蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 『私、お母さんになりますー』

リアクション公開中!

終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 『私、お母さんになりますー』

リアクション

「おぉ!? アレは何だ!? 讃良ちゃん、行ってみるだ!」
「いくのだー!」
「あぁあ、ふ、二人とも待ってくださいですー。讃良ちゃん、言葉遣いがおかしくなっちゃってますよー」
 讃良を半ばかっさらうようにして、童子 華花(どうじ・はな)が出店をあっちへこっちへ、と駆け回る。子供特有の感性か、それとも讃良自身に備わった力かは定かではないが、華花が悪気のないのを知って讃良も途中から華花を連れ出すようになり、そして二人の後ろを豊美ちゃんが完全に翻弄される形で付いていく。
「……あれではお母さんというよりは、どこか抜けたお姉さんのように見えるな」
「それ、豊美ちゃんに聞かれでもしたらただじゃ済まないわよ?
 ……讃良ちゃん、ねぇ。最初は馬宿がいつの間にかお父さん? それとも隠し子を? なんて思ったけど」
「リカイン……滅多なことは口にしないでもらおうか」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の発言に、険しくも怒ってはいないと感じさせる言葉で馬宿が答える。
「それにしてもまぁ、お互いに色々とあったわけで。とりあえず、こうして無事に近況報告がし合えることを喜んでおくべきかしらね」
「ああ、そうだな」
 そしてしばらくの間、二人は互いの身に起こったことを語り合う。リカインは魔族との決戦でザナドゥに赴いたことを。馬宿はリカインが知らなかった『豊浦宮』のことを。
「乗り込んだイコンがまぁ、色々あって暴走して自爆寸前で……思えばよく生きて帰ってこられたわ」
「話には聞いている、実際に目にしていない以上、上っ面になってしまうが……大変だったのだな」
「大変、なんてモンじゃなかったわね。……でも、今は終わったこと。大事なのはこれから。
 ふふ、ありがと。心配してくれたんでしょ?」
「……心配、というほどまではしていない。リカインのような者がそうそうどうなるとは思えないからな」
「それ、女の身としては喜んでいいのか悩むところね。まぁいいけど」
 互いの視線が外れた所で、満足したらしい華花と讃良、疲れ果てた様子の豊美ちゃんが戻って来る。
「オラ、楽しかっただ!」
「わたしもー!」
「……わ、私はもう疲れましたよー……」
 まだまだ元気いっぱいといった感じの二人に対し、豊美ちゃんは今にも崩れ落ちそうであった。
「ここいらで解放してあげないと、豊美ちゃんの方が持たなそうね。
 それじゃ、私たちは行くわ」
 手を挙げて立ち去るリカインに、頷いて馬宿がその背中を見送る。
(……女、か)
 一瞬物思いに耽りかけた馬宿はしかし、讃良ちゃんと豊美ちゃんという二人の『子供』にせっつかれて現実に返る羽目になったのであった。

「わー、すごーい! おとぎの国みたい!」
 イベント会場に足を踏み入れたプレシア・クライン(ぷれしあ・くらいん)が、『魔法』がもたらす煌く光や響く音に瞳を輝かせていた。
「プレシアちゃん、あんまりはしゃぐと危ないよー」
 堂島 結(どうじま・ゆい)の忠告も耳に届かないといった様子で、プレシアは足取り軽やかに会場を移り歩いていく。
「いいなー魔法少女。どうやったら魔法少女になれるのかな?
 私も魔法少女になれるのかな?」
「はい、なれますよー」
「えっ!?」
 予想してなかった答えが返って来て、驚いたプレシアが声の響いた方向を振り返ると、そこには豊美ちゃんがいた。
「(わっ! と、豊美ちゃんだ!)あのっ、は、はじめましてっ!」
 相手が豊美ちゃんと気付いて、慌ててぺこり、と頭を下げるプレシア。
「えっと、本当に魔法少女になれるんですか?」
「魔法少女になりたいと思う気持ちがあれば、誰でも魔法少女なんですよー」
「そっか……そうなんだ……。
 私、魔法少女になりたいです! えっと、こんな感じでいい、ですか?」
「はい、いいですよー」
 にこり、と微笑んで豊美ちゃんが、プレシアを魔法少女に認定する。
「もう、プレシアちゃんどこに行ったかと思ったよ……って、そっちの人は――」
 そこへ、ようやく追いついた結が豊美ちゃんの存在に気付いたと同時、プレシアが抱きつかんばかりの勢いで結に迫る。
「結、私ね、魔法少女になったの!」
「ええっ!? ……あ、そっか。プレシア、魔法少女に憧れてたんだもんね。
 えっと、無理を言ったのでしたらすみません」
「いいえ、私はただ、プレシアさんの思いに応えただけですー。魔法少女への憧れを持っていることは、とても素晴らしいことですから」
 言って微笑んだ豊美ちゃんへ、結がぺこり、と頭を下げた所で、プレシアがあっ、と何かを思いついた表情で口を開く。
「そうだ! ねえ、結も魔法少女になろうよ?」
「……ええっ!? わ、私も!?
 そ、そんな急に言われたって……」
「大丈夫だよ、結ならきっと魔法少女として頑張れるよ!」
 純粋な言葉と視線を向けられて、結は何と答えればいいか迷ってしまう。それを見透かしたように豊美ちゃんが、助け舟を出す。
「プレシアさん、結さんの気持ちを大切にしてあげて下さい。
 結さん、もし結さんが魔法少女として頑張ろうと思うようになったら、いつでも私を訪ねてきてくださいー」
「あ、は、はい……」
 一礼して立ち去る豊美ちゃんの背中を見送って、結は自分の心に向き合う――。

