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少女に勇気と走る夢を……

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少女に勇気と走る夢を……

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 病院周辺。

「生まれてごめんなさい。あちきは塵以下です。あぁ、この世は終わりです。おしまいですねぇ」
「何が生まれてごめんですか。そんな事を考える暇があったら一日を楽しく過ごすのです。それが青春、若さ、熱さ!! この世が終わりってそう考えているレティの考えが世界破滅!! 終わるどころか目の前にありますよ。生命力に溢れている熱き世界!!!!」

 やたらと暗く悲観的な事を口走るレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)の分身、それを聞いて暑苦しくかつ厳しく応対するミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)の分身。

「……何か生えそうなほどのじめじめですねぇ」
「……暑苦しい」

 本人達は目の前で延々と繰り広げられている分身達のやり取りを眺めていた。
 産婦人科に行った帰りに分身薬を浴び、騒ぎに巻き込まれたのだ。生まれたのは性格が反転した分身達。

「……お気楽、極楽、脳天気なのがあちき。さすがにこれは……」
「とりあえず、私のイメージが台無しという事で」

 眺めていた二人はたまらずに動き出す。レティシアは巨大ハリセンを叩き付ける。ミスティは『ブリザード』で凍らせ、一応の解決を図る。

「何するですか。何も悪い事していないですよねぇ。あぁ、生きててごめんなさい」
 叩かれて半泣きになりいじけたかと思ったらもの凄い速さでどこかに行ってしまった。

「ちょっと!!」
「レティ」
 レティシアとミスティは分身を追いかけた。

「急に雨が降ったと思ったら止んだけど、どうしたんだろう。賑やかだし」
 錬金術ばかりの毎日に息抜きをと空京に遊びに来ていたリアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)は先ほど降った妙な雨に不思議に思い、辺りを見回すもそれほど気にする事なく息抜きを続けた。

 そのすぐ横には

「あの店に行ってみようかな」

 リアトリスにそっくりな分身がいた。分身は、本物がきょろきょろしているうちに手近の店に入って行った。

「次はあの店に入ってみようかな」

 周辺観察を終えたリアトリスは、分身が入って行った店に来店した。本物も分身も互いに気付かないまま。

「なかなか面白いものがあるね」
 店内を見回す分身。

「……これは」
 別の商品を眺めて回るリアトリス。
 うまい具合に鉢合わせをしない二人。

「別の店に行ってみようかな」
 先に分身が店を出て行った。

「他の店にも行ってみようかな」
 分身が出て行ってすぐリアトリスも店を出る。これまた互いに出会う事なく同じ道で同じ店に行く。
 このような事を数回繰り返した後、とうとう出会う時が訪れた。

「……あちきはこの花のように枯れて」

 通りの隅で枯れてしまっている花を屈んでじめじめと見つめるレティシアの分身。

「レティ!?」

 レティシアの分身を発見したリアトリスと分身は思わず声を上げ、ハモってしまった。

「ん?」
 二重になった自分の声に驚き、声のする方に顔を向け、ようやく出会う。

「君は僕?」
 これまたハモる二人。

「……同じで見分けがつかない」
「だったら、僕がリスで君が」
 双子な姿に見分けが付かずに困るリアトリスに分身が名案を思いつく。
「リア。とりあえず、レティの様子がおかしいよ」
 改めてレティシアの方に向き直るリアトリス。

「レティ!」
 再び同時に呼びかけてみる。

「……あちきは生きてる価値の無い人間。世界は終わって真っ暗になってなくなりますよ」
 リアトリスの分身ことリスの呼びかけにも振り向かずにぶつぶつ根暗な事を言い続けるレティシアの分身。

「いつものレティと違うよ。アトリは?」
「どうしようか、アリア?」
 それぞれ様子の違うレティシアに戸惑い、仲間の名前を口にする。二人は目の前のレティシアが分身である事を知らない。

