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【●】光降る町で(前編)

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【●】光降る町で(前編)

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【歌響く街角 2】





 同じ頃、やはり聞き込みに回っていたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)も、出店の準備をしていた男を捕まえて、似たような質問をしながら首を傾げていた。
「じゃあ、お祭りの時に、何かあったりはしなかったんですか?」
 封印を弱めて行われているわけだから、そのせいで、大事にならないまでも、フライシェイド達がやって来たり、というトラブルが無いとも限らない。だが男はううん、と考え込んだが、何も思い当たる所は無いようで「無いなあ」と答えた。丁度一緒になった浩一も、その言葉にふむ、首を捻る。
「年に二回も封印が弱まるのに、ですか?」
「弱まる?」
 セレンフィリティが話しかけていた男と同じように、こちらもどうも、その辺りから理解していないようである。この町の構造自体が、封印を強めているはずだ、と言う説明をしたが、それすらも初耳だと言わんばかりの様子だ。思い切って、この町の祭りは、封印を弱めているのだ、と言うところまで説明したが「祭りで鎮めてるんだから、大丈夫じゃないかねえ」と苦笑するだけだ。
 エースたちは時間を取らせたことを詫びてその場を後にすると、それぞれ難しい顔をした。
「妙ですね」
 率直に口を開いたのはエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)だ。
「この祭りが”鎮め”の意味を持つ、と殆どの人が知っている。だというのに、町自体の役割を知らない、というのは」
「そうだね」
 メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が同意して頷く。
「太陽の光を使った封印を弱めて行われている、という認識が無いから、祭りに対しての認識が低いのかな」
 そう推理しながらも、メシエ自身しっくりいかないらしく肩を竦めた。
「なんにせよ情報不足だね。町の重役なら、何かしら文献が残っているはずだ」
 そちらを当たった方が良いかもね、というメシエの言葉に、エースも頷く。
「長老にアポイントは取ってあるから、ついでにお願いしてみるか」
 そう言ったエースに、それじゃあ、と浩一も口を開いた。
「俺はもう少し、この辺りで話を聞いて回ることにします」
 

 そうしてエース達と別れた後、次に浩一が尋ねて回ったのは、大通りから少し離れた、屋根がアーケード状に連なる横道だった。丁度、休憩を取っていた女性たちの井戸端会議に混ざって、そこそこ親交を深めたところで、早速「このお祭りなんですが」と口を開いた。
「年に二回……って、結構多い気がするんですが、大変じゃないですか?」
 その問いにはまあねえ、と何人かから同意の声が上がった。
「中止しよう、って話が出たこともあるんだよ。地味だけど手間はかかるし、年に二回じゃ結構大変だしね」
 だが、そんな話が上がるたび、祭りをやめてはならぬ、と賢者が言ったのだ、と教えていたらしい。しかし、その反面で、災いが起こる、などといった説明もなかったようで、単純に”鎮め”が必要なのだ、とだけ教えられているようだった。とはいえ、このあたりは言い伝えに近いので、どこまで正確なのかははっきりしなかったが。
 仕方なく、話題を変えようと「この町には、他に伝承の歌とかは無いのでしょうか?」と尋ねてみたところ、意外な情報が転がり込んだ。
「あんなに古い歌はないけど、古いといったら、あれだよ」
「ああ、あれね……ちょっと待ってて」
 浩一が首を傾げていると「これだよこれ」と女性が見せてくれたのは、一枚の絵を複製したものだった。
「これは?」
「昔、町長さんの家に飾ってあったのさ。地輝星祭を表したもんなんだって」
 今は失われてしまったらしいが、その複製は残されており、今は安価な複製が可能と言うこともあって、ポストカードなどにもなっているのだそうだ。その絵の中には、中心には黒い円が一つ、その両脇には二人の男が並び、更にそれを取り囲むような八つの星と、それに触れるように、不思議な生物たちが、やはり輪を描くように踊っている。
「詳しくは知らないけど、その踊ってるのは星座の神様がたなんだそうだよ」




