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メアービー狂想曲

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メアービー狂想曲

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大団円?!


 さて、ところ変わって更衣室。熾月 瑛菜(しづき・えいな)泉 美緒(いずみ・みお)を前に悩んでいた。微笑を浮かべ、上体を後方に少しひねったままの美緒は、さながら何かの彫刻のように美しいが、体をひねって立ったままというのはなんだかきつそうだ。とはいえ瑛菜一人の力では、美緒をどこかに連れ出すこともできない。

「美緒、ちょっと待っててね。毛布もらってくる」
「……はい」

急ぎ足で更衣室を出て行く瑛菜に、笑顔のまま美緒は不安げな声で返事をした。動けない上半裸である。その状況で一人、というのは不安が大きい。瑛菜が出て行ってすぐ、奥まったシャワーブースから滑り出てきた人影があった。絹谷 姫百合(きぬたに・ひめゆり)である。

「毛布一枚の動けない美緒お姉様を好き放題できる機会…見逃すことはできませんの!」

不埒な熱い思いを宿し、すべるように美緒に近づく。

「美緒お姉様は、私がお助けします……!
 ここだと、美緒お姉様のその女神のようで淫魔のような美しいお姿が、入ってすぐ目に付いてしまいますね」

姫百合はその馬鹿力で美緒を抱えて、更衣室の片隅に運んだ。まとわりつくような目線で、バスタオル一枚の美緒の裸身を眺める。それから乾いたタオルを取り出し、美緒の髪を丁寧にに拭う。だがその手つきに美緒は嫌な予感を覚えた。

「あのう……、それよりなにか、体を覆えるものがほしいのですけれど……」

姫百合は聞いてはいない。両腕を美緒の背中から巻きつけてくる。

「ああ……今日は美しい笑顔を向けて下さって感激です!」
「あ、あの、えっと……これは毒のせいで……」

 更衣室を出てまもなく、瑛菜は駆けつけてきたルカルカ・ルー(るかるか・るー)に捕まった。ルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)も一緒だ。ルカルカが瑛菜に向かい、叫ぶように言った。

「涼司からの携帯で知ったわ。美緒が心配ですぐ駆けつけたの。
 ダリルなら解毒薬をいち早く手に入れることもできるしと思ってね」
「俺ならもし体調の変化とかあってもすぐ対処できますしね」

ダリルがあとをついで言う。

「ハチを生け捕りにしなきゃなのでしょう? ダリルとルカですぐ必要なハチを捕まえてくるわ。
 アコはその間、美緒をお願いね。いろいろ巻き込まれやすい体質だから、万全を期さないと!」
「うん、任せて!」

ルカ・アコーディングことアコが頷く。瑛菜がほっとため息をついて言った。

「ああ、良かった! 
 美緒が立ったままで動けないから、奥のほうに横にならせたいんだけど、私一人じゃ運べなくて……」
「かわいそうに……。すぐ行きましょう」
「あ、その前に毛布を持って行きたいな。刺されたのがシャワーの直後だし……」
「了解!」

アコと瑛菜はすぐさま毛布調達に走った。ルカルカとダリルはすぐにハチの捜索にかかった。

「とりあえず美緒が冷えて風邪を引いてもいけないから……。
 解毒剤は美緒の分と、もし他にシャワーブースなんかで刺されてる人がいるかもだし、まず数人分だけ確保しましょう。
 ダリル、何匹くらい確保したらいいかしら?」
「聞いたハチのサイズだと2匹もいれば十分なんじゃないかと思う」
「2匹ね」

さほど探し回るまでもなく、メアービー数匹が廊下を飛び回っているのが見つかった。ルカルカはイナンナの加護とゴッドスピードで防御体制を整え、念のためキノコマンの確認もした。

「自分が刺されては意味がないからね」

万全の防御体制を整え、ルカルカが芭蕉扇の風でメアービーを舞い上げ、バランスを崩させる。そこにすかさずダリルがサンダークラップを見舞う。メアービーが感電して床に落ちたところを、ルカルカが念のため氷術で凍らせ、容器にしまった。

「解毒剤を頼むわ! ルカは先に更衣室に行ってるね」
「了解、薬が手に入り次第、すぐ戻ってくる」

ダリルはハチの入った容器を文字通り引っつかみ、近場の窓から三倍速箒で一路空京大の研究室へと向かった。

 運動不足解消にと空京スポーツリゾートに来ていた如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は、運動後のんびりとテラスでジュースを飲んでいたとき、蒼空学園からの携帯メールの着信に気づいた。

「……なになに? メアービーの捕獲命令?
 ……蒼学。 ……相変わらずぶっ飛んでいるな、おい」

ふと辺りを見回すと、ところどころに笑顔で妙な格好で固まっている人が散見される。

(まあ、あれだ。攻撃されたと判断しなきゃ襲われないとのことだからまずは落ち着いて動こう。
 遊びに来たんだけどなぁ……。まあいいや。捕獲の手伝いでもするか)

と、何か顔の辺りに何かが音を立てて飛んできて、正吾は反射的にそれを叩いて弾き飛ばした。

「……って、これメアービーじゃないか?
 ヤバい……! これって俺攻撃対象になったんじゃないのか?」

弾き飛ばしたメアービーが、吹っ飛んだ先には別のメアービーが固まっていた。当然その群れに向かって正吾が何かを投げつけたことになる。

「ヤベ!! 1匹かと思ったら複数いるのかっ!?
 ……逃げよう、こんな所で刺されたら絶対にヤバい」

あたふたと走り出す正吾。怒りのこもった(ように聞こえる)羽音とともに、メアービーたちが正吾の後を追い始めた。必死で走る正吾は、もはや施設内のどこを走っているかも見当がついていない。もう、聞こえるのはヤバさ全開のハチたちの羽音だけである。なりふり構わず手当たり次第にドアを乱暴に開け、部屋があれば通過する。乱暴なドアの開閉に、そばにいたハチが巻き込まれ、怒りのハチの群れは次第に数を増していく。正吾はチラリと振り返って、追いかけてくるハチの数にひるんだ。

