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二人の魔女と機晶姫 第2話~揺れる心と要塞遺跡~

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二人の魔女と機晶姫 第2話~揺れる心と要塞遺跡~

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■信じるものの先に
 ――エントランスホールでは激戦が続いていた。立ち上がった瞬間、『迷彩塗装』で姿を隠したままの水ノ瀬 ナギ(みずのせ・なぎ)がモニカの動きを封じようと《ワイヤークロー》を撃ちこみ、そこへ『ライトニングウェポン』で電撃を流していく。
「ご、ごめんねモニカさん……!」
 どちらかといえば雫澄と同じ説得派なのだが、戦闘になってしまっている以上仕方がない、といったところだろうか。
 動きの抑制、とまではいかなかったが一瞬の隙は生まれた。その隙を狙い、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)の二人が連携攻撃を仕掛けようとする。
「邪魔だっ!」
 だがモニカも隙を縫うようにして唯斗に向けて大槍を振るう。その攻撃を唯斗はあえて喰らい、武器を掴む勢いで動きを止めようとする。『エンデュア』『肉体の完成』など、持てるスキルのすべてを使うほどの気迫だ。
「うぅぅっ……だけど、隙を縫ったところで隙ができればっ!」
 攻撃を受け止めながら、唯斗は《光明剣クラウソナス》をモニカの至近距離で抜き、その輝きで目くらましをさせる。それに合わせ、刹那が『先制攻撃』と『疾風迅雷』に乗せた『ブラインドナイブス』を繰り出していった!
「――盾がっ……!」
 しかしすんでのところで刹那の攻撃をタワーシールドで防ぐ。だが死角からの攻撃はそれだけ急所を狙った研ぎ澄まされたものであり――ひびの入っていたタワーシールドは完全に崩壊し、使い物にならなくなってしまった。
 しかし仕留めそこなったのは確かなこと。刹那は間合いを取っていくが、刹那はこの時『しびれ粉』を撒き、唯斗も零距離当て身を当ててから間合いを取る。当て身自体の攻撃は『ディフェンスシフト』によってその威力を削られてしまったようだ。
「――一気に殲滅させてもらう!」
 これ以上の邪魔立ては許さない――そう雰囲気を出すモニカは『サンダーブラスト』で周囲の契約者たちを蹴散らそうとする。だが……。
「させるかぁっ!!」
 この瞬間を待っていたとばかりに、ビルからビルを自慢の身体能力と《プロミネンストリック》でここまで急いで駆け付けたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)がエントランスホールの窓から一気に飛び降り、モニカを踏みつけようとする!
 上方からの突然の奇襲に思わず身をよじって回避するモニカ。エヴァルトは《プロミネンストリック》で着地の衝撃を抑えながら、すぐにモニカに向かってボディへの攻撃を行う。
 だがその攻撃をモニカはバックステップで回避すると、『ランスバレスト』を使って一気にこの場を突破しようと攻撃を仕掛ける!
「――近づかせはしない!」
 しかし、『ランスバレスト』の突進はリカインの『咆哮』と共に振るわれた《レゾナント・アームズ》と《七神官の盾》による巧みな盾捌きで捌かれていく。突進の体勢を崩されながらも『サンダーブラスト』で一気殲滅を狙おうとするモニカだったが……。
「これ以上、空京で好き勝手はさせぬぞ――はぁぁっ!!」
 『サンダーブラスト』の発動と同時に、空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)が近距離で『ヴォルテックファイア』を放って相殺していく。だが相殺しきれなかったようで、弱まった威力の『サンダーブラスト』が周囲へ飛び散っていく!
「二人を逃がしきるためにも、ここは死守してみせる!」
 ミリアリアたちが避難した方向へ飛んでいく『サンダーブラスト』。それを絶対に防ぐべく、猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)が『スウェー』『歴戦の防御術』、そして《神獣鏡》で魔法を防ぐ!
「勇平よ、ちぃと痛くなるが我慢するのじゃ!」
「おう! やってくれ!」
 さらにそこへ魔導書 『複韻魔書』(まどうしょ・ふくいんましょ)が勇平に向かって全開威力の『凍てつく炎』と『サンダーブラスト』を放つ。勇平はそのダメージを耐えながら、《神獣鏡》で魔力を受け止め……受け止めきったすべての魔力をモニカに向けて反射していった!
