箱を閉じた。

「はい、治療完了。……あまり心配させないでくれよ」


 一方、少し離れた場所で涼介の治療を受けた郁乃は、朝焼けの空を見上げていた。

(彼の名前を忘れないように胸に、記録に刻もう。それが、かつてみんなを、世界を救ってくれたお礼になるはず。
 きっと他にも弔おうとする仲間がいるはず。その方たちと一緒になれば、きっとにぎやかに送ってあげられるね。
 そうすれば、いつの日か英霊となった彼に再会できるかもしれないね。その時はなんて声かけてあげようか)

 郁乃は大きく伸びをする。
 そして、自分に言い聞かせるために口を開いた。

「……よしっ、今はとにかく体を動かそう!」

 そして、踵を返し歩き出す。
 今は感傷に浸るよりもやるべきことをやろう、と思ったからだ。

 けれど、郁乃はやっぱり考えてしまうのだった。
 こんな風に、希望を抱いて。ニヤリと笑いながら。

(久しぶり? その節はどうも? 一緒に行こう? ――そう考えるだけでも楽しくなるね!)