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【●】光降る町で(前編)

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【●】光降る町で(前編)

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”八つの柱はこう謳う

 太陽のその下でも 星はいつも輝いている
 光呑むあの夜の向こうで 点と点を繋ぎ

 忘れられない別れの 深い深い悲しみのように
 失ったものを想う 長い長い苦しみのように

 さあ 明かりを灯しましょう 月にも見つからないように
 大地に星を輝かせ 太陽すらも惑うように
 
 さあ カーテンを下ろしましょう 誰にも見つからないように
 大地を槌打つ彼の人の その眠りが終わるまで ” 





 
 日も昇らないような朝早く。
 普段ならば薄闇と共に眠りの中に包まれているはずの町は、既に動き始めていた。
 忙しなく屋台の準備を始める人々や、飾り付けに勤しむ人々、そしてそんな人々を手伝い、あるいは指示しながら動く人々……そんな人の流れの中に紛れるように、古い民謡らしき歌は、町のあちこちで歌われ始めていた。
「どうなることかと思いましたが、今年も何とかなりそうですね」
 安心した様子で息を吐いた青年に、長老は「そうじゃの」と短く頷いた。その歯切れの悪さに青年が首を傾げたが、それに問いかけるより先に、長老を呼ぶ声があった。
「すんまへん、ちょっとお話伺ってもええやろか?」
 にかっと笑顔でそう尋ねたのは、まだ祭りも始まらない早くから、パンフレット片手にやって来た日下部 社(くさかべ・やしろ)だ。観光のほかに、芸能事務所846プロダクション社長としての勉強、という目的のある彼にとっては、祭りの準備からが重要なのである。長老の方も、観光地の重役として愛想よく笑顔と共に頷いた。
「先日は大変やったみたいで。それでもこの祭りをするのは、やっぱり意味があるんですやろか?」
 面倒な前置きなくさくりと問われたのにも、勿論、と長老は答えて、忙しく動き回る町の人々を示して、その視線を更に大通りの向こう、ストーンサークルのあたりへと延ばした。
「先日のようなことがあったからこそ、重要なのじゃよ。この祭りは”鎮め”の意味を持っているのでの」
「封印を強める効果でもあるんです?」
 社は素直に首を傾げたが、長老は何故か「うむ」と微妙な歯切れの悪さを見せながら、続きを説明するでもなく、ところで、と話題を変えた。
「日下部どの、申し訳ないが打ち合わせが有りますでの。孫を案内にやりますので、わしはこれで」
 そう言うと、傍に控えていた女性がぺこりとお辞儀をした。まだ話したいことはあったが、祭りの準備の最中だ。致し方ない、と言う思いと、同じ年頃の女性が案内してくれるとあれば断るわけにもいかず、日下部は長老の家を後にした。
(なぁんか、しっくりせぇへんな〜)
 案内を受けながら、社は心中で呟く。
 長老の態度も気になるが、聞こえてくる歌、それから話に聞いていた封印と、祭りの内容の妙な不一致。 
 それに。

『国軍もいる、大事にはならんじゃろうが……』
 
 長老が最後にぽつりと呟いた言葉が引っかかるのだ。
 先日の事件の事後処理らしく、教導団員の姿をちらほらと見かけてはいたが、彼らと祭りとは関係が無いはずである。普通に考えれば、もし祭りが上手くいかなくても、彼らがいれば大丈夫、という意味なのだろうが、それならそもそも危険をおして祭りをする必要も無いように思えるのだ。

「なんちゅうか、気になるわぁ……」

 呟くが、それ以上今は情報があるわけでもない。
 難しく考えるのは一旦横に置き、社は案内役の女性と共に、町の見学へと向かっていった。


 この町に起ころうとしている物語を、彼はまだ知らない。