「なんだとっ!?」
 思いもよらぬ攻撃にとっさの防御をしようとするモニカ。しかし、そこへ狐樹廊が『物質化・非物質化』していた《ひげめがね》を物質化させ、モニカの顔の前でかけた姿を披露しつつ『メンタルアサルト』で隙を作ろうとする。
「……!?」
 突然の不可思議行動に一瞬の隙を作ってしまうモニカ。狐樹廊は急ぎその場を離れると……勇平がはね返した魔力がモニカへと襲いかかる!
「うあああああっ!!」
 避けきれず、反射魔力が直撃する。膝をつきそうになるモニカの鎧も崩壊し、もはや戦う気力は残されていない……そう思っていた契約者たちだったが、モニカは執念だけで立ち上がっていく。
「失敗は許されないんだ……たとえ命尽きようが、私を助けてくれた主へ恩を返さなければ、姉を……姉を助けられない……!!」
 ……モニカを動かす原動力は、姉を救いたい一心。その魂が燃え上がりながら、モニカは――再び契約者たちと対峙する。鬼気迫るその気迫は、先ほど戦っていた時よりも研ぎ澄まされ、視線が契約者たちを貫いていく――。

 と……そこへ、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)とそのパートナーである馬 超(ば・ちょう)ラブ・リトル(らぶ・りとる)、そして佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)とパートナーの熊谷 直実(くまがや・なおざね)、さらに勇刃とそのパートナーたちがミリアリアを連れてやってきた。
「ミリアリア!? どうして戻ってきたんだ!?」
 避難してもらったはずなのにここへ戻ってきたミリアリアに驚く勇平。ミリアリアはそれに対し、「自分で行きたいと頼んだの……それに、あなたたちを信じてるんだから、大丈夫」と答えていった。
「……ここからは私たちに任せてほしい。――モニカよ、君の気迫は見事なものだ。本当ならば戦士としてお互いの本気をぶつけ合って戦いたいところではあるが……こちらも事情がある。それ故、私は『あまり正当とは言えぬ手段』を使って君と戦いを臨むこととなる。だまし討ちを狙っていること、戦う前に戦士として、非礼を詫びさせてもらいたい……」
 ハーティオンが一歩前に出てモニカへこれからの戦いへの非礼を詫びていく。非常に真面目な戦士気質であるからか、これより行う“手段”に幾分か抵抗はあるのだろう。
(あちゃ〜……だからって仕掛けがあると言ってから戦うとか……ホント馬鹿よねあいつ……)
(仕方ないだろう、それがハーティオンという男だ。弥十郎たちも何か仕掛けるつもりで足止めの協力をするようだが……とにかく私らはミリアリアの護衛を一手に担うぞ)
(だよねぇ……うん、わかった。あたしだってただただ観光してただけじゃないんだから!)
 ハーティオンの馬鹿正直な発言に呆れ気味のラブであったが、そこは馬超に諭される。馬超としても、捕縛が無理となった場合の屠る役割に付いていたが……この様子ならば、護衛だけで終わりそうという予感が走っていた。
 弥十郎と直実もまた、階段の陰に隠れてモニカの姿をその目に焼き付けんとする佐々木 八雲(ささき・やくも)へ視線を少しばかり送る。弥十郎が苦渋の決断として選んだ策……もしかしたら、使わずに済むかもしれない。その予兆を三人は感じていた。
「――改めて、名乗らせてもらおう。我が名は蒼空戦士ハーティオン! 騎士モニカよ、ミリアリアとクルスに手を出すというのであれば、この私が相手となろう!」
「――私の名は騎士モニカ。主より命じられた機晶姫の奪取……および私情にて、姉を騙るその魔女を討ち取らせてもらう!」
 戦士として、そして騎士として。互いに名乗りを上げると――戦闘が再開される。ハーティオンは《ポータラカマスク》を付けると《闘心槍》を構え、長年培った騎士の技量で振るわれるモニカの槍術と真っ向勝負に突入。後方ではラブが『怒りの歌』でハーティオンをサポートしていく。
 それに加え、モニカの動きを『行動予測』で事前にイメージトレーニングしていた弥十郎がモニカの攻撃を『メンタルアサルト』などで大仰に回避しながら《スカイフィッシュ》を纏わりつかせたり、直実が『パスファインダー』で周囲の階段や柱を丘や草むらに見立て、『百戦錬磨』の動きでモニカの死角から奇襲で攻撃を仕掛けすぐに身を隠したりと、周囲からの攻撃を意識させていく。
 これらの波状攻撃を大槍一本と魔法で凌いでいくモニカ。不退転の魂はそのものを強くするのか、鎧と盾を無くした今の状態でも十分に渡り合えているほどだ。
「なんて気合い……健闘くん!」
「任せろっ! でぇあぁぁぁぁぁぁ!!」
 モニカの攻撃を咲夜が《クイーンズシールド》で防ぐ中、攻撃の隙を突いて勇刃が『勇士の剣技』から放つ三日月斬りを繰り出していく。しかしその攻撃もモニカの気迫が生み出す迫真の槍術で弾かれてしまった。
「く、相変わらずの強さだ……」
「――やはりお前たちを全て討ち取らねば、目的を達せそうにないな……ならば!」
 モニカは大槍を振るって攻撃を捌きながら、『ファイアストーム』で周囲を一気に燃やし尽くそうとする。しかし、勇刃がそれを黙って見ていなかった。
「城ごと燃やされてたまるか!」
 すぐさま『恵みの雨』を使って『ファイアストーム』を打ち消そうとする。しかしモニカの魔力のほうが上回り、このままだと消火しきれない……!
