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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 『私、お母さんになりますー』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 『私、お母さんになりますー』

リアクション



「みんなー! 今日はいっぱい、いーっぱい、楽しもうねー!」

 その頃特設ステージの方では、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)のステージが開始されようとしていた。氷雪の精霊らしくステージを氷一面で覆い、どこかフィギュアスケートを彷彿とさせる衣装で現れたノーンが、マイクを手に歌声を響かせる。

 幸せのリズムに乗って
 溢れ出るハッピーオーラ
 自然に体が動き出す
 レッツダンス! レッツシング!


 常人ならば普通に歩くのも難しいであろう氷の床を、ノーンは苦もなくステップを踏む。その立ち振る舞いはさながら氷上のダンス。
 そして、歌声と共に見惚れる観客を、次の瞬間あっと驚く仕掛けが襲う。

 イヤなことなんて吹き飛ばす幸せの爆弾
 エクスプロージョン!!


 ノーンがマイクを高々と掲げた直後、爆弾が爆発するかのように周囲の氷が弾け、無数の欠片が照明を反射して煌く。突然の出来事に驚きつつも、観客は氷と光が作り出す幻想的な光景にしばし、目を奪われる。

「これからが本番、みんな、ついてきてねー!」

 声が響き、マイクからインカムに装備を変えたノーンが、今度は動きやすい格好にチェンジしてのステージを披露する。アップテンポなナンバーに観客のボルテージは引き上げられ、ステージは声援に包み込まれる。中には立ち上がり、一緒にステップを踏み出す者まで現れ始めた。
(あはは、楽しいよ、おにーちゃん!
 環菜おねーちゃんと一緒に来れればよかったのにね))
 満面の笑みを浮かべるノーン、その頃、パートナーである御神楽 陽太(みかぐら・ようた)はというと、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)と共にパラミタ横断鉄道実現という目的のため、今日も仕事に取り組んでいた。彼にとってはいわゆる休日出勤もなんのその、のようだ。

 興奮冷めやらぬステージに、秋月 葵(あきづき・あおい)魔装書 アル・アジフ(まそうしょ・あるあじふ)が立つ。
「あわわ。た、たくさんの人がこっち見てますぅ」
「ほんとだ、すごいねー……って、ほらアル、隠れないの。
 豊美ちゃんに正式に魔法少女として認めてもらったんでしょ?」

 ――それは、イベントが始まる少し前のこと。
「お願いしますですぅ。アルを、正式に魔法少女として認めてほしいですぅ」
「あたしからもお願いしますっ!」
 ぺこり、と下げられる二つの頭。そこに降る豊美ちゃんの、柔らかな声。
「はい、いいですよー。認定しますー」
「ホントに!? よかったね、アルちゃん!」
「は、はいですぅ。これでアルも、見習い卒業なのです!」

「そ、そうでしたぁ。アルは今日から一人前の魔法少女……が、がんばるのですぅ」
 ぐっ、と拳を握りしめ、アルが葵の背中から一歩、前に進み出る。おっかなびっくりといった様子だが、それでも以前のアルからすれば大躍進だ。
「そうそう、その調子。……それじゃ、行くよ?」
 葵の言葉にアルがこくり、と頷き、そして二人の姿は光に包まれる。暗がりから放たれる光に観客が目を逸らすその間に変身を終え、照明をバックに名乗りを上げる。
「絢爛登場! 突撃魔法少女リリカルあおい!」
「いつでもおそばにまほうしょうじょ……魔法少女インフィニティ☆アル」

 葵が青のコスチューム、アルがピンクの葵と同じのコスチュームに身を包み、ポーズを決めると、観客から歓声が飛ぶ。
「いっくよぉ〜みんな〜! あたしの歌を聞けぇ☆」
「き、聞いてくださいですぅ!」


 蒼い空に煌く
 シューティングスター☆彡
 夢に向かって真っ直ぐ往くよ
 
 たとえどんなに辛くても
 諦めなければ、きっと乗り越えられるよ
 真っ直ぐな君の夢に向かって
 蒼い空に煌く
 シューティングスター☆彡
 夢に向かって
 シューティングスター☆彡


 光の精霊と魔法による光のステージは、先程のステージに負けず劣らずといった様子。氷の魔法に光を施し、観客に向けて放つサービスまでやってのける。
「どう、アル? 初めての魔法少女としての活動は」
「えぇと……ちょっと恥ずかしいけど、怖いよりはマシですぅ。
 ……それと、ちょっと、楽しいかも、ですぅ」
 
