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≪猫耳メイドの機晶姫≫の失われた記憶

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≪猫耳メイドの機晶姫≫の失われた記憶

リアクション


3.『雑草駆除』

 箒に乗って空中を飛ぶアリッサ・ブランド(ありっさ・ぶらんど)の【イナンナの加護】を受けながら、長原 淳二(ながはら・じゅんじ)フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)、さらにそのパートナー達は庭園を順調に進んでいた。
「思っていた以上に大変ですね」
 淳二はバルディッシュ(光条兵器)で、異常なまでも生長した植物を薙ぎ払う。
 バルディッシュの半月状の刃を円を描くように一周して、淳二は腰に納めるように構えなおした。
「そうですね。私も周囲を警戒しておきますが、皆さん注意を怠らないでください」
「了解です」
 フレンディスに短く返答して、淳二は庭園を進む。
 すると、淳二の背後からミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)の可愛らしい声が聞えてきた。
「もうっ、さっきから髪に絡みついてきて邪魔でしょうがないですよ」
 仲間が吹き飛ばしたり、触れることで、ミーナのピンクの髪にいくつもの葉が付いていた。
 庭園に生えた雑草は油などを多く含んでいるせいか、すぐにくっ付いてしまうようだ。
 ミーナは自分の髪を燃やさないように注意ながら、絡みついてきた近くの雑草を焼いた。
「火を使うのはいいけど、俺達まで燃やさないでくれよ」
「わかっています」
 絡みついた草を落としながら、ミーナは頬を膨らましていった。
 その時、殺気が空気を通して淳二達の身体に微弱な電流のように伝わってきた。
 慌てて振り返ると、レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)が大剣を構え――

「ハァァァァァ――『一・閃』!!」

 ――咆哮のような声と共に地面に叩きつけた。
 轟音と共に土草が周囲に飛び散り、レティシアの目の前が扇状に抉られていた。
「次だ!」
 レティシアは重量などものともせず、大剣を軽々と持ち上げると軽快な足取りで走って行った。
「気合が違いますね」
「ああ……」
 ミーナと淳二は目の前で起きた出来事に暫し呆然としていた。
 すると、ミーナは吹き飛ばされた土地で、せっせと動き回る二匹の猫を見つけた。
 二匹の猫はレティシアについてきた獣人の兄妹だった。
 彼らはレティシアが吹き飛ばした雑草だけを袋に積め、土はぷにぷにした肉球で一生懸命もとに戻しいていた。
「なんだか和んじゃいますね」
「そうだね」
 淳二はミーナにつられるように頬を緩ませていた。

「ベルグちゃん!」
 空中を飛んでいたアリッサが声を上げる。
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が見上げると、アリッサは雑草の向こうを指さしていた。
「向こうに≪食人植物グルフ≫の集団が見えるよ。ほらほら、早くやっちってぇぇ――!!」
「なんかアリッサに命令されるのは癪だが……しょうがねぇ」
 腕をぐるりと回ると、ベルクは大きく深呼吸すると氷の翼で空中へと飛び上がった。
 ベルクの瞳が≪食人植物グルフ≫の一団を捕える。

「いくぜ、先制攻撃だ!! ヴォルテックファイアァァ!!

 ベルクの声と共に炎の渦が≪食人植物グルフ≫を包み込み、一瞬のうちに炭へと変えていった。
「っと、忘れずに消火消火……」
 地上に降り立ち、ベルクは魔法で周囲に氷を放った。
「あ〜あ、後先考えず燃やしちゃたりして、これだからベルクちゃんはがさつで嫌だよねぇ」
 ベルクが振り返ると、アリッサがフレンディスの腰にまとわりついていた。
「おい、待て、アリッサ。お前がやれっていったんだろうが」
「でも、あんなやり方はないよ。おねーさまならもっとスマートにやってたもん、ねっ☆」
「え。ど、どうでしょう」
 戸惑うフレンディス。その腰で、アリッサがベルクに向かって舌を出していた。
 ベルクは思った。
(この無機質……うっぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――!!)

