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Cf205―アリストレイン―

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2.宴の前の宴
――、セレモニー車


「我々の旅と、この列車の新たな出発を祝し乾杯!」
 Cf205の初運転を記念して、このセレモニー用特別車両で運転式が催されていた。
 セレモニーに出席しているのは、鉄道会社関係者並びに富豪層。
 その他に、学園から呼ばれた者たち。
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)はロイヤルガードとして招待されていた。軍服に勲章を着けている。
 式の余興として、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)もまたディーヴァとして喚ばれ、歌声を披露していた。その頭でシーサイド ムーン(しーさいど・むーん)がウィッグとして揺れる。
 鉄道関係者というなら、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)御神楽 舞花(みかぐら・まいか)もそうだ。鉄道会社経営で忙しい御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の代わりにこの高級志向の豪華列車の調査に来ていた。
 何分このようなコンセプションの列車が走ること自体始めてだった。今回はお披露目であるため、異次元空間路線を通り空京と上野を片道二時間ほどで往来するだけであるが、今後は他の路線を回り長時間の列車の旅を楽しむものとなる予定だ。
 披露には一般客にも行うために前方には一般車両も組まれていた。こちらも今後運行する新型車両となっている。
 もっとも、一般客への公開は上野まで、その後の旅ができるのはセレモニーに招待された者か、抽選に当たった者たち――つまり、ここに連なる豪華寝台車両の利用者のみだ。
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)もまた、抽選に当たった運の良い一組だった。ふたりとも上品にドレスを着こなしていた。特にセレアナは元々貴族令嬢のため、いつものレオタード姿よりもりしっくり来ている。
 セレンフィリティも大人しくしているならそれなりに見えるのだが――
「……デュフフ」
 顔がニヤけて、セレアナほどお嬢様には見えなかった。
 この後の食堂車のディナーと夜は恋人との甘美なひと時に思いと言うなの妄想を先走らせているセレンフィリティだった。
「やれやれ……」とセレアナは呆れ気味。
 呆れ気味というなら、ドレス姿で参加している彼もまたそうだった。
新風 燕馬(にいかぜ・えんま)だ。
「ぶっちゃけ何? その似合いまくりな女装」
 とローザ・シェーントイフェル(ろーざ・しぇーんといふぇる)が彼の容姿を評した。本人はなかなかに不本意だった。
「仕方ないんだ。名義上俺は女医なんだから……」
 実家の事情があり、燕馬は女医『輝新燕馬』としてここに参加している。脛に傷持つ金持ちと親身になるために。後々金を集るために。フフ……る『アリス』とは、アリサに埋め込まれていた人工的別
「そういえばサツキとフィーアはまだかな?」
 燕馬は寝台から遅れてくるはずのサツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)フィーア・レーヴェンツァーン(ふぃーあ・れーう゛ぇんつぁーん)の二人が思う以上に来ないので少し心配になった。
「大方、フィーアちゃんが食堂車でつまみ食いしてんじゃない?」
 対して、ローザは楽観的だった。
「それもそうか」と燕馬も納得した。
 本当はサツキがセレモニー車両のある方向を間違い、手間取っていただけなのだが。
 優雅なひとときが支配する車両で、本来天真爛漫なノーンは顔に少しだけ不安の影を落としていた。
「ノーン様? 気分がすぐれないのですか?」
 舞花は彼女が乗り物酔いなのかと顔色をうかがう。ノーンが別段蒼白というわけではないと知る。しかし、その眉が歪んでいた。
「そうじゃないんだけど。おにーちゃんからメールが着てて」
 ノーンは陽太からのメールを見せた。


ふろむ:おにーちゃん
とぅー:ワタシ
たいとる:そちらの様子はどうだい?

ないよー:
二人とも列車の調査ははかどっている? それともセレモニーを楽しんでいのかな?
僕と環菜の分まで楽しんできていいけど 内装や備品のチェックもしっかりしておいて
それとだけど トレインジャックに気をつけて
うちの会社もこの前やられたばかりだし
そっちも新台だから 一応注意しておいて
それじゃ 上野に着いたら一度連絡をください

「『トレインジャックに気をつけて』? なんですかこれ?」
 この列車がトレインジャックに襲われるとでも言うのだろうかと、舞花も眉をひそめた。
 しかし、言葉は同じだが、意図するところは違っていた。『トレインジャック』という意味が。
「聞いたこと無い? 電車に現れる殺人鬼『トレインジャック』って」
 鉄道関係者には有名なその殺人鬼の名前をノーンは口にした。