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忘れられた英雄たち

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忘れられた英雄たち

リアクション

 入れ替わり、今は誠一がネイトと単身で戦っていた。
 ネイトが剣を振るい、隙があれば蹴りを繰り出す。
 息も尽く暇がない連続攻撃。誠一はどうにかそれに対応していた。

「今からそんなんで大丈夫かァ?」
「……ッ、ご忠告どうも……!」

 歴戦の立ち回りを応用した危険対応能力。
 誠一は攻撃にもっとも重さのない方向に常に小刻みに移動する。
 威力の減じられた攻撃を歴戦の防御術で得た身を守るコツと散華の取り回しのよさを利用。
 全ての攻撃を受け流し、防御に徹していた。

(早く、来い。少し、限界が近い……!)

 誠一は一つのタイミングを待っていた。
 それは盾で殴りつける攻撃に移るタイミング。
 その攻撃を見切るために、今は我慢を重ねていたのだ。

「オラッ!」

 ネイトが盾を振りかぶり、誠一に殴りかかろうとする。
 待ちわびていたタイミング。事前に行動予測で察知していた誠一は、ほんの僅かな隙をわざと見せた。

(もう少し、隙を作ろう。ネイトさんが僕に斬りかかってきた瞬間だ……!)

 身体を動かしながらも、頭をフル回転させ、戦術を練る。
 誠一に向けて斬撃が飛んだ。思い通り。
 そのタイミングをも見切り、誠一は相手の盾の影に潜り込み、更に盾殴りを誘発させた。

「クソッ! ちょこまかと」

 ネイトは誠一の狙い通り盾殴りを行う。
 ミラージュで大きく後退する幻像を見せ、自身は実戦的錯覚と隠れ身を併用し、最小の動きで死角に潜り込んだ。

(――射程内、今しかない)

 確実な、やっと作ることが出来た大きな隙。
 誠一は散華の柄を、両手で力強く握る。

 ――動きを見切って放たれる究極のカウンター。

 僅かに紅に染まった刀身は迷いなく一閃の軌道を描き。

「一刀流奥義、夢想剣!」

 ネイトの身体に鋭い一撃を叩き込んだ。

「つッ……! やるじゃねェか、剣客」
「……僕の最高の業だからねぇ。それで倒れないのは予想外だけど」

 その言葉と共に前のめりに倒れこむ誠一。
 それを追撃しようとしたネイトの盾に一発の銃弾が当たる。

「目的もなくただ闇雲に武器を振り回し、破壊をまき散らすだけの行為など、
 ――戦いと呼ぶにも値しない」

 銃弾の方を振り向けば、そこに居たのは銃を構えるクレア。
 銃口をネイトに向けたまま、言葉を紡ぐ。

「目的もないただの暴力など、日々を生きる人々の、未来を夢見る子供達の、ささやかな決意にも敵うまい。
 戦いとは、目的達成のために、その障害に打ち勝つこと。何を壊したか、誰を殺したかなどではない。
 ゆえに――」

 目的は『自分と部下達の死に場所を得ること』。障害は『呪いによる戦いの衝動』。
 なら、もうあなたの目的はほぼ叶ったはずだ。残るのはあなた自身の障害のみ。
 そう考えたクレアは、引き金に手をかけ、ネイトに語りかけた。

「ネームレス戦隊隊長、ネイト・レーヴァンテイル。貴官に最後の『戦い』の場を与えよう………動くな!!」

 ネイトはクレアを凝視したまま動かない。
 その顔からは狂気を感じさせる笑みは消え、無表情のままクレアを見つめる。

「たとえ勝てないとしても、目的があるのならその衝動と『戦え』」

 クレアの言葉が朝焼けに包まれた静かな荒野に木霊した。

「……この衝動と戦えって、か。そりゃあ無理だ」

 ネイトの声が静かに反響した。
 その声に含まれるのは諦観、悲壮。

「五千年も染み付いてたらな。もう、何がなんだか分からなくなってんだよ」

 身体の至る場所から滴り落ちる真っ赤な血液は、ぽつりぽつりと地面に落ちていく。
 もうどうすればいいのかわからないといったように乾いた笑みを浮かべて。

「だから、さ。俺を止めるんなら殺してくれ」

 ネイトの言葉にクレアはそうか、とだけ洩らした。

「ならば、決定的な『敗北』を与えるしかあるまい」
「……ああ、それがきっと一番だ」

 クレアは自らネイトに向かって駆け、トゥルー・グリッドを放つ。
 派手に攻撃をしかけ、味方の攻撃のチャンスを作った。

 ――――――――――

「行くぜ、俺達の力を受けてくれ」

 唯斗は赤いマフラーを靡かせながら駆けた。

 妖精の領土で地形に関係無く縦横無尽に動く。
 彗星のアンクレットで速度を更に強化。

 振るわれる剣閃を殺気看破で攻撃を先読みし回避していく。

 ネイトの懐に入ると限界まで上げた速度で一気に踏み込み、震脚と同時に怒りの煙火を使用。
 荒野の大地を割れ、ネイトの足場を崩した。

「溶岩はオマケだ防げるんだろう?」

 唯斗は一旦後方へと下がる。
 割れた大地から噴き出した溶岩がネイトに襲い掛かった。

「ッ! えらく面妖な技を使うじゃねぇかァ!」

 盾でそれを防御するが、思わず態勢が崩れてしまう。
 その隙を見逃さず唯斗は走り、勇士の剣技を叩き込んだ。

「まだまだッ!」

 唯斗は言葉と共にティアマトの鱗とレーザーマインゴーシュの一点集中攻撃。
 驚異的な殺傷力を発揮する鱗とイコンの装甲にダメージを与えられる威力のレーザーブレード。
 その二つで盾を貫こうとした、が。

「生憎、そこまで柔な盾じゃねぇんでなァ!」

 ネイトはその攻撃を完全に盾で受け止めた。
 そして、長剣を一旦仕舞い、盾を両手で持った。

「ランスバレストォォッ!」

 まるで電車のような威力を有したネイトの全力の突進攻撃。
 当たれば必殺。戦闘不能は確実、悪ければ死亡する一撃。
 真正面で受けた唯斗は吹っ飛び、地面でバウンドした。

 そこで、ネイトは気づく。
 自分の胸にティアマトの鱗が当たっていることが。

「……風、術」

 唯斗の静かな呟きがネイトの耳に届いた。
 剣先を媒介に風術が全力発動される。
 ネイトの盾を吹き飛ばし、体勢を崩して隙を生んだ。

「……昴! ……今だ!」

 必殺技をぶち込んでやれ、と言う言葉は言えず唯斗の意識はそこで切れた。

 唯斗が自らの身を挺して生み出してくれた大きな隙。
 昴は感謝の気持ちと共に走る。
 剣客は天を舞い、鞘を抜き取り、望みを込めて、地へと駆ける。

「四神招魂! 朱雀王珠開放!」

 音速で放たれる突き、刀から散る炎と火の粉が朱雀を生む、名付けて――。

「朱雀焔翔突!」

 朱雀と化した必殺の突きはネイトの胸を貫いた。
 刀が突き刺さった腹部からは、血が洩れる。
 常人なら確実に死亡する一撃、だったのだが。

「……ックハ、効いたな。今のは」

 ネイトはまだ倒れなかった。
 盾で昴を横殴りし、吹っ飛ばした。