「――健闘くん、頑張ってくださいっ!」
 と、そこへ健闘の元へ駆けつけた咲夜が勇刃の頬へ『バレンタインデーキス』をして援護していく。
「おっしゃあ! これなら負ける気がしない!」
 『バレンタインデーキス』の効果で一気に高ぶる勇刃。『恵みの雨』の効果が高まり、『ファイアストーム』の豪炎を消火していく! しかしそれと同時に勇刃に向かってモニカが一閃を仕掛ける!
「しまっ――!」
「させっかぁぁぁぁ!! 喰らえ、俺のカッコいい一撃ぃぃぃぃっ!!」
 だがその攻撃に対しコルフィスが割り込み、『歴戦の防御術』で攻撃を防ぐ。そしてそこからカウンターで『鳳凰の拳』をモニカの腹部へ打ち込む! 後ろのほうでは美空が相変わらず微妙にリアルな歌詞による『怒りの歌』でサポートしており、その威力も増している。
「くそ、――くぅぅ……!」
 『ファイアストーム』を打ち消されたうえに殴り飛ばされたが、すぐにさらなる攻撃を仕掛けようと立ち上がったモニカだったが……ようやくここでハーティオンの仕掛けた『正当といえぬ手段』に気付く。……自身の周辺に、『しびれ粉』が撒かれていたのだ。それに加え、刹那が撒いた分の『しびれ粉』も含まれている。
 それに気づかず、『しびれ粉』を吸い続けた結果、身体に痺れが回り始めてきていたのだ。
(ここが退き際か……いや、ここで退いてしまったら主に恩を返せなくなってしまう……!)
 退却すべきか、攻めるべきか。そう考えているモニカの隙を狙うように、傷を治し終えたカイが姿を現して素早い動きで峰打ちを食らわせていく! 強靭な精神が峰打ちによる気絶は免れたものの、態勢を大きく崩してしまう。
(回避不能な体勢、向き、角度、位置――今ですっ!)
 ――すべての条件は整った。躊躇することなく、真琴の指がトリガーを引く。
 瞬間、体勢を崩したモニカの足へ――超遠距離からによる、『封印解凍』『紅の魔眼』によって集中力を最大限までに高めた真琴の狙撃弾が着弾する。『アルティマ・トゥーレ』によって冷気を帯びたその弾は、たちまち凍結効果により足を凍らせていった!
