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【神劇の旋律】ストラトス・チェロを手に入れろ

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【神劇の旋律】ストラトス・チェロを手に入れろ

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第四章 トマドイと、ウタガイと

「オレには、あの三人がそんなことをするとは思えないんだがね」
 そう言って、世 羅儀(せい・らぎ)は一つため息をついた。
 あくまでモンスター騒ぎに対処するためにセニエ氏のところを訪れていたことや、叶 白竜(よう・ぱいろん)の国軍中尉の肩書きのおかげもあり、三姉妹のように門前払いを食らうことは避けられた。
 その代わり、現在の状況を確認するため、すっかり怒り心頭に達しているセニエ氏の話を長々聞くことになり――羅儀は「それは違う」という言葉を何度飲み込んだか知れなかった。
「むしろ、あの三人を陥れようとしてるヤツがいる、って可能性の方が高いな」
 そんな羅儀の言葉に、白竜は淡々と答えた。
「私もそうだと信じたいですがね。残念ながら、今ある状況証拠からはクロの可能性も否定できません」
 とっさに反論しようとする羅儀だったが、確かに「彼女たちが犯人ではない」という決定的な証拠はなく、それがなければセニエ氏を納得させることなど到底できそうもない。
 では、その「決定的な証拠」として、一体何を用意すればいいのだろう?
 考え込む羅儀に、白竜は表情一つ変えずにこう続けた。
「悩む必要はありません。我々がやるべきことはモンスター退治と主犯の捕縛でしょう」
「そうか、そうだよな。その『主犯』を突き出せば、事件の真相もはっきりするよな」
 確かに、そう考えれば彼らのやるべきことは何一つ変わっていない。
 羅儀の気持ちも少し軽くなったが、彼にはまだ一つだけ心配なことがあった。
「けど、彼女らに協力する者は多いだろうからな……先走った行動に出るやつがいなけりゃいいんだが」





「邸宅のある木や、その周囲の開けた場所には近づけない、となると……」
 事前に調べてあったこの一帯の大まかな図面を囲んで、三姉妹と協力者たちは次の策を考えていた。
「外周の森で待ち伏せるか、こちらから森の中に調査に行くか。
 いずれにしても、向こうの雇った契約者とははち合わせない方がいいでしょうね」
 真人らを中心に作戦を立案するも、やはり当初の予定と比べるといろいろ難しくなったことは否めない。
「なるべく穴を開けないように、となると、だいぶ広範囲に散る必要がありますね」
 六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)が指摘したのも、その中の一つである。
「敵がピンポイントで突破を図ってくると苦しそうですが……まあ、その場合は無理をせず、邸宅にいる者に任せてもいいでしょうね」
 そう一言で片づけたのは、勝負どころではなくなっていささか不機嫌な凶司である。
 確かに、別宅の側にも護衛要員がいる以上、外部からの侵入者はそちらにぶつけてもいいかもしれない。
「それより問題なのは、その『セニエ氏が雇った契約者』が、本当に信用できるかどうか、ですよ」
「ん、それどういうこと?」
 きょとんとした顔のパフュームに、凶司は一つため息をついてこう説明した。
「つまり。向こうは僕らが、というよりパフュームさんたちが犯人だと決めてかかっているわけでしょう?
 だとすれば、その分『それ以外の人間』に対する警戒は薄くなるじゃないですか」
「ということは……向こうにも敵の内通者が紛れているかもしれない、と?」
 深刻そうな表情を浮かべる麗華・リンクス(れいか・りんくす)
「結局、自分たち以外は信用できないという状況は変わらないわけだろう」
「そういうことですね。そして内通者が直接チェロを狙った場合、現状ではこちらにはどうすることもできない」
 涼介の言葉に答えつつ、凶司が一番の問題点を指摘する。
「僕が黒幕の立場なら、こうしてこちらの動きを封じ、同時にセニエ氏らの目がこちらに向いている隙に、内通者を使って直接チェロを盗み出しますよ」
「何だか気分が悪いわね。それじゃ黒幕の手の上で踊らされてるみたいじゃない」
「だが、このままではそうなってしまう。だからこそ、一刻も早く真犯人を捕縛する必要がある」
 ふくれるラブ・リトル(らぶ・りとる)を、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)がなだめる。

 だが、その横で、イリス・クェイン(いりす・くぇいん)は全く別のことを考えていた。
 もともと彼女たちは三姉妹の知り合いではなかったが、「依頼を受けに来る途中で」彼女たちと出会って意気投合し、一行に加わっていたのである。
 とはいえ、このような経緯であるから、イリスたちに疑いの目を向けるものも皆無ではなく、イリスはそのことに内心ではだいぶ腹を立てていたのである。
(相手にこれだけ振り回されておいて、まだ振り回されてやろうなんてお人好しが過ぎると思わない?)
 そんなイリスの考えに気づいているものは、パートナーのクラウン・フェイス(くらうん・ふぇいす)だけだった。