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少女に勇気と走る夢を……

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少女に勇気と走る夢を……

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「変な雨が降ったと思ったら、僕? しかもネコ耳魔法少女の姿?! なんで!?」

 突然降り出した分身薬の雨によって榊 朝斗(さかき・あさと)の隣に可愛らしいピンクのドレスに白色のエプロンのメイド姿のキス魔な分身がいた。ふわふわのフリフリに可愛らしいリボン付きでネコ耳に尻尾が萌える。魔法少女らしくステッキも持っている。

 雨が止んだ頃に被害に遭わずに済んだルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)が現れた。

「目の前に朝斗……じゃなくてあさにゃんが?! あれ、朝斗は目の前に……えっ!?」

 ルシェンは異常事態に驚くも表情筋が弛緩していた。
 そうこうしているうちにキス魔な朝斗ことあさにゃんはどこかに走り去ってしまった。
「朝斗、あの朝斗じゃない朝斗を止めないと取り返しのつかない事になりますよ。急ぎましょう」

 アイビスは驚いている朝斗とあさにゃんに遭遇して顔がぐちゃぐちゃになっているルシェンを奮い立たせた。

「そうだね、アイビス。ルシェン、追うよ」
 アイビスの言葉で我に返り、キス魔あさにゃん捜索を開始。

「あ、はい。あさにゃん、いえ朝斗!」
 何とか我に返り、ルシェンも捜索に急いだ。

 しかし、どこを捜してもネコ耳や尻尾の先っぽさえも見つからない。

「……こんな事になるなんて、たまたま用事で来てただけなのに」
 朝斗はため息をつきながら通りを急いでいた。たまたま空京に用事があって来ていただけなのにまさかこんな騒ぎに巻き込まれるとは思いもしていなかった。

「どこにもいませんね。思ったより素早いみたいです」
 アイビスは周辺を抜かりなく見渡している。

「あさにゃん、あさにゃん、あさにゃん」
 ルシェンも捜索はしているが、頭の中は可憐なネコ耳魔法少女の微笑みでいっぱい。

「朝斗、人に聞いてみましょう」
 アイビスは暴れん坊の自分の分身を観察している朱鷺にあごをしゃくった。

「そうだね。東さん!!」
 朝斗は、キス魔なあさにゃんの行方を聞こうと朱鷺に声をかけた。

「どうしましたか?」
 ゆっくり振り向き、やって来た朝斗達を迎えた。

「僕の分身を見なかった?」
「あさにゃんを見かけませんでしたか?」

 朝斗とルシェンが同時に朱鷺に訊ねた。

「分身? あさにゃん?」
 二人の質問がかぶり、聞き取れなかった朱鷺は聞き返した。

「ネコ耳にメイド姿をした朝斗です。キス魔の分身です」
 アイビスが二人に代わって朱鷺に分身の特徴を教えた。

「……ネコ耳ですか」
 朱鷺はしばらく自分の周辺を通りかかった人々の姿を思い出していた。

「どう? 見かけた?」
 朝斗がもう一度訊ねてみる。

「見かけました。女の子にキスをしながら歩き回っていましたよ。確か、この先にある店に入って行きました」
 思い出した朱鷺は、行方を三人に教えた。暴れん坊な分身を観察しながらいろんな人達の分身に遭遇している朱鷺。

「本当に!?」
 朝斗は朱鷺に教えて貰った道に顔を向けた。

「朝斗、また遠くに行かないうちに急ぎましょう」
 あさにゃんの居場所が判明してやる気に溢れたルシェンは誰よりも早く走り出していた。

「……ルシェン。ありがとう、東さん。行こう、アイビス」
 ルシェンの俊敏さに呆れつつも朱鷺に礼を言って朝斗も急いだ。

「はい」
 力強くうなずき、アイビスも二人に続いた。
 行った先にさらなる惨劇が待っているとも知らずに。

「おお、妙な雨が降ったと思ったら何やら我が分身が現れたぞ。よし、これを利用して悪事を働くとしよう」

 分身薬を浴びたドクター・ハデス(どくたー・はです)の隣には性格はそのままのキス魔なハデスがいた。

「我が分身怪人、キス魔ハデスよ! 思う存分暴れるがいい!」
 世界征服を達成するために使えると知ったハデスは、大幹部らしく指示をした。
 キス魔ハデスは楽しそうに歩いている女の子をロックオンし、襲いに行った。

「な、何者!?」
 突然現れたキス魔ハデスに怯える女性。

「フハハハ! 我が名は悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス!」
 ハデスは、女性の期待に応え、名乗った。
「そして、我が名は悪の秘密結社オリュンポスの怪人、キス魔ハデス!」
 ハデスに続き、キス魔ハデスも名乗り、中断していた悪事を実行。

「キ、キス魔!?」
 女性は青い顔になるも手遅れだった。

「まだまだこれからだ。我が分身たるキス魔ハデスよ、空京の街に混乱と混沌をもたらしてくるのだっ!!」
 地面に座り込んで泣いている女性を見やり、高らかに声を上げた。まだまだ悪事は始まったばかり。