「そいつは興味深い話だな」
 浩一からの情報に、アキュートは言った。
「それから、もう一つ俺からも報告がある」
 その体格故、準備の邪魔にならないように気を遣いながらも、近衛 栞(このえ・しおり)と共に何とか聞き込みして回ったマグナ・ジ・アース(まぐな・じあーす)が続ける。
「ストーンサークルを中心とした町の構造についても、やはり疑問視している人間が少なかった」
 マグナは、危険なモンスターを封印していながら、それをあえて町の中心にする理由について聞いて回ったのだが、
賢者が封印を守るためにそうしなさったんだろう、といった意見が殆どで、ストーンサークルから離れて町を作り直したり、といったことは今まで議題にも上っていない、ということしか判らなかった。
「討伐隊が組まれたこともない、というのも不思議でなりません」
 栞の言葉に、アキュートも頷く。町の人々が封印について余りよく知らないでいる、というのもそうだが、ストーンサークルを中心に、綺麗な円を描く町の構造も、不可解といえば不可解である。それだけの労力を費やすよりは、倒してしまった方が手っ取り早そうなものだ。
「円、円か……その絵の中心にあるのも、円だったな」
 中心の円、そして輪を描く星。その絵に描かれているものの意味は、そのままこの地輝星祭の謎に繋がっているのではないか、という確信にも似たものが、アキュートの脳裏にたゆたう。
「できれば現物を見るのが一番なんだが……」
「もう少し調べたら、そちらに合流しますよ」
 もどかしそうなアキュートの様子に、軽く笑う風の浩一が言う。
「ああ、頼む」
 そんな短いやり取りの後、通信を切ったアキュートは、絵に描かれているというキーワードを頭に浮かべた。
「黒い円に、男二人、八つの星……か、この祭りを表してる、って割りに配役が変だな」
 一人考え込んでいた、その時だ。
「それより歌の方がヘンなのですよ〜」
 と、声がしたかと思うと、ぴょこん、とアキュートのコートから飛び出してきたのはペト・ペト(ぺと・ぺと)だ。
「ペトお前、また勝手にくっついて来たのか」
 呆れたように言ったアキュートに、ペトはむすりと頬を膨らませた。
「一人でお祭りなんて、ずるっこなのです」
 祭りに連れて行ってくれなかったのにむくれているのか、置いていかれて拗ねているのか、恐らくどちらともだろうそんな憤慨露な声音に、アキュートはぽりぽりと頭をかいた。ついてきてしまったものは仕方がない。
「しょうがねえなあ……で、変、って何が変なんだよ?」
 尋ねると、拗ねていた表情をころりと変えて、今度はむう、と唸るように眉を寄せた。
「だって、お祭りの歌じゃないのです。悲しい、悲しい歌なのです」
「そういえば、討伐隊の奴もそんなこと言ってたな」
 ペトの感想に、ふと出立前のヒルダの言葉を思い出しながら呟いたが、そんなアキュートに構わずペトはあまり楽しくなさそうな顔で続ける。
「眠ってる人が起きてこないのを、悲しんでるみたいなのです……」
 それを耳にしたクレアがふと、そういえば、と思い出したように呟いた。
「ストーンサークルに刻まれていた文字に、断絶される繋がり、というのがあったな。それに関係しているのかな?」
「ん?」
 その言葉に、興味津々と言った様子でじっとクレアを見つめるペトに、クレアがストーンサークルに刻まれていた文字……八つの意思、点と点、古の嘆き、断絶される繋がり、干渉を阻害、太陽の刻印、繕う、地の底――という八つの単語を説明すると、何故かペトはぷるぷるとその小さな首を振った。
「その歌と、この歌はちがうのですよ?」
「……何?」
 その言葉に、皆がペトを見た。
 突然いくつもの視線が向けられたのにびくっとなったペトだったが、尚も「ちがう歌ですよ?」と繰り返すのにアキュート達は顔を見合わせた。
「もう一度、ストーンサークルを調べてみる必要があるな」
 アキュートの呟くような言葉に、マグナも頷いた。

「民謡については、神崎青年が向かっているはずなのだ」