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二人の魔女と機晶姫 第2話~揺れる心と要塞遺跡~

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二人の魔女と機晶姫 第2話~揺れる心と要塞遺跡~

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■映画とそれぞれの警戒
 ――リュースの花屋を後にした一行は、次の目的地へと向かって移動していた。心なしか、ミリアリアの緊張も解けてきたようで、クルスや他のみんなとの会話も弾んできているようだ。
「あらあら、なかなか順調のようですわねぇ」
「クルスさんの周囲に怪しい人影はなし。他の護衛担当の人たちも睨みを利かせていますから、大丈夫ですね」
「狙われているっていうのに暢気にデートだなんて、先が思いやられますねまったく」
「……お前ら、楽しそうだな」
 ミリアリアの一団の後方をついていく形で尾行しているのはラグナ アイン(らぐな・あいん)ラグナ ツヴァイ(らぐな・つう゛ぁい)ラグナ・オーランド(らぐな・おーらんど)、そしてその三人の契約者である如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)の計四人。ミリアリア一行から少し離れての護衛に当たっているのだが……傍から見れば、とてつもなく怪しい。
「なんでコソコソしなきゃいけないワケ? それにこの格好は……」
 現在、ラグナ一家(佑也はほぼ巻き添え)は黒のスーツに黒いサングラス、それに加え黒いハットを被った、どこぞの宇宙人監視組織もびっくりな出で立ちである。ミリアリアたちには気づかれないよう行動しているが、すれ違う一般人にはひそひそと噂が立ち始めている。
「……覗きだよな? これって俺が思うに覗きじゃないのか?」
「出歯亀ではありませんわ。これも立派な、れっきとした護衛です。こうやって姿を隠し、こっそりと護衛することでモニカさんの襲撃にもすぐ対応できるように――」
「いや、もっともらしいこと言ってるけど顔がにやけていたら説得力も何も……」
 佑也のツッコミ通り、アインとオーランドの表情は非常に楽しそう(ただしその楽しさの方向性は違う気がするが)だ。ただ一人、ツヴァイは呆れているようではあるが、護衛としての仕事をきっちりこなしていた。
「一歩距離を置くことで見えてくるものがあるのですよ兄者。……あ、ミリアリアさんたちが移動を始めました」
 ツヴァイの言葉を聞き、ラグナ一家と佑也は尾行を再開する。ミリアリアたちの見張りはラグナ一家に任せ、佑也は周囲の警戒に力を入れるのであった。

「展望台楽しかったー! ね、クルス! 次はこっちだよっ!」
 展望台から出てきたミリアリアたち。テテプロデュースによる各所観光案内を繰り広げているのだが……いかんせん、テテの元気爆発・スマイル0Gをむしろ払っちゃうくらいの明るさでクルスを連れまわしている雰囲気だ。
(予想はしてたけど……ここまでとは思わなかったわ。ミリアリアのサポートをする手前、このままじゃいけないわね)
 美影はこの様子を見て、頭を抱えてしまっていた。テテはクルスと仲良くなろうと積極的に行動する、というところまでは読んではいたのだが、このままだとミリアリアとの仲を進展させることが難しくなる。
「ほ、ほらテテ! そろそろ次の映画館に到着するわよ!」
 ここは強引にテテをクルスから引きはがすしかない、と踏んだ美影はテテの行動を口で無理やり行動を阻止。そこへすかさず歌菜がミリアリアとクルスを隣り合わせるというコンビネーション技を見せていた。
「えーと……あ、『超勇者ななな・光と闇の大決戦 THE MOVIE』がやってるみたいだからそれを見――いてっ!?」
 上映予定を確認し、その内容に思わず興奮してクルスの手を引こうとするテテだったが、これまた美影に強制ストップをかけられてしまう。そして、あまりにも現状を見かねた美影はテテに耳打ちでミリアリアのことを伝える。
(テテ、ちょっと! ――ミリアリアを見て気づかないの? なるべくならクルスと二人でいさせてあげたいから……二人を応援してあげましょう?)
 美影の言葉にテテは多少不満そうにしていたが、ミリアリアのこともわからないわけではなさそうだ。美影のお願いに頷き、ひとまずは引くことにしたようだ。
(――そうかなぁ……こういうのって、自然に芽生えると思うんだけど)
 しかしテテは美影へそう自分の考えを伝える。どうやら、この辺りの考えはお互いに違うらしい。
 いつまでも突っ立っているわけにもいかず、全員での話し合いの結果……見る映画は『ロマンス 虹の架け橋』という恋愛映画を見ることになったのだった。

