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パラミタ百物語 肆

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第玖拾話 幻聴

 
 
「さっ、ワタシの番ね♪」
 シオン・エヴァンジェリウスがちょっと嬉々として笹野朔夜と入れ替わって前に出る。
「コレはあくまで噂。
 ……幻聴に悩まされ続けたある男の話なんだけどね。
 ソレは、突然聞こえるようになったって聞いてるわ……。
 最初は人ごみの中だったから、気のせいかと思ったんだって……。
 でもね……、そうじゃなかったのよ……。
 次の日も、その次の日も、幻聴は聞こえてきたらしいわ。
 しかも日を追うごとに、幻聴の間隔が短くなっていって……。
 それから……、ハイおしまい♪
 ……えっ、続き? ……さぁ? 入院でもして助かったんじゃない?
 ……ホント……あの子、あの後どうなったのかしら?
 ちょっとした悪戯だったんだけどね……」
 ちょっと悪戯っぽく笑うと、シオン・エヴァンジェリウスが蝋燭を吹き消した。
 ふっという息の音が、なぜか、そこかしこから聞こえた気がする。
「なんだか、デジャヴュ。他人の話のような気がしないです」
 月詠司が、人ごとではないと言う顔でつぶやく。まさに人ごとではないのだが、人ならざる者たちの声というのは、風や、草木の心の声のような物なのだろうか。
 ――しくしくしく……。
「何か、聞こえたですー!」
 啜り泣くような声を聞いた気がして、ツァルト・ブルーメが飛びあがって驚いた。
 その驚く姿に、びっくりした悠久ノカナタが時間差で飛びあがる。
「ははは、まさに幻聴……ひー!」
 悠久ノカナタが聞き間違いだと決めつけようとしたとき、屋根のあたりから何か獣のような声や低く唸るような声が聞こえてきた。
 何のことはない、外に繋がれている参加者たちの乗り物やペットたちの鳴き声のはずなのだが、一斉に吠えたてるそれらの声は混ざり合って、何か言葉のような物へと変化していた。あるいは、本当に、何かの言葉が混ざってしまっていたのかもしれない。
「うらめしや〜」
「きやっ。ツバメちゃんったら、突然起きたと思ったら、何を言いだすんですぅ。それとも、寝言ですかあ?」
 膝の上で寝ていたはずの新風燕馬が、突然変な言葉を口走ったので、フィーア・レーヴェンツァーンがぎょっとして聞き返した。
「寝言ではありません。ぬいぐるみは、勝手に増えるんです。だから、ぬいぐるみは産児制限をしなくてはいけません。ですから、少し前の怪談は、それこそ幻聴なんです」
 新風燕馬(笹野桜)が、よく分からない理論で力説した。
 新風燕馬が眠りこけていたのをいいことに、笹野桜がすかさず憑依したのだ。
「燕馬殿、いくら巫女の格好をしているからといって、女言葉まで使わずともいいのじゃぞ」
「燕馬? ツバメ? 何のことです。私は、……こほん。ええと、いつも通りですよ」
 別にわざと女言葉を話しているのではないと、新風燕馬(笹野桜)が力説した。とはいえ、いつも依代としている笹野朔夜の口調は笹野桜とほとんど同じなので違いなど出ないのだが、新風燕馬とは大違いだった。
「まさか、そこにいるのは、燕馬ちゃんによく似た別の人なの?」
 ローザ・シェーントイフェルが、怪訝そうな顔で新風燕馬の顔をのぞき込んだ。
「そ、そんなことないですよ。ああ、ちょっと、用事を思い出しました」
 そう言うと、新風燕馬(笹野桜)は、そそくさとパートナーたちのそばを離れていった。
「この身体、ちょっと面白いですね。いたいた。よくも、私のことをネタにしてくれましたね」
 笹野朔夜を見つけた新風燕馬(笹野桜)が、依代としている新風燕馬の力であるその身を蝕む妄執を笹野朔夜へと放った。
『僕と契約して、ぬいぐるみを作ってよ』
「な、なんです!?」
 突然目の前にぬいぐるみ妖精が現れたと感じて、笹野朔夜が戸惑った。そういえば、さっきから会場内を何かぬいぐるみのような物が徘徊していたような気もするが……。
 そう思ったとたん、ブルンと身震いした笹野朔夜の周囲に、次々と同じ姿のぬいぐるみ妖精たちが集まってきた。
『ねえ、僕と契約して少女趣味になってよ』
『酷いなあ、君が捨てた着ぐるみが、今の君の本体なんだよ。さあ、早く拾ってきて、ゆる族になろうよ』
『笹野朔夜、君はぬいぐるみ囲まれて何を願う?』
「うわあああ、なんですかあ、これはあ!」
 無数のぬいぐるみに群がられて、自分自身もぬいぐるみに変貌していくという悪夢を見せられ、笹野朔夜が悲鳴をあげた。
「ああああ、やっぱり、何かいる、何かいるう!」
 その叫びを聞いた悠久ノカナタが、両手で頭をかかえながら銀髪を乱れさせてあおむけに倒れた。