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 二十四章 紅の騎士 後編


 ヴェルデの罠が炸裂した。
 爆発が辺りで発生し、それに誘発しアルテッツァの罠も発動した。
 ネイトを中心に起こる局地的な大爆発。煙と炎に包まれた広場。
 それでも、ネイトは無傷で盾を構えて笑っていた。

「あははッ、ゾディアックちゃんの罠も大した事ないわねぇ」

 レクイエムは全員のサポートをこなしながら笑う。
 少し頭にきたアルテッツァはレクイエムに対しての禁句をボソッと口にした。

「……オカマ」
「……あぁん? 今誰か『オカマ』とか言わなかったかしらん?」

 レクイエムの雰囲気が変わった。
 味方にパワーブレスをかける作業を止め、代わりに天のいかづちを詠唱。

「……誰がオカマよこのチンクシャがぁあああああ!!」

 レクイエムの怒号と共に天が裂け稲妻が落ちてくる。
 稲妻の落下先はネイトの長剣。切っ先に当たり、ネイトは感電するが。

「ピリッとしたなァ」

 エンデュアにより強靭な精神力で魔法の対抗力を高めていたネイトには、意味を為さなかった。
 しかし。

「あたしはオカマじゃないって言ってんでしょうがぁぁあああああああ!!!」

 腹いせの目標として認定されたネイトに、レクイエムの天のいかづちが何度も唱えられる。
 これでは、危なくて敵味方同様に動き様がなかった。

「……おやおや、とうとうキレましたか。ああなってしまうとどうしようもないですね。
 ……パピリィ、ちょっと視界を防いで差し上げなさい」
「え? 視界を防ぐの?
 ……うーん、百一匹魔獣大こうし〜ん!!」

 張本人であるアルテッツァは何食わぬ顔で指示をすると、パピリオは野生の蹂躙を使用。
 膨大な数の魔獣がネイトに向けて突進を始めた。

「みーんな隊長に突っ込んじゃえ〜! やっふ〜! あげぽよ〜!!」

 魔獣の群れによりネイトの姿が隠れると同時に、レクイエムの怒りも落ち着き始めた。

 ネイトは自分に向けて突進をする魔獣を、盾で防ぎときたま攻撃を入れながら受け流す。
 その魔獣の突撃の流れに乗り、エヴァルトもネイトに突っ込んだ。

「狂気に捕らわれ、周囲に被害をもたらしている以上。
 しっかり永眠してもらうぞッ!」

 エヴァルトはナイトだから受け身主体、などという先入観は捨てて挑んだ。
 通常の攻撃にしろ関節技にしろ、完全破壊……腕や脚や首を、折るどころか千切るつもりの攻撃。
 あらゆる場面を想定し、攻めながら隙を伺う。微妙な防御の穴を的確に鉄甲を覆った拳で突いた。

「(敵の)背中(側)は任せてよね!」

 声と同時にロートラウトがネイトの背後にダッシュローラーで素早く突っ込む。
 速度と龍骨の剣のリーチを利用したライトニングランスを放った。

「へぇ、こりャまた殊勝な戦い方を……ッ!」

 長剣でエヴァルトの相手をしながら、盾でロートラウトの攻撃を弾く。
 反撃する暇のない見事なコンビネーション。

「生半可な防御じゃ、それごと潰しちゃうよ!」

 ロートラウトは叫び、ダッシュローラーの左右の車輪をそれぞれ逆に回転。
 その場で高速回転する勢いを乗せて、なぎ払いを繰り出した。

 ネイトの盾が弾かれる。
 それを見たエヴァルトは好機とみなし懐に飛び込んだ。

「片腕、貰うぞ……ッ!」

 ネイトはエヴァルトにチェインスマイトを放つ。
 蹴りと長剣による二段攻撃。あらゆる点を考慮に入れ立ち向かっているエヴァルトには、それは予想済みの攻撃。
 ひらりと避け、長剣が振るわれた後の腕を狙って関節技を決める。が。

「わざわざ武器になってくれんのかァ?」

 関節技を決めながらも、ネイトは自動車殴りの応用でそのままエヴァルトをロートラウトに叩きつける。
 轟音を上げ、地面に重ねるように叩きつけられた二人。ネイトは追撃をかけようとランスバレストを。

「動くな……ッ!」

 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は陽動射撃で、ネイトの足元に発砲して注意を逸らした。
 ネイトのランスバレストは止まり、視線がクレアに向いた。

「すまん、助かった!」

 その間にエヴァルトは立ち上がり、もう一度拳を構える。
 そして、ネイトに突撃しようと足に力を込め。
 
 エスの憑依が解けていることに気がついた。
 
「ッ、もしかして……?」

 エヴァルトは振り返り、ロートラウトを見る。
 そこには、ゆらりと不気味に立ち上がり、目を金色に染め上げた。

「ック、クハッ、ハハハッ!!」

 エスが憑依したロートラウトの姿があった。

「クハッ、好き放題やらしてもらうぜぇ……!」

 豹変したロートラウトが、ネイトの武器を叩き潰そうと拳を振るう。
 野生の獣のような機動、反応を見せながらネイトとロートラウトは交戦。

「敬意も矜持も知ったことじゃない。ただ殺し合って、結果として俺が相手を殺せればいい……!」

 しかし、ネイトも甘くは無い。
 ロートラウトの無理やりの攻撃を盾で受け止め、弾く。
 磨き抜かれた一閃をロートラウトに放つために構え――。

 瞬間、ネイトの動きが止まった。

「あらあら、ネイトさん。あなたの相手は私達ですよ」

 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が凶刃の鎖【訃韻】でネイトの長剣を鎖で絡ませたからだった。

「全く、その通りだよ。私の相手もしてよね!」

 透乃は動きの止まったネイトに、烈火の戦気を纏った拳を構え駆けた。
 豹変したロートラウトも、ネイトを殺すために襲いかかる。

「クソ、ロートラウトを元に戻すには、相手を倒したのが一番手っ取り早いか……!」

 エヴァルトもそう呟き、拳を構えネイトに突っ込んだ。

 三人が自らに突っ込んでくるのを見て、ネイトは歪に口元を吊り上げた。
 それは、心底嬉しそうに。楽しそうに。

「おもしれぇ……!」

 長剣を力一杯振るい、無理やり鎖の拘束から逃れる。
 そして、狂気を感じさせる笑みを顔に貼り付けて叫んだ。

「――まとめてかかってきやがれ!」