「今日は、『豊浦宮』主催のイベントがあるのか……」
 朝、イベントの情報を目にした榊 朝斗(さかき・あさと)は一つの懸念、いや、確信を抱く。
(この事はきっと、ルシェンの耳に入っているはず。そうなれば僕はまたあさにゃんに……)
 かつてルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)の企みで『魔法少女マジカルメイド☆あさにゃん』にさせられた過去が蘇る。それが原因か、最近では『ネコ耳メイドあさにゃん』としてあちこちで活動させられ、しかもそれが有明になりつつあることが悩みの種にもなっていた。
(僕は、運命から逃れる! 今の内に逃げれば――)

「朝斗、さあ、変身よ!」

 朝斗が行動を起こす前に、どこからか飛び込んできたルシェンが『スカーレッド・マテリア』を握らせてしまう。
「ちょ、ルシェン、やめ――」
 抵抗する間もなく、朝斗は杖の力で『魔法少女マジカルメイド☆あさにゃん』に変身させられる。
「今日は豊浦宮でイベントを行うと聞いたわ。そうと知ればあさにゃんの出番よ!」
 既にビデオカメラを装備したルシェンの前で、朝斗は運命から逃れられなかったことに落胆する。
「またやられた……やっぱり、逃げられない運命なのか。
 ……だったら、いっその事楽しんでしまうしかない! ルシェン、今回はここで終わらないよ! 君も道連れだぁ!」

 その声と共にアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)が現れ、ルシェンを後ろからワイヤークローで拘束してしまう。
「え、何!? ちょっとアイビス、離しなさい!」
「いえ、離しません。ちょうどいい機会です、以前に朝斗と佐那で話に上がった事をやるべきですね。
 ルシェン、今日はあなたも『魔法少女』になりましょう」

 佐那、という言葉をルシェンが訝しがった所で、当の本人である富永 佐那(とみなが・さな)がルシェンの目の前に現れる。それだけでも驚きだが、さらに驚くべきは佐那も朝斗同様の衣装(青を基調とした、ヘソ出しの上半身にスリットの入ったロングスカート……というよりは布を巻きつけたように一部分が足元まで開かれ、そこから太腿が覗く扇情的な衣装)に身を包んだ挙句、何やら派手な衣装をその手に持っていたことである。
「こんなの絶対おかしいよという顔をしていますね? おかしくないです! ルシェンさん程の逸材が魔法少女にならないなんて駄目駄目です! それこそおかしいです!
 というわけで、みんなで魔法少女になりましょう♪」
「えっ、あっ、ちょ、やめ――」

「うぅ、まさかこんなことになるなんて思いもしなかったわ……」
「ある意味自業自得ですよ、ルシェン。諦めてステージに立ちましょう。
 豊美さんにもお声がけしておきましたので。無事、認定されるといいですね」
 万事抜かりないアイビスを恨めしく見つめ、ルシェンは恐る恐る、ステージに立つ。
 ――瞬間、ルシェンの身体を無数の視線が貫いた。佐那の言う通り、ルシェンはただ普通にしていても人の目を惹きつけるだけの魅力がある。それがメイクを施し、衣装に身を包めばどうなるか、火を見るよりも明らかだった。
「あ、ああ……」
 そしてルシェンはというと、無数の視線に貫かれたことで『目覚めた』。朝斗があさにゃんとして覚醒したのは杖の力もあるが、どこかにそうなるべき要素があったとも言える。同様にルシェンにも、奥深くにはそういった要素があったのだ。

「魔法少女ダークローズ★ルシェン!! この私に酔いしれなさい!」

 魔法少女な名乗りを上げると同時、照明がバッ、と煌きルシェンを照らす。
「……ふふふ、いいわ、見せてあげようじゃない」
 もはや完全に自らを『解き放った』ルシェンはマイクを握り締め、観客に向けて高らかに宣言する。
「私の歌声をきけーーー!!」

「……うわ、なんだか想像以上にハマり役?」
「……そのようですね。朝斗の前座としての登場だったはずですが、あれでは真打ちですね」
 ルシェンの振る舞いを舞台袖から見ていた朝斗とアイビスが、検討の末この場はルシェン一人に任せてしまおうと決める。あれなら十分、豊美ちゃんもルシェンを魔法少女として認めるだろうと確信を抱きながら。

 ちなみにこれは余談だが、ルシェンはこの後しばらくの間、魔法少女としてステージに立ったことを思い出しては、部屋に閉じこもる日々が続いたそうだ。
「うぅぅ……なんで私、あんなことをしてしまったの……」