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魔剣スレイブオブフォーリンラブ

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「ったく……どうなってんだよ!」

 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は、路地裏の袋小路へと追いつめられていた。

 彼の足もとには、無数の弾痕が刻まれている。
 恐ろしいのは、それが彼を狙ったものではなく流れ弾であった点だ。

「恭也様に近寄るな! このド腐れビ××!!!」
「あんたの方こそ私の恭也に対して馴れ馴れしいのよ! この泥棒猫ッ!!!」
「いや、泉さんは人類の宝です。ここは冷静になって、話し合いで各人が何パーセント泉さんを所有するか決めましょう」
「ふふふ……あとはこの鍋に本人の髪の毛を入れれば惚れ薬が完成するわ……」

 恭也の前で繰り広げられていたのは、女同士の血みどろの争いであった。
 その血みどろの争いを制し、次々とライバル達を屠っていく者達がいた。そう、シャーレットとミアキスの2人であった。

「運命なんて言葉、この前までは全然信じていなかったけど、あの人に出会った今なら信じられる……その恋敵がパートナーだったのも運命なのかな。ねえ、ミアキス!」
「渡さない……誰にも。例え邪魔する相手を殺すことになろうとも、私は一向に構わない!」

 かつて契約を交わしたパートナーであり、恋人同士であったはずの2人は、恭也を巡る争いに勝ち残り、相対していた。
 先に動いたのは、ミアキスの方であった。
 神速、転身功といったスキルを次々と発動させ、自身のスピードを飛躍的に上げていたミアキスは、
 狭い路地裏という地理的要因を最大限に活用し、壁面を凄まじい速さで移動してシャーレットに迫っていた。
 しかし、シャーレットの方もパートナーの能力は十分に理解しているのか、目測でのターゲット捕捉は早々に諦め、片手に持った銃型HC弐式でミアキスの動きを把握し、もう片方の手に持ったマシンピストルで相手の着地ポイントを執拗に狙っていく。

「死ねええエエエエエッ!!!」

 マシンピストルを乱射するシャーレット。だが、ミアキスはそれを見て不敵な笑みを浮かべる。

「爪が甘いわね、シャーレット!」

 ミアキスはなんと、着地ポイントであった壁を則天去私を発動させて破壊し、そのまま壁の向こうへと姿をくらませてしまった。

「な、なんですって?!」

 慌ててミアキスの行方を探すシャーレットだったが、銃型HC弐式の探索範囲は半径10メートルまで。そして、その範囲にミアキスの姿は確認できない。

「クソッ……! これじゃあ、奇襲受け放題じゃない」

 しばし、考えていた様子だったシャーレットは突然何かを思いついたかのように、それまで2人の戦闘を傍らで眺め、逃走の機会を窺っていた恭也の方に近づいてきた。

(逃げないとマズイ……でも、こんな戦闘狂から無傷で逃れる事が出来るのか?!)

 恭也は近づいてくるシャーレットを前にして、戦々恐々としながら頭を働かせていた。

(いくら戦闘狂とはいえ、相手は女だ。俺が今持っているのは、魔剣以外は銃器ばかりで、傷つけずに彼女たちの動きを止めることは出来そうにない。かといって、魔剣を上手く操れる自信もない……一体、どうすればいいんだ?!)

 考えあぐねる恭也を尻目に、シャーレットは恍惚とした表情で彼に抱きつこうとした。

「恭也〜愛してるよぉ!」
「ま、待てっ!」

 しかし、恭也の静止を振り切り、シャーレットは素早く首に手を回す。そして、その瞬間――

「恭也から離れなさい! このファ××ンビ××!!!」

 先ほどまで姿を消していたミアキスが、突然シャーレットと恭也の前に現れた。

「ふふ……かかったわね、ミアキスッ!」

 シャーレットはなんと恭也の後頭部にマシンピストルを突き付けた。

「そこから少しでも動いたら、これが火を噴くことになるわよ?」
「信じられない?! 恭也を人質にするなんてッ!!!」
「あはははは! 例え恭也が死んでも、その死体を防腐処理して保存し、一生あたしの物にしてあげるから安心してね」

 シャーレットはそう言って、緊張によって恭也の首筋から流れ落ちる汗を舌で舐めとり、満面の笑みを浮かべる。

「エンバーミング……なるほど、その手があったか……」

 ミアキスの方も何故かシャーレットの発言に感心していた。

「て、てめえら! 勝手に人の事話してんじゃねえよ」

 恭也は必死になってシャーレットから逃れようとするが、死の恐怖で冷静さを失い、一向に腕を振りほどくことが出来ない。

「さあ、ミアキス! 両手をあげて観念なさいっ! 抵抗しないなら、パートナーのよしみで命までは取らないであげるわ」
「……完敗だわ、シャーレット。でも、こんな方法で勝っても、あなたが恭也に相応しい相手と認められるのかしら?」
「なんですって?」

 ミアキスの発言にシャーレットは食って掛かる。

(この隙になんとか打開策を考えないと……!)

 恭也はシャーレットとミアキス、双方の戦闘スタイルについて分析を始めた。

(探索能力のある銃型HC弐式とマシンピストルを持つシャーレットは中〜遠距離戦を得意とし、驚異的なスピードと自身の身体を武器とするミアキスは典型的な近距離戦タイプだ。一方、俺の方は女相手に銃を使うわけにもいかず、不慣れな魔剣しか残されていない……一体どうやってこの差を埋めればいいんだ?)

 悩みあぐねる恭也は、口論を続けるシャーレットとミアキスを交互に眺める。

(いや、待てよ……不慣れな魔剣も使い方次第では……)

「この分からず屋! あたしが一番恭也に相応しいに決まってるでしょっ!」
「その自分勝手な性格が合わないと言っているのだろうが!」
「こうなったら力づくで分からせないといけないようね……」
「上等ですよ。この勝負、受けて立ちましょう」

 シャーレットがミアキスと臨戦態勢に入ろうとし、力を緩めた瞬間、恭也は作戦を実行した。

「なっ! 恭也、逃げても無駄よ」

 満身の力を込め、恭也はシャーレットの拘束から逃れる。

「ふふ……シャーレットから離れたなら、今度は私が捕まえてあげるわ」

 ここぞとばかりにミアキスが高速移動で恭也を捕獲しようとする。
 しかし、恭也の狙いは逃げる事ではなかった。

「おっと、てめえらコイツが目に入らないのか!」

 恭也は所持していたアーミーショットガンと魔剣をベルトで固定し、銃剣のようにして構えていた。

(銃の方はハッタリだ。けど、魔剣はこれで俺にとっては使いやすくなったぜ!)

 恭也はニヤリと笑い、シャーレットとミアキスを牽制しながら、ジリジリとその場を離れていった。