「つぅ……! ――ここまで、か……」
 足を凍らされたことで退路も失われ、ここまでと愕然するモニカ。がっくりと頭をうな垂れさせ、その負けを認めるのであった……。

「……『呪詛』を使わずに済んで、本当によかった。最後の奥の手として考えていたが、何とかなったようだな」
 モニカを縄などで捕縛している間、八雲は弥十郎と直実と話をしていた。弥十郎が考えた苦肉の策、『呪詛』を使わずに済んで八雲はほっとしている様子である。
「弥十郎の言うとおり、あの騎士はとんでもない強さを持っているようだ。しかし、今のあの騎士には“迷い”が生じているように見えた。それが、今回の結果に繋がったものだと僕は感じている」
 八雲が感じたモニカの心境を呟きながら、弥十郎の肩に手を置く。
「――仲間たちに救われたな。僕としても、お前が目の前で苦しむ様は見たくないもんだ」
 色々と考えていたのだろうか、弥十郎は八雲の言葉に黙りこくったまま、小さく頷いていった――。


 ――モニカがこれ以上襲ってこないという安全性を確保し、クルスの傍についている契約者数組を除いた契約者たちは、モニカから話を聞こうとしていた。
「本当は私とモニカ、二人きりで話したかったけど……みんなも色々と聞きたいことがあるみたいだし、二人きりはあきらめるわ」
「ふん……」
 ミリアリアの言葉に対し、つっけんどんに返すモニカ。その様子を見やりながら、まずはリュースが「この歌を覚えているか?」と、ミリアリアから教わった子守唄を『幸せの歌』
 続けて、エヴァルトが質問をしていく。
「姉は治療中で、その姿を見た……そう言っていたらしいが、その中身は見たのか? もし確認できてないのだとしたら、騙されていると思わなかったのか? 姉妹仲を逆手に取られたと、何故考えない……!?」
「……考えなかったことなんて、ない。だが、主の言葉に嘘偽りはない……そう教えてもらった。もっとも、こうなってしまっては主に顔向けもできないがな……」
 そう言葉にしてつぶやくと、これ以上話すことはない、と口を閉ざすモニカ。続いて、雫澄がモニカへ問いかけていった。
「モニカさん……もう主の元へ戻れないというのなら、僕たちを君の主の元へと連れていってくれないかな? 君も、本当のことを知りたくないか? 君のお姉さんのこと、君が信じていたもののこと……」
「……悪いが、主のことは話せない。私は主に育ててもらった恩がある。だからその恩を裏切るようなことはしたくない。それに……その魔女に加担するお前たちを信用できるものか……!」
 よほど、主に対しての忠義心が埋め込まれているようだ。それ以上のことは全く語らず、モニカは黙りこくってしまった。それを見て、アインとツヴァイがモニカに語りかける。
「――今は“信じない”でいいかもしれません。けど……いつかは必ず真実を知ってしまう。その時に後悔してほしくない……だからこそ、私たちはあなたを助けたいんです」
「何故そこまで頑なに彼女が実の姉である事実を拒絶するのです。――あなたは実の姉が大事なんじゃない。自分が大事で、実の姉のためにおこなってきたことが徒労になったことを……そのために自身が汚した手を認めたくないだけなんだ!」
「……違う!」
「違わなくない! もし違うというのなら、姉のことを信じてみせろ!」
「お姉さんのことだけじゃない、僕たちを信じてほしい、モニカ……!」
 ツヴァイの言葉に続き、雫澄もモニカへ訴えかけていく。その言葉は、モニカの揺れる心へ届いているのだろうか……。
「――そろそろ、私にも話をさせてもらえるとありがたいんだけど」
 ……契約者たちがヒートアップするあまり、ミリアリア自身の言葉で話をすることを忘れてしまっていた。契約者たちはミリアリアに頷くと、いよいよミリアリアとモニカが対峙していく。
 
 だがその時……クエストキャッスルの扉が開かれ、そこから数人ほどの警官服姿の男たちが入ってきた。
「私たちは空京警察の者です。こちらのほうで事件があったと聞いてやってきたのですが……」
 どうやら、この騒ぎを聞きつけてやってきた空京警察のようだ。事情が事情だけに説明するのが難しいのだが、契約者たちはひとまず警察へかいつまんで事情を説明していった。
「――そういうことでしたか。そちらの事情も汲みたいところではあるのですが、私たちとしても空京で起きた事件の犯人をそのまま見逃すわけにもいかないのですよ」
 確かに一介の契約者たちだけではモニカを長期拘束する力はない。となると、警察の力を借りるのも悪くはないだろう。そう考えた契約者たちは、警察の力を信用することにした。さすがにこれでは撤退するモニカを追跡して情報を得ようとした和輝の案も無理そうで、本人も苦虫をかみ砕いたかのような表情を浮かべていた。
「モニカ……」
「……結局、お前を討ち取ることはできなかったな。だが、討ち取れなくてよかった……そう考えている自分も、いる」
 モニカの手首に、手錠が下される。力を使い切ったのか、それとも諦観してしまったのか……暴れることなく警察に御用となってしまったモニカの背を、ミリアリアは悲しげに見つめることしかできなかった……。