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3.最初で最後の晩餐
――食堂車


 食堂車はビュッフェスタイル。
 つまるところバイキング。食べ放題だ。本来の立食のという意味ではない。
 あわせて、シェフがその場で料理を作ってくれる。頼めばコース料理もだ。
 白いクロスの上には銀食器が並び、キャンドルのオレンジ光に照らされていた。
 清泉 北都(いずみ・ほくと)のテーブルでは食べ終えた後の皿と、香り高いコーヒーの注がれたマイセンカップ。そしてケーキ。
 食後のデザートに舌鼓をしながら、リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)に《超感覚》で生えた犬耳を後ろからもふもふされていた。
「やめてくれないかなぁ……」
 北都は恥ずかしそうに顔を赤くした。女性の視線が「ごちそうです」とこっちを見ている。鋭敏化した聴力で彼女たちの小声話の内容がしれて余計に恥ずかしかった。
「本当うまいなここの料理」
 と、緋王 輝夜(ひおう・かぐや)
「全くです! 食欲が進んで仕方、……ない……!」
 ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)もその美味しさに皿ごと平らげる。
「ちょ!? 皿まで食べるな! というか食べ過ぎじゃない?」
 財布のお金が足りるだろうかと輝夜が心配になってくる。食事形式から考えると一定料金制なので、ネームレスがいくら食べても支払いは変わらない。皿の料金以外は。
「姉君が言うなら……仕方ありません……我慢します……お皿は」
 お皿は料理ではありません。なので、ネームレスはお皿に乗った調理済み食材のみを平らげることにした。
「キミ! それ僕のビーフストロガノフ!」
 相席していた魔王 ベリアル(まおう・べりある)の食事まで奪い平らげるネームレスだった。
「……! 大きなタコとか亀もある……! あれは食べていいですか……?」
「聞いてないし!」
 憤慨するベリアルに目もくれず、イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)アイゼン・ヴィントシュトース(あいぜん・う゛ぃんとしゅとーす)を見てネームレスが涎を垂らす。
「自分の部下は食べないでくれませんか……」
葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)はパートナーが食材となる危機を察して断りを入れた
「このタコ差しなかなかである!」
 とイングラハム。自分が同じ目に遭うかもしれないというのに、軟体動物の切り身に舌鼓。
「見て、タコが共食いしてるよ!」
 別の席からその様子を見てセシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)が食卓の話題にする。
「……」
「……」
 しかし、話題に関せず黙々とアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)は食事を進める。
 同じように六連 すばる(むづら・すばる)も。
 彼らの寡黙な態度にセシリアが目線を落とす。
 ヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)が気を利かせ、
「おかしな構図よね、ほんと」
 小声で合いの手を入れる。忍びなかったのからだ。
 セシリアが小声で尋ねる。
「ねぇ、ヴェルレク、パパーイっていつも食事中は喋らないの?」
 パパーイとは父であるアルテッツァのことだろうか?
「そぉねぇ、取り立てて話すことはないわよ。アタシは気にしないけど」
「わたしはこういうの苦手で……ワイワイ言いながら食べてたから」
「わいわい言いながら?」
 セシリアはアルテッツァの未来の娘だという。しかし、レクイエムは疑問に思う。黙して食事をするアルテッツァが娘が生まれたからといって、和気藹々とした食卓を囲むだろうか? そもそもセシリアが未来人というのもおかしな話だと思う。だから訊く。
「アンタ、ゾディの娘っていってたじゃないの」
「……ううん、育ての親は別にいるの、パパーイは……」
 それ以上の言葉は彼女から出なかった。
 レクイエムは肩を落として、寡黙な食卓を再開した。