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パラミタ百物語 肆

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第玖拾弐話 開かずの通路

 
 
「次は、私の番ですね」
 ソア・ウェンボリスがクリスマスツリー型のキャンドルを持って、前に進み出た。
「ほら、カナタもよく聞いとけよ。御主人の話は、それは恐ろしいぜ……」
 悠久ノカナタの肩を両手でしっかりとつかんで逃げられないようにしながら、雪国ベアが凄んだ。
「は、ははは……。ソアの話など、こ、怖いことなと、あるはずがないであろう……」
 引きつりながらも、悠久ノカナタが虚勢をはってみせる。
「実は、イルミンスールの学校内には『開かずの通路』があるという噂なんです。
 詳しい話は私も知らなかったのですが……。
 ある日、パートナーたちと一緒に、学校内で怪談情報を調査をしたときがあったんです。
 そのときは『開かずの通路』のことはすっかり忘れてて、興味のあった七不思議についてだけ調べていました。
 それで、聞き込みをしたりしてたものの、なかなか情報が集まらず途方にくれていたのですが……。
 ふと、気づくと。
 見たこともない通路に自分たちがいることに気づいたんです。
 いけない、迷子になってしまった。
 最初はその程度にしか思いませんでした。
 その直後に、パートナーの一人がつぶやいたんです。
 「まさか、これが『開かずの通路』なんじゃ……」
 そのときになって、ようやく私は『開かずの通路』の話を思い出しました。
 そういえば、さっきから歩けども歩けども知らない道。
 いっこうに知っている場所へ辿り着けません……。
 私たちは、開かずの通路に閉じ込められてしまったのでしょうか……?
 心底不安になった私たちは叫びました。
 『誰か助けて!』
 そして……。
 気がつけば、見知った場所へ帰ってきていました。
 どうやってあの通路から抜け出したのか?
 なぜか、まるで覚えていないんです……」
 ソア・ウェンボリスが、ふっとキャンドルを消した。
 広間が暗くなる。
「ははははは……、それは、ソアたちが迷子になったときの実話ではないか」
 無理矢理、悠久ノカナタが笑い飛ばした。
「あれはだな、日々成長する世界樹によって、今まであった通路がふさがれてしまうだけではないか」
 乾いた笑いをあげる悠久ノカナタだったが、それはそれで充分恐怖だと分かっているのだろうかと雪国ベアが怪訝な顔をした。運悪くふさがれる地点にいたりしたらぺっしゃんこだ。
「実はな、開かずの通路以外にも、開かずの学生寮なんかもあってな……。夜寝てる間に、世界樹の成長の影響で寮室から出られなくなった奴がいて……。後日、壁を壊して救出に入った人が見ると、中には誰もおらず、壁にびっしりと『助けて』の文字が……」
 これ見よがしに、雪国ベアが悠久ノカナタの耳許でささやいた。
「き、聞こえない。わらわは何も聞いてはおらぬぞ」
 あからさまに耳を両手で押さえながら、悠久ノカナタが雪国ベアに言い返した。
 もっとも、よほどのことがない限り、ゆっくりとふさがってはいくのだろうが。その証拠に、目の前で誰かが押し潰されたという話は、幸いにしてまだ聞いたことがない。まあ、雪国ベアたちが入学する前のことまでは分からないわけだが。
「世界樹の成長か。あれには実は秘密が……。まあ、それは、また後で……」
 ころころと表情を変える悠久ノカナタをじっと見つめて、緋桜ケイがつぶやいた。
「みんなー、面白かったー?」
 そこへ、ソア・ウェンボリスが戻ってきた。
 耳を塞いでイヤイヤをする悠久ノカナタのそばで、雪国ベアは何やらぶつぶつつぶやくのに忙しそうだ。
「お疲れ様」
 代わりに、緋桜ケイがソア・ウェンボリスをねぎらった。
「そういえば、私のぬいぐるみ妖精さんはどこですか? いつの間にか姿が見えなくなっちゃったんですけれど」
 ソア・ウェンボリスが、周囲を見回して訊ねた。
 少し離れた所で、笹野朔夜が新風燕馬(笹野桜)の前でゴロゴロ転げ回りながら「少女趣味は断固断る!」と騒いでいるが、あれは多分別件だろう。関わらない方がよさそうだ。