「……二人とも留守番のはず。僕達で何とかしないと!!」
 自分達しかいない事を思い出し、気を引き締めてレティシアの分身に近付いた。

「何があったの? レティ」
 二人同時に話しかける。

「あちきはもうだめですよねぇ」
 振り向かずにぼそぼそとつぶやくレティシアの分身。

 その時、ミスティと本物が現れた。

「レティ、あそこ!!」
「あんな所でじめじめして」
 ミスティが指で示し、レティシアは巨大ハリセンを構えている。

「レティ、ミスティ!!」

 いきなりの登場で驚く二人。

「もうこの世界は終わるんです!!」
 本物を発見するなり、分身は立ち上がってまたどこかに走り去ってしまった。

「もしかしてあのレティは分身?」

 走り去った分身と本物を見比べながら二人のリアトリスは訊ねた。
「そうですよ。性格が反転したみたいで」
「レティ、見失っては」

 レティシアは困ったように答え、どんどん遠くなっていく分身を危惧するミスティの言葉で再び追いかけ始めようとする。

「僕達も手伝うよ」

 当然、二人のリアトリスも手伝う事にした。

 四人は追いかけに追いかけてレイナとリリのいる公園に辿り着いた。

「あぁ、お嬢様のお髪を心ゆくまで触れる事ができるなんて」
 長い時間、判別という名目で二人のレイナの髪を梳かしていたリリは幸せそのものだった。

「リリ」
「分かりましたか?」

 髪を梳かすのが少し長かったため二人のレイナは痺れを切らして訊ねた。

「……あ、はい。あまりにもよく出来ていまして、これだけではまだ……」
 リリははっとし、この幸せの時間を終わらせたくないので次の判別方法を考え始めていた。

 そんな時、分身と追いかけっこをする四人が現れた。

「あ、ミルトリアさんにケーラメリスさん」
 レイナとリリを発見したミスティが二人に声をかけた。

「どうしましたか?」
 本物のレイナが訊ねた。

「あちきの分身を見ませんでしたか。公園に入ったはずなんですけどねぇ」
 レティシアはここに来た理由を話した。

「……分身ですか」
 リリは言葉を濁らせた。レイナの判別という幸せに浸っていてそれ以外の事は見えていなかった。
 答えたのは二人のレイナだった。

「……確か、ずっと向こうにある池の方に行きましたよ」
「何かつぶやきながら」
 レイナが行方を話し、分身がおかしな様子を話した。

「……池?」
 二人のリアトリスが同時に聞き返した。

「池と言えどもそれほど深くはないですよ」
「橋が架かっています」

 二人のレイナは目的場所について詳しく話す。

「ここで捕まえましょうかねぇ」
「暗い性格で池という事は……」

 ここまで散々振り回されているので捕まえたいレティシアと冷静に分身が何をしようとしているのかを考えるミスティ。

「橋が架かってるって事だから挟み撃ちで」
 捕獲方法を考える二人のリアトリス。

「そうですねぇ」
 レティシアはリアトリスの計画に従う事にした。ちょうど四人いるので二人一組になって両側から攻めればいい。

「分身のリスがミスティと一緒で」
「リアがレティと一緒」
 ここで二人のリアトリスは二手に分かれる事に。

「それじゃ、別れて」
 ミスティの合図で二手に分かれた四人は捕獲作戦に入った。

 再び静かになり、リリは必死に考え抜いた判別方法を口にした。

「では、お嬢様、次の判別方法は……私の手を握って下さいませ」

 両手をレイナ達の前に差し出した。

「手を握るのですか?」
「それで分かりますか?」

 じっと見つめる二人のレイナ達。

「えぇ、それはもう!」
 力強く答え、レイナの疑問を吹っ飛ばしてしまう。
 レイナ達はそれぞれリリの手を握った。リリはこの上なく幸せそうにしていた。

「……もう、さよならです」

 橋の上に立つレティシアの分身。何をしようとしているかは明白である。

「危ない!!」

 二人のリアトリスは『超感覚』で白い犬耳と長い尻尾を生やし、『バーストダッシュ』で池に飛び込もうとする分身を取り押さえた。

「ちょ、止めないで下さいよ」
 ジタバタと暴れる分身。

「どんだけ暗いんでしょうかねぇ」
 レティシアは呆れたように自分の分身と池を見比べた。レイナの言葉通り池は深くはなかった。

「……とりあえず、このままでは」
 暴れるレティシアの分身を見たミスティは、分身を大人しくさせる必要がある事を言葉にしようとした。

「……そうだね、大人しくして貰おう」
「それなら、リア、眠らせよう」

 ミスティにうなずき、取り押さえているリアトリス達はレティシアの分身を『ヒプノシス』で眠らせた。何とか無無事捕獲完了。