「ちょっと!? なんか逃げてる間にメアービー増えてきてないか?
  この数に刺されたら流石に命の危険性も若干気になるんだが!?
 ええい、もう鍵がかかってようがなにがあろうが潰してでも突っ走るぞ!!」


 瑛菜とアコは、毛布を3枚ほど確保し、更衣室のドアを開けた。更衣室の奥に彫像のように笑顔で固まった美緒、背後から姫百合が美緒に抱きつこうとしている。

「何も心配いりません……お姉様の冷えた体を温めるだけです。
 私はいつまでも美緒お姉様だけを見ております……決して移り気などしません」

そう言いながら姫百合は美緒の首に息を吹きかけ、耳たぶを軽く噛んで、姫百合は美緒の背中に自分の胸を押しつけるようにして抱きついた。美緒が悲鳴に近い声で言う。

「あの……やめてください!」

姫百合は聞いちゃいない。

「怖がらないで……お姉様の鼓動も聞かせて下さい」

そしておもむろに美緒のバスタオルを剥ぎ取ろうとした。

「ちょっと! 待ちなさいっ!」

アコが鋭い制止の声をかける。姫百合がこちらを向いた。

「動けない裸を他人に見られたいと美緒が思ってると思う?」

ルカが重ねて言い、姫百合を美緒から引っぺがした。むくれる姫百合。アコは瑛菜と室内のベンチを並べ、借りてきた毛布を出して敷き、固まった美緒をそっと横にした。上からそっと毛布をかけてやる。

「少しはこの方が楽かもと思う。風邪引くといけないし。
 すぐ薬も来るよ」
「あ、ありがとうございます!」

声をかけたアコに返事した美緒の声には、あふれんばかりの、いろんな感謝の意がこもっていた。アコは間一髪(?)だったことをルカルカにテレパシーで伝え、すぐ行く! というルカルカの思念を受け取った。

 突如更衣室の扉がバーンと音を立てて開き、正吾が駆け込んできた。呆然とする4人。

「あれ? なんで美緒が目の前に!?
 って……、ごめん、止まれない避けてー!」

絶叫とともに正吾がこちらに突っ込んでくる。背後には十数匹はいるであろうメアービーの群れ。

「きゃあああああ!!」
「えええええええ!!!」

狭い更衣室に絶叫がこだまする。そこへルカルカが鬼のような形相で突っ込んできて、ハチの群れに氷術を見舞う。笑顔で転んだ格好のままの正吾は、メアービーもろとも氷漬けになった。

「ああ……。お姉様の胸をガッチリ掴んだままメアービーに刺されれば鎧になれたのに……」

姫百合が奥のほうでぶつぶつつぶやいている。

「美緒! 大丈夫?」

ルカルカは駆け寄って美緒を抱きしめた。そこへダリルが到着し、礼儀正しく壊れたドアの脇をそっぽを向いてノックする。アコがダリルを連れて美緒の元へ。ダリルが手早く美緒に解毒剤を注射し、ぬかりなくバイタルチェックを行う。命のうねりをかけ、美緒に言う。

「気分はどうだ」
「あ、ありがとうございます、もう大丈夫です!」

ルカルカが美緒に抱きついて泣き笑いしながら言った。ようやく動けるようになり、美緒は心底ほっとしていた。

「あ、涼司に解決の電話しなきゃ……」
「もう、当人がここに向かってるそうだ」

瑛菜がにっこりして言った。

「良かった良かった。大事無くおさまったね」



            ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 かくして無事すべてのメアービーが捕獲完了し、速やかに解毒剤が生成された。施設内部の捜索がくまなくなされ、薬はすべてのエリアに散らばった被害者たちに投与されたのであった。

「一件落着、だな、……俺の出る幕は無かったが」

スポーツリゾートの管理人の感謝の言葉の洪水の合間に、山葉がつぶやいた。

この日、たまたま被害にあった利用者たちが、無理な姿勢で1時間以上過ごすことを余儀なくされたにもかかわらず、筋肉痛にもならず、それどころか解毒後すっかり体が軽くなっていたことが、後の調査で判明した。このプロトタイプのメアービーの毒に凝りをほぐす強力な効果が見られ、試験的にメアービー・プロトタイプによる凝り治療研究が始められたという。
また、事件のきっかけとなった研究員も、事態は不幸な事故として認められ、咎を受けることは無かった。

 また、この日捕獲に協力したメンバーには、空京スポーツリゾートより一年間施設の無料使用パスポートが贈られたという。

担当マスターより

▼担当マスター

鷺沼 聖子

▼マスターコメント

 こんにちは、鷺沼聖子です。今年はなんだかいつまでも寒いですね。ときならぬ大雪が降ったり、気温の上下も激しいですし、どうぞ皆様お体にはお気をつけください。

今回のリアクションですが、皆さん捕獲方法もいろいろ、また、刺されるのを楽しんだ方々も、いろいろ面白いアイデアがいっぱいで、楽しく拝見させていただきました。

リアルで良く刺される事故のあるスズメバチなどですが、襲ってきたとき、やはり手を振ったりするのは攻撃とみなされ、さらに襲ってきますので、姿勢を低くして速やかにハチの来るほうと反対方向へ逃げるのがよいですよ。
 
またよろしかったら、私のシナリオにご参加いただけますと幸いです。