 二人の歌が終わるまで、ステージは歓声に包まれ続けた――。

「……この前話した『戦いのための戦い』をしてはいけないというのは、つまり、本当の目的、例えば校長を守りたいなどを忘れて『戦いに勝つために戦う』状態に陥ってはいけないということかな。
 これは他の物事にも言えるが、目先の事の解決に集中し過ぎると、それに気を取られて何故そうしようと思ったか、何故それが必要なのかといった本質を見失ってしまうことはよくあるんだ」
「え、えーと……目の前のことに一生懸命になることが、ダメなこともある、ということですか?」
 アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)の話を、ミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)が懸命に理解しようとするも、今回の話はなかなかに難しいらしくうーん、と首を傾げていた。『我を忘れて戦いに行ってはならない』はまだ理解出来ても、これをしよう、と思ったことに一生懸命になることで生じる害について理解するのは、一生懸命やる事自体がよくないことと思えてしまうからであった。
「あー、それわかるわー。目的と手段の逆転ってやつやなー」
「ね、ネラ、お父さんの話が分かったというのか? 私には難しかったが……」
 ふっふっふ、と言いたげにネラが言い、隣にいたヴィオラが驚いた様子で続きを促す。
「つまりな、うちらが一つ、これをしよう、と目的を決めたとする。でな、目的を達成するためにじゃあこれが必要だ、と手段を選んだとする。
 でもな、選んだ手段はたくさんあるうちの一つに過ぎん。ちびねーさんのよく言う『お母さんを守る』ったって、手段は色々あるやろ?」
「はい」
 こくり、とミーミルが頷くのを確認して、ネラが続ける。
「選んだ手段に一生懸命になり過ぎるとな、「これを達成すれば目的も達成されるんだ」と思ってしまうんや。ま、そうなることもあるけど、そうならないこともある。
 一生懸命やることはええこと。けど、手段は一つだけじゃない。そん時そん時で何をするべきか、いつも考えることが大切っちゅうわけやな」
 どや? とネラがミーミルを見ると、なおもよく分かってない表情をしていた。隣でヴィオラも同じようにしている。
「……さ、難しい話はここまでだ。おそらくこれから三人とも、そういった事態に遭遇することになるだろう。その時は深呼吸でもして今日の事を思い返してくれ」
 アルツールが話を切り替えさせる。大事なのは今した話を理解することではなく、こういう話をしてくれる人がいて、その話について意見を交わし合える仲間がいること。その点を二つとも満たしているこの子達は、心配しなくとも時間が解決してくれる。
「折角来たのだから、好きなものを選んできなさい。お父さんは先に行っている。場所は分かるね?」
 お小遣いを渡して、アルツールが三人に微笑む。
「はい、大丈夫です! 私たち、魔法少女ですから」
 根拠の無い自信、だが不思議と納得できることにアルツールは苦笑しつつ、ミーミルたちと別れて先に場所取りをしているはずの司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)の元へ向かう。
……謎は全て解けたッ!
 キーワードは『魔法少女』と『なんだか懐かしい感じのする声が聞こえる』……賢明な諸君らは、この二つに当て嵌まる人物に心当たりがある筈ッ!
 そう……具体的に言えば――ってこら、我を無視するな、無視するなというに」
 途中、何やら喚いているソロモン著 『レメゲトン』(そろもんちょ・れめげとん)を全力で無視して、アルツールは仲達の姿を探す。
「おう、こっちこっち」
 手招きする仲達の隣に、アルツールが腰を下ろす。仲達の周りにはいくつかの食べ物が置かれていた。
「いやしかし、こういう機会が巡ってきて良かったのー。あの騒ぎからして、当分はアルツール君も家族サービスなどできんと思っとったが」
「ええ、私もそう思っていました」
 同意の頷きを返すアルツール。『あの騒ぎ』とはイルミンスール、さらには隣国のカナンを巻き込んで展開された『ザナドゥ魔戦記』のことである。
「お嬢ちゃん達も無事で何よりだ。……ところで、アーデルハイト殿がボンキュッボンになったとこの前聞いたんだが……」
「……先生、まさか酔ってはいらっしゃいませんよね?
 アーデルハイト様でしたら、確か元の姿に戻られたはずですが」
 ……実際は、二つの姿を時と場合で使い分けているのだが、そのことをアルツールは知らない。
「なん……だと……!? くっ……神は死んだッ」
 がっくり、とうなだれる仲達を見、やはり酔っているのではと心配になりつつも、アルツールは今日という日を迎えられたことを素直に喜ぶのであった。