 ベルクの怒声が近くで作業してたミーナの耳にも届く。
「なんかあの人達喧嘩していません? 止めた方がいいのでしょうか?」
 離れた場所でベルクとアリッサが言い争いをしている。
 ミーナに尋ねられ、【超感覚】を発動させていたナナユキ・シブレー(ななゆき・しぶれー)が、地面すれすれまで伸びたツインテールを揺らしながら答える。
「う〜ん、大丈夫じゃないの? なんか保護者みたいな人がいるし」
 ナナユキが見つめている先では、ベルクとアリッサの間にフレンディスが入って話を収めている所だった。
「ほら、大丈夫だった」
 喧嘩が収まったと判断してナナユキ達は作業に戻る。
 だが、ベルクの中の怒りはまだ収まっていなかった……。


「当たりません」
 先導していたティー・ティー(てぃー・てぃー)が、襲ってきた≪食人植物グルフ≫の触手を蝶のように舞って回避する。
「鉄心、お願いします」
「ああ、仕留める」
 ティーの合図で源 鉄心(みなもと・てっしん)が構えた銃を発砲。
 銃声と共に茎が風穴が空いた≪食人植物グルフ≫が、バランスを崩して倒れていく。
「……もう、鉄心とわたくしの周りには敵がいないようですわ」
 【殺気看破】と【ディテクトエビル】で周囲を警戒していたイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が、ホッと息を吐く。
 すると、ティーが不安げに尋ねてくる。
「あの、イコナちゃん。私の周りはどうなのでしょう?」
「……ティーは自力で避ければいいのですわ」
 ティーは雷に打たれたようなショックを受けた。
「今日はマルチにお役立ちすぎるわたくし……自分が恐ろしいですわ、ふふふ」
「勝手に盛り上がるのはいいが、いい加減離してくれ」
 周囲の警戒だけでなく、状態異常防止や回復まで様々な補助をこなし大活躍のイコナ。……のはずだったが、鉄心の背中でビクビクしながらしがみついているため、戦闘時にはかなりの邪魔になることが多かった。


「えいっですわ」
 リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)は複数の雑草を両手で掴むと、勢いよく引き抜いた。
「う〜ん、こんなちまちま抜いていてもキリがないですわね。ここは一気に……」
 リリィは精神を集中させると、自身の周囲に【バニッシュ】を放った。
 すると、草むらから悲鳴のような音が聞こえてきた。
 なんだろうと顔をのぞかせると、≪腐敗の魔草≫が枯れていた。
「今の、見ましたか!? うまいこと危険な植物だけやっつけましたよ!!」
 リリィは嬉しそうに枯れた≪腐敗の魔草≫を指さしながらマリィ・ファナ・ホームグロウ(まりぃ・ふぁなほーむぐろう)に話しかける。
 マリィはため息を吐くと、血煙爪で雑草を薙ぎ払う手を一端止めた。
「確かにすごいけど、他の雑草とか残ったままじゃん。これはどうするのよ」
 リリィが首を回して周囲を見渡す。周りは歩いてきた道を除いて一面の緑で、【バニッシュ】は害を及ぼす≪腐敗の魔草≫にしか効いていなかった。
「結局、地道にやるないんですわね……」
 リリィは諦めて雑草抜きを再開した。
 そんな二人の後から遠野 歌菜(とおの・かな)は【トレジャーセンス】を発動させながら歩いてくる。
「う〜ん。ここら辺だと思うんだけど……なかなか見つからないね」
「リリィもそう言っていたな。ま、これだけ視界が悪いと探すのも容易じゃないよな」
 先ほどリリィが特技の探索で近くに墓があると言っていたと、月崎 羽純(つきざき・はすみ)が話す。
 だが視界は雑草に遮られ、墓が本当にあるかは定かではなかった。
「……ねぇ、羽純くん」
「なんだよ」
「絶対にお墓を見つけて、キリエさんに元気になってもらおうね!」
 歌菜が不安など微塵も感じさせない笑顔を羽純にむけた。
 暫く見惚れていた羽純だったが、自然と笑みが漏れ出した。
「ああ、もちろんだ」
 二人は楽しそうに笑いあっていた。
「そうだ。リリィさんに≪首なしの豪傑騎士≫さんの話を聞いてみようよ」
 歌菜はリリィが以前、≪首なしの豪傑騎士≫と遭遇したと話していたことを思い出した。
 尋ねられたリリィは下唇に人差し指を当て、軽く記憶を遡りつつ語った。
「そう、ですわね。わたくしが会った時はまだまだ元気に侵入者を排除していましわ。あの時はてっきり、廃墟をうろつくだけの魔物かなにかだと思っていましたけどね」
 リリィが微笑みながら首を傾けると、艶やかな黒髪がさらりと流れた。