「ククク、心得た!」
 キス魔ハデスはそう言い、手近にいる女性に襲いかかり始めた。
 まだまだこれからだ。

「……何、この有様は」
 高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)は道々に泣いている女性が溢れている通りを歩いていた。
「……妙な雨が降ってから街がおかしくなったような」
 咲耶は何が起きたのかその手掛かりが無いか辺りを見回していたが、すぐに原因と遭遇した。

「フハハハ! 我が世界征服の礎になるのだ!!」

 聞き覚えのある声に咲耶は足を止めた。

「……この声、兄さん!? もしかして、この惨事は」
 
 咲耶はすぐに確認のため声のする方に行った。

「やめてーーーー」

 響き渡る女性の悲鳴。

「ククク、素晴らしい悲鳴だ」
 愉快そうにハデスは分身の働きを眺めていた。
 次々と女性達はキス魔ハデスに襲われ、犠牲者の海が広がるばかり。

「近寄らないでよ!!」

「ククク、戦闘員達よ、ターゲットの手足を押さえ、身動きできなくするのだっ!」

 抵抗や逃げようとする女性もいるが、『行動予測』と『メンタルアサルト』を持つキス魔ハデスには無駄であり、ハデスの『優れた指揮官』と『士気高揚』によって戦闘員である親衛隊員達やキス魔ハデスへのサポートは完璧だった。

 しかし、世界征服の邪魔をする人物が二人のハデスの前に現れた。

「ちょっと、兄さん! というか兄さん達? 何やっているんですかっ!!」

「咲耶か、見ての通り作戦中だ」
 ハデスは現れた妹に不敵な笑みを浮かべながら答えた。

「この街を恐怖に染め上げているところだ」
 キス魔ハデスも答える。足元には犠牲者がいた。

「恐怖って、女性に無差別にキ、キスなんて、ハレンチです!!」

 咲耶は顔を赤くしながら兄達を止めようとするが、

「咲耶よ、妹とは言え、我が作戦の邪魔をするなら容赦はせんっ! さあ行け、キス魔ハデスよっ!」

 ハデスの指揮により戦闘員達は速やかに咲耶を拘束し、

「ちょ、ちょっと、戦闘員さん達、離して下さいっ!!」
 何とか抜け出そうにもがっちりと固められて動けない。

 そこにキス魔ハデスが襲いに来る。

「ダ、ダメっ……! あっ、その……に、兄さんならいいんですけど、こ、こんなとこじゃっ……」
 間近に迫るキス魔ハデスに思わずブラコンを発揮する咲耶。
 危機迫る咲耶の元に分身排除に勤しむ恭也が現れた。

「悪行はそこまでだぜ!」
 『スプレーショット』が咲耶を拘束している戦闘員達に命中し、咲耶は自由を取り戻した。

「あ、ありがとございます」
 咲耶は速やかにキス魔ハデスの悪行から逃れた。

「邪魔をするというのなら何人たりとも容赦はせん、行け!!」
 ハデスは突然現れた恭也に向けて戦闘員達を向かわせた。

「……何かヒーローだな」
 恭也は小さくつぶやきながらマシンピストルを撃ちまくる。
 しかし、分身とは違って相手は強い戦闘員達。

「くっ、ま、負けねぇよ」
 何とか奮戦するも明らかに負け戦。登場した時と違って傷だらけだ。

「フハハハ」
 高らかに笑う二人のハデス。

 とどめを刺そうと戦闘員達が恭也に襲いかかった時、

「面白そうだな」
 そんな一言と共に戦闘員達をフリーズブレイドによって凍らせてしまったのは廉の分身だった。

「……こんなものか」
 好戦的な廉の分身は、あっさりと終わった戦闘につまらなさそうに言葉を洩らした。

「た、助かったぜ」
 恭也はほっと一安心。
 しかし、その安心は一瞬だった。

「我が作戦の障害となる邪魔者は全て片付けろ!!」
 ハデスの高らかな命令によって先ほどより大勢の戦闘員達が廉の分身に襲いかかる。

「守れなくなるから俺から離れるなよ」
 廉の分身は後ろにいる公台の分身に言い、戦闘態勢に入る。

「……守って貰う必要があるのはそちらではないか」
 むっとして言い返す公台の分身。言葉と裏腹に最初から援護するつもりでしっかりと構えている。

 まさに戦闘が始まろうとした時に

「……わん」
「いたぞ!!」
「早く捕まえますぞ」
 まっ先に見つけたネヴィメールに呼ばれ、本物の廉達が登場した。

「……む、来たか」
 廉の分身は厄介な者が来た事を察し、戦闘員達を刀で斬り伏し、公台の分身を連れて行ってしまった。追いつかれてしまえば、戦闘に飛び回る事が出来なくなるので。

「邪魔をするぞ」
 と言い恭也の横を通る廉。
「いや、助かった」
 恭也は礼を言った。
「失礼します」
 公台も邪魔をしてしまった事を咲耶に一言言って横を通る。
『分身捜索中です』
 ネヴィメールはこの場にいる人達に自分達の状況が分かるように紙を見せながら二人の後を急いだ。
「あ、はい。気を付けて」
 思わず見送ってしまう咲耶。
 嵐が去り、しばらくの沈黙。この後、自由になった咲耶も戦闘員達との戦いに参加し、解除薬散布まで耐えた。