 ――とはいえ、頭でわかってても身体はどうにもならないのが実情である。
 いざ映画が始まると、クルスの隣をうまく陣取ったテテが(もう片方の席にはミリアリア、クルスの後ろには康之が座っている)クルスに色々と小声で話しかけて質問したりなどしている。テテの隣に座っている美影は思わずため息をつきそうになった。
(もう、何が自然によ! 結局邪魔してるじゃない! ……そりゃあ確かにテテの言うこともわからないではないけど、想ってもらいたいって気持ちもあるじゃない。――わからないかなぁ……私の気持ち……)
 物語は終盤に差し掛かったところで、テテを横目でむっと見ていた美影はテテへ悪戯をしてみる。わざと寝たふりをして、テテの肩に頭を寄りかからせていった。ミリアリアはそれに気付いたのか、倣ってクルスの肩へ頭を寄りかからせていく。
「ふわ……美影……?」
「ミリアリアさん……寝ちゃったのでしょうか?」
 互いに視線を合わせるテテとクルス。そこへ、お互いの相手の髪からふわりと流れる香りが二人の鼻をくすぐる。そして、その香りに誘われるようにテテは美影の寝顔(寝てはいないが)を見る。……長い睫に思わず見とれてしまった。
「んぅ……気持ち……伝わってないのかなぁ……」
 そこへ、美影が寝言のつもりでぽつりとつぶやいていく。テテは少しだけ赤くなりながら、視線を外してしまった。
『ああ、伝わったよ――君の気持ちが』
 今のテテの気持ちを代弁するかのように、映画のセリフが流れ……スタッフロールへと入っていくのであった。


「……ミリアリアたちは映画館を出たようだ。もうすぐお昼――次に向かうのは、どこか食べ物屋といったところかな」
 モニカの襲撃に備え、護衛と案内を他の人に任せ(押しつけたともいう)遠くからミリアリアたちの周囲を見ているのは、佐野 和輝(さの・かずき)。すぐ隣にはパートナーであるアニス・パラス(あにす・ぱらす)禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)もおり、それぞれで行動を起こしているようだ。
「うーん……今のところ二人の周囲にモニカはいないみたいだよ」
 アニスは『ディテクトエビル』でミリアリアたちの周囲に近づく害を与えんとする存在――モニカのことだが……の感知をおこなっているが、現在は特に引っかかる様子は無し。もしモニカが襲ってきても傍観の立ち位置を取るため、アニスはクルスにあるボディーガードをつけていた。
「よしよし、きちんと働いてるみたい」
 ……クルスの背中に引っ付く形で、『式神の術』で式神化した《キュゥべえのぬいぐるみ》がいる。もし襲われたら死ぬ気で守れと指示されており、一役買ってくれることだろう。キュゥべえのぬいぐるみ本人は『わけがわからないよ』と思ってるだろうが。
「……ふむ、クルスは現状問題なく動いているようだな。触ることができればもう少し情報を集められるのだが」
 一方、ダンタリオンの書は《使い魔:カラス》を飛ばしており、それを介してクルスを観察しつつ情報を集めているようだ。やはり、機晶姫のゆりかごから見つかったということもあってか観察対象としては十分な価値があるらしい。少しでも知識を吸収しようと、観察を怠らない。
 ……ちなみにこの三人、気づかれないよう行動しているため傍目からは『ショッピングをする一般人』に見えるよう行動中。だがしかし……。
「――ねぇ和輝、心なしか周りの視線が冷やかに感じ……ふにゃっ!? 今なんかゾクってなった! すっごく気持ち悪い視線も感じた……うぅ、怖いよぉ〜」
 ……傍から見た本当の認識。それは『レベルの高い幼女二人を連れて買い物をする兄ちゃん』であり、あまりいい印象で見られていないようだ。
 しかもよりにもよって、アニスとダンタリオンの書をねっとりとした視線で見つめるロリコニストがいたりしたものだから、その視線で『ディテクトエビル』が引っかかってしまったらしい。アニスは視線の恐怖を少しでも抑えようと和輝に抱きついていく。
「邪な視線、私の魔法で燃やs――こら、和輝! 何をする、離さんか!」
 同様に『ディテクトエビル』でロリコニストの邪視線を感じ取っていたダンタリオンの書は、そんな無粋な輩を『ファイアストーム』で燃やしてしまおうと詠唱準備に入るが、それに気づいた和輝が慌ててダンタリオンの書を抱き上げる。
「待て待て待てっ!! ここで騒ぎを起こしたら意味がないだろうが!」
 ……かたや、恐怖に怯え和輝に抱きつくアニス。かたや、癇癪を起こしてるのをあやされるかのように抱き上げられているダンタリオンの書。ロリコニストにとって至福の瞬間を体験している和輝に対し、ロリコニストたちの盛大な舌打ちが響いたのは気のせいだろうか……。


「――思った以上に護衛の数が多いな……それに、この街中で騎士鎧姿はさすがに目立つか」
 裏路地からチラリと視線をミリアリア一行に向け、小さく舌打ちをするモニカ。周囲を見れば、前回戦った面々の顔がちらほらと見える。おそらくは彼らも護衛の任についているのだろう。
 『殺気看破』や『ディテクトエビル』を使われていることを考慮してか、モニカは自らの殺気をうまく抑えながらミリアリアの尾行を続けている。そして何よりモニカがすぐに手を出せない理由は、自身の戦闘スタイルが関係していた。……モニカの騎士鎧姿はこの空京では目立ちすぎるのだ。
「仕方ない……もう少し様子を見るしかなさそうだ」
 下手に目立って警察などの介入があれば元もこうもない。数の分の悪さを痛感したまま、モニカはミリアリアたちの尾行を続けていくのであった……。