 庭園を月詠 司(つくよみ・つかさ)がミスティ先生(武器)を手に、魔法少女の格好で進んでいく。
「なぜ私がまたこんな恰好しなくてはいけないんですか……」
 不満を漏らす司。
 その背後から、強殖魔装鬼 キメラ・アンジェ(きょうしょくまそうき・きめらあんじぇ)が伐採した草を楽しそうに食べる音が聞こえてくる。
「わぁ〜ぃ♪ ご飯ご飯〜♪ バリバリ♪ ゴリゴリ……♪」
「ほら、ツカサ。文句を言ってないで働く働く」
「いたっ、痛いですよ……」
 【トレジャーセンス】で墓を探していたシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)は、司の背中を力一杯に叩いた。
 司は魔法少女の格好をしている自分の姿を見下ろしてため息を吐くと、諦めてミスティ先生を構えなおす。
 すると、背筋の凍るような幻聴が聞えてきた。
「どうかした、ツカサ?」
 ミスティ先生を振り上げた状態で青ざめている司を見て、シオンが不思議そうに尋ねてくる。
 司は古びた機械人形のような動きで首を動かしてシオンの方を振り返ると、震える唇で話した。 
「いや、なんか幻聴で……騎士は首を欲してるとか、なんとか……」
「……あっそ」
 シオンは司の幻聴などはどうでも良さそうだった。
 それより――
「無いなら代わりを用意すれば良いじゃない★」
「え?」
 からかう方が何十倍も楽しい。
 微笑みを浮かべているシオンに、司の表情から瞬く間に色を失われていく。
「フフッ……冗談よぉ〜♪」
「な……な、なんだ、脅かさないでくださいよ」
 顔面蒼白。気絶寸前まで追い詰められていた司の表情に、人間らしい暖かさが戻っていく。
 シオンはとても楽しそうだった。
「さ、さぁ先を急ごう」
 司は平静を装って歩き出す。
 背後でシオンが小声で呟いた。
「……そうね。出来たら面白そうだけど」 
「ん、シオンくん。今何か言った?」
「ううん。なんでもないわよ」
 シオンは満面の笑みを浮かべていた。
 そんな時、アンジェの腹の虫が豪快な音で鳴りだした。
「ううぅ〜っ……」
 アンジェの周囲にあったはずの大量に刈った草が全てなくなってしまったのだ。
「あ、もう全部食べちゃったんですね。ちょっと待っ――」
「えぃ♪」
 待ちきれないアンジェは司が刈る前に雑草に噛みついた。
「にゃはははっ、ウネウネ〜♪ 」
「ちょっ。 Σアンジェくんっ!?」
 アンジュが噛みついた土色の枝がうねうねとうごめく。それは≪食人植物グルフ≫の触手だった。
 司はアンジュが呑みこまれる前にと、慌てて≪食人植物グルフ≫を倒した。
 そんな、司の気も知らずに、アンジュは動かなくなった≪食人植物グルフ≫をむしゃむしゃ食べ始めた。
「さっきから思ってたんけど、ここら辺に生えている植物は生で食べて大丈夫なんでしょうか?」
「アンジェだから大丈夫じゃないの?」
「……」
 シオンは興味がなさそうにそっけなく答えた。
 心配そうにアンジュを見つめる司。
 すると、二人の視線が交差する。
 そして、アンジュは強引に千切った≪食人植物グルフ≫の茎を手に司に近づいてきた。
「司にぃさまも食べる、よねっ?」
「え、いや。私は……」
 アンジュが茎を司の口に押し付ける。
「あの、アンジュ。僕の答えは……」
「……」
 アンジュは無言で見つめながら、ぐいっと口に茎を押し付けていた。
「聞いて、ないんですよね……」
 司は観念して恐る恐る口を開く。すると、アンジュは強引に茎を口の中へと押し込んできた。
「むぐっ、うぐぐぐ……!?」
 次の瞬間、司の身体を燃えるような熱量が走りぬけた。

「では、よろしくお願いします」
「おっけぇ〜。ガゼボの周りからだねぇ。任せておいてぇ〜!」
 空のバケツを持った笹野 朔夜(ささの・さくや)が、清泉 北都(いずみ・ほくと)にもとから立ち去る。
「じゃあ、ソーマ。張り切っていこうかぁ」
「ああ」
 北都はソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)と一緒に朔夜の頼みどおり、苔がついたガゼボの周辺から綺麗にすることにした。
「しかしなぜ、あそこからなんだろうな」
「わかんないけどぉ。キリエさんのためになるならいいんじゃないかなぁ?」
 北都達は、廃墟からわざわざ頼みに来たくらいなのだから重要なことだろうと思い、詮索はせず雑草とりを開始した。
「すいませ〜ん」
 すると、シオンが北都達の所へ走ってくる。
「麻痺を治してもらえませんか?」
「うぅ……」
 シオンは生の草を食べて麻痺ってしまった司を引きずっていた。
「おい、なんなんだ、あの格好は……」
 ソーマは魔法少女の格好をした成人男性の姿に数歩後ずさる。
「ソーマ、人の趣味をどうこう言っちゃだめだよぉ」
 そういう北都の表情は引き攣ってうまく